がん患者さんの医療費・生活費 Q&A

医療機関でがん治療中の方やその家族の方向けに開催しているお金の相談会にも、医療費や生活費のやりくりについての相談は数多く寄せられます。
今回は、高額療養費制度や傷病手当金、障害年金などについて、よくある質問にがんライフアドバイザー®がQ&A形式で答えます。

Q1. 通院での点滴と、自宅で飲む薬の両方で抗がん剤治療をしています。点滴後の病院の会計も、調剤薬局の会計も、医療費の支払いが多くなっています。高額療養費制度のしくみはどうなっているのですか?調剤薬局は2か所利用しているのですが、1か所にした方が安くなるのですか?

A1.

高額療養費制度は、療養生活を送る中で、最も利用する可能性がある日本の公的制度です。高額かつ長期化するがん治療の経済的負担を大きく軽減できる制度ですが、少し複雑で不便な面も持ち合わせています。

医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が、月初めから月末までの1ヶ月間で自己負担額の上限を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。医療機関や薬局の窓口での支払い時に、高額療養費の支給を受けるために、高額な治療が予定されている場合は、あらかじめ「限度額適用認定証」を加入先の保険者からもらっておくと良いでしょう。最近では、マイナンバーカードを保険証として利用していると、医療機関などに導入されている機器により、限度額適用認定証が無くても対応してもらえます。詳しくは「高額療養費の手続きについて教えて!」や「『限度額適用認定証』って、いつ、どうやって手続きするの?」をご参照ください。

例:70歳以上・年収約370万円~770万円(3割負担)の場合 100万円の医療費で、窓口の負担(3割)が30万円かかる場合…6月1日〜6月30日に医療費100万円、窓口負担30万円。高額療養費として支給 30万円-87,430円=212,570円。自己負担の上限額80,100円+(100万円-267,000円) ×1%=87,430円。212,570円を高額療養費として支給し、実際の自己負担額は87,430円となります。

※自己負担額の上限は年齢や所得によって異なる
厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへより引用一部改変

複雑で不便な一例は、医療機関で診察を受け、その医療機関で発行された処方箋により調剤薬局で薬を処方(院外処方)してもらった場合です。

これらは同じ1つの診療行為とみなし、医科分の自己負担額と調剤分の自己負担額を合算して高額療養費の計算ができます。しかし現在、処方箋を受け渡した医療機関と調剤薬局どうしであっても、支払いに関しては繋がっておらず、いったんそれぞれの窓口で高額療養費制度の自己負担額の上限まで支払う必要があります。そのため、医療機関でたくさん支払ってきたのに、また調剤薬局の窓口でも高い金額を請求されてしまうのです。

病院での窓口支払いA+調剤薬局での窓口支払いB=1か月の医療費として合算→自己負担上限額の超過分が、3か月後に払い戻しされる

そこで、最終的に高額療養費制度による1か月の医療費の計算は、薬局での支払い額と処方箋を発行した医療機関での支払い額と合わせて再計算ができることから、医療費の払い戻しを受けられる可能性も考えられます。加入先の公的医療保険によっては、自動で払い戻されるのではなく、自分で手続きをしなければ払い戻しがされない保険者もあるので、確認が必要です。

また、利用している薬局が1か所であっても2か所でもあっても、発行した医療機関に紐づく形で計算し直すことになるので、高額療養費制度のしくみからすると、薬局を1か所にした方が必ず医療費が安くなるということではありません。詳しくは「毎月の治療費の負担を軽くするしくみはあるの?」をご参照ください。

ポイント

高額療養費制度のルールは、とても複雑です。
「高額療養費制度の説明を聞いたときに言われた自己負担額より、実際に支払っている金額の方が高い」という声はよく聞かれます。払い戻しがされていないことだけでなく、高額療養費のルールによって、計算には含めない金額が含まれていたことや、合算できないことも考えられます。詳しくは「ここが知りたい!お金のはなし 病院でかかるお金編」でも解説しています。
医療費の自己負担額に関する相談の際は、確認できるように1か月分の医療機関での支払い全ての領収書を準備しておくと良いでしょう。

参考文献:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ別ウィンドウで開きます。PDFで開きます。
(2023年5月12日閲覧)

Q2. 先月まで丸3か月間の休職をし、今月になり復職しました。しかし、体調が優れない日もあり、数日欠勤をしました。傷病手当金は1年6か月分支給されると聞きましたが、数日だけ休んだ月も、1か月丸々休んだ月と同じように、1か月分としてカウントして傷病手当金が支給されるのでしょうか。

A.

