がん患者さんの医療費・生活費 Q&A
医療機関でがん治療中の方やその家族の方向けに開催しているお金の相談会にも、医療費や生活費のやりくりについての相談は数多く寄せられます。
今回は、高額療養費制度や傷病手当金、障害年金などについて、よくある質問にがんライフアドバイザー®がQ&A形式で答えます。
Q2. 先月まで丸3か月間の休職をし、今月になり復職しました。しかし、体調が優れない日もあり、数日欠勤をしました。傷病手当金は1年6か月分支給されると聞きましたが、数日だけ休んだ月も、1か月丸々休んだ月と同じように、1か月分としてカウントして傷病手当金が支給されるのでしょうか。

A.
傷病手当金は、病気休業中の生活を保障するために設けられた健康保険の制度です。社会保険に加入して勤めている方は、がんの療養で休職しても、この傷病手当金のおかげで、一定期間、収入が途絶えることはありません。
支給開始日から1年6か月後に達する日までが対象となります。例えば、支給開始日が2023年1月1日の方は、1年6か月後に達する日である2024年6月30日までの暦に従った日数の547日分、支給開始日が2023年7月15日の方であれば2025年1月14日までの日数の550日分が支給されることになります。1年6か月分でも、支給開始日によって1~3日分の差があるのは、あまり知られていない実際のところです。

2020年7月2日以降に傷病手当金が支給開始となった方は、もし、支給期間中に途中で就労して傷病手当金が支給されない時期があっても、期間に縛られることなく、支給対象と定められた日数分が支給されます。
傷病手当金の制度説明の資料等にある「1年6か月」から、1か月ごとに支給されるように思われがちですが、傷病手当金は支給対象となった日ごとの支給です。申請に必要となる会社からの勤務状況および賃金支払状況と、主治医の労務不能状況の報告も、申請書類には日ごとで記載されます。つまり、出勤した日と就労不能で休んだ日がある月は、その日数分ずつ、会社からの給与と健康保険からの傷病手当金の収入があるということになります。

ポイント

休職期間が長くなってくると、傷病手当金はいつストップしてしまうのだろうと、不安が募る方も少なくありません。お金の見通しが立てられると、漠然とした不安を和らげられます。支給開始になった日から1年6か月後まで何日あるか数えておき、何日分受け取ったか記録しておくことをおすすめします。
参考文献:全国健康保険協会ホームページ「傷病手当金」
厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」
(2023年5月12日閲覧)
Q3. これまでは入院して病状管理をしてもらっていましたが、在宅酸素療法を受けながら自宅での療養に切り替えようと思っています。入院中はがん保険から入院給付金が出ていたので助かっていましたが、在宅療養になると出なくなり、生活に困ります。何か受け取れるお金はないでしょうか。

A3.
保険会社からの給付金が、治療や生活の経済的な大きな支えになっている方も少なくないでしょう。「入院だと加入している保険から給付金が出るので、入院して治療を受けられると経済的にありがたい」という声は時折耳にします。しかし、医療保険やがん保険には、手術給付金や入院給付金など、医療機関で治療を受けるときの保障は数多くあるのに対し、在宅療養を保障する商品は種類も内容も限られているのが現状です。
受給にはいくつか要件が揃わないといけませんが、24時間常に在宅酸素療法を施行しており、軽易な労働以外の労働に常に支障があると認められる程度の場合には、障害厚生年金3級と認定されます。障害厚生年金3級の最低保障額は年間で596,300円(2023年度)、定期収入として2か月に1度、約99,000円以上を受け取れます。臨床症状や検査成績、具体的な日常生活状況等によっては、2級もしくは1級の等級に認定される場合もあり、受給できる金額は増額します。
既に退職していたとしても、初診日に厚生年金に加入していた場合は障害厚生年金が請求できます。受給できるための要件を満たしているか、年金事務所で確認してみると良いでしょう。
ポイント

在宅酸素療法だけでなく人工肛門や尿路変更術などの身体機能変化も障害年金の対象です。がん治療の副作用による倦怠感やしびれ、痛みなどの内部障害でも、生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取れる可能性があります。
障害年金は安定した収入になり、生活を支えてくれますが、自ら請求の手続きをしないと支給されません。受給できる状況でなくても、障害年金について知っておいてほしいと思います。
Q4. 休職中で傷病手当金を受給して生活しています。住宅ローンの支払いの金額が大きく、預貯金を切り崩しています。生きている分だけ預貯金が減っていくと思うと辛くなります。ちなみに、住宅ローンは死亡すると残金がゼロになる保険に入っています。どうしたらよいでしょうか。

A4.
住宅ローンの契約時に加入する「団体信用生命保険」は、死亡または契約で決められた高度障害状態に該当したときに、住宅ローンの残高がゼロになる保険です。この場合の高度障害は、がんが理由で該当するような状態ではないので、もし、がんになったときのローンの免除を望むなら、がん保障がついた団体信用生命保険への加入が必要です。
収入が減る中での変わらない固定費と医療費の支出で、厳しい家計状況が続く場合、住宅ローンを借りている金融機関に、今後の返済の見直しを相談してみてはいかがでしょう。金融機関は、延滞をせずに返済できるよう、家計状況に応じた返済計画の変更(条件変更)を検討してくれるでしょう。
返済計画の変更を相談するにあたり、具体的な数字や日数の話ができることが前提となります。つまり治療期間や休職期間の目途が立ち、家計状況をきちんと把握できていて、毎月支払える金額が分かっていると相談もスムーズです。
返済計画の変更のチェック項目には、返済期間、返済額が挙げられます。返済期間を延ばす変更をすれば、毎月の返済額を減らすことができます。ただ、総返済額は当初の返済計画よりも増えてしまうので、長期的な視点を大切にしながら、辛くならずに無理なく返せる金額での返済プランを相談しましょう。
ポイント

金融機関に相談に行く際は、事前に予約を取り、本人確認書類や返済予定表、源泉徴収票や確定申告書、通帳など収入が分かるものを持参すると良いでしょう。
金融機関を、借金を取り立てる相手だと怖れるのではなく、返済できるように契約を見直してくれる相手と捉え、治療や休職の見通し、現在の収支状況を金融機関にきちんと伝えて相談してみることをお勧めします。
参考文献:一般財団法人 住宅金融支援機構
(2023年5月12日閲覧)
Q5. 失業給付を受給しながら就活している途中で再発転移が分かり、病状的に再就職が難しくなってしまいました。失業給付は打ち切りでしょうか? この先、収入が無くなってしまうと困ります。

A5.
失業給付(雇用保険の基本手当)は、就職しようとする積極的な意思と、いつでも就労できる能力があることが受給要件となっています。そのため、失業保険を受給中に体調が悪化し、求職活動ができなくなると、失業給付は支給されなくなってしまいます。
しかし、収入が途絶えてしまうわけではありません。15日連続で就労不能という医師の証明により、失業給付が受け取れる日数からすでに支給された日数を差し引いた分、言い換えれば支給されるはずだった失業給付の残り分が、傷病手当に切り替えて支給されます。受け取れる傷病手当の日額は、失業給付の基本手当の日額と同額です。つまり、受け取る予定にしていた失業給付と変わらぬ収入を得られるというわけです。
申請には専用の書類「傷病手当支給申請書」が必要です。ハローワークから書類を取り寄せ、傷病名や就労不能期間などを主治医に記入してもらい、ハローワークに提出しましょう。
ポイント

傷病手当と聞くと、健康保険の傷病手当金が頭に浮かぶ方が多いのではないかと思いますが、実は雇用保険にも傷病手当という制度があるのです。
また、30日以上就労不能の場合には、傷病手当として受け取るのではなく、失業給付の受給期間を延長して、求職活動再開後に失業給付の受給を目指す方法もあります。
自分の状況にはどちらの方法が良いか、ハローワークの窓口で相談してみましょう。
参考文献:厚生労働省:ハローワークインターネットサービス 基本手当について
(2023年5月12日閲覧)
(2023年8月更新)