傷病手当金は、病気休業中の生活を保障するために設けられた健康保険の制度です。社会保険に加入して勤めている方は、がんの療養で休職しても、この傷病手当金のおかげで、一定期間、収入が途絶えることはありません。

支給開始日から1年6か月後に達する日までが対象となります。例えば、支給開始日が2023年1月1日の方は、1年6か月後に達する日である2024年6月30日までの暦に従った日数の547日分、支給開始日が2023年7月15日の方であれば2025年1月14日までの日数の550日分が支給されることになります。1年6か月分でも、支給開始日によって1~3日分の差があるのは、あまり知られていない実際のところです。

支給開始日 2023年1月1日〜1年6か月後 2024年6月30日

2020年7月2日以降に傷病手当金が支給開始となった方は、もし、支給期間中に途中で就労して傷病手当金が支給されない時期があっても、期間に縛られることなく、支給対象と定められた日数分が支給されます。

傷病手当金の制度説明の資料等にある「1年6か月」から、1か月ごとに支給されるように思われがちですが、傷病手当金は支給対象となった日ごとの支給です。申請に必要となる会社からの勤務状況および賃金支払状況と、主治医の労務不能状況の報告も、申請書類には日ごとで記載されます。つまり、出勤した日と就労不能で休んだ日がある月は、その日数分ずつ、会社からの給与と健康保険からの傷病手当金の収入があるということになります。

支給開始日 2023年1月1日〜546日分が支給

ポイント

休職期間が長くなってくると、傷病手当金はいつストップしてしまうのだろうと、不安が募る方も少なくありません。お金の見通しが立てられると、漠然とした不安を和らげられます。支給開始になった日から1年6か月後まで何日あるか数えておき、何日分受け取ったか記録しておくことをおすすめします。

参考文献:全国健康保険協会ホームページ「傷病手当金別ウィンドウで開きます
厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます別ウィンドウで開きます
(2023年5月12日閲覧)

Q3. これまでは入院して病状管理をしてもらっていましたが、在宅酸素療法を受けながら自宅での療養に切り替えようと思っています。入院中はがん保険から入院給付金が出ていたので助かっていましたが、在宅療養になると出なくなり、生活に困ります。何か受け取れるお金はないでしょうか。

A3.

保険会社からの給付金が、治療や生活の経済的な大きな支えになっている方も少なくないでしょう。「入院だと加入している保険から給付金が出るので、入院して治療を受けられると経済的にありがたい」という声は時折耳にします。しかし、医療保険やがん保険には、手術給付金や入院給付金など、医療機関で治療を受けるときの保障は数多くあるのに対し、在宅療養を保障する商品は種類も内容も限られているのが現状です。

受給にはいくつか要件が揃わないといけませんが、24時間常に在宅酸素療法を施行しており、軽易な労働以外の労働に常に支障があると認められる程度の場合には、障害厚生年金3級と認定されます。障害厚生年金3級の最低保障額は年間で596,300円(2023年度)、定期収入として2か月に1度、約99,000円以上を受け取れます。臨床症状や検査成績、具体的な日常生活状況等によっては、2級もしくは1級の等級に認定される場合もあり、受給できる金額は増額します。

既に退職していたとしても、初診日に厚生年金に加入していた場合は障害厚生年金が請求できます。受給できるための要件を満たしているか、年金事務所で確認してみると良いでしょう。

ポイント

在宅酸素療法だけでなく人工肛門や尿路変更術などの身体機能変化も障害年金の対象です。がん治療の副作用による倦怠感やしびれ、痛みなどの内部障害でも、生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取れる可能性があります。
障害年金は安定した収入になり、生活を支えてくれますが、自ら請求の手続きをしないと支給されません。受給できる状況でなくても、障害年金について知っておいてほしいと思います。

参考文献:日本年金機構「障害年金別ウィンドウで開きます
国民年金・厚生年金保険「障害認定基準別ウィンドウで開きます。PDFで開きます。
(2023年5月12日閲覧)

Q4. 休職中で傷病手当金を受給して生活しています。住宅ローンの支払いの金額が大きく、預貯金を切り崩しています。生きている分だけ預貯金が減っていくと思うと辛くなります。ちなみに、住宅ローンは死亡すると残金がゼロになる保険に入っています。どうしたらよいでしょうか。

A4.

住宅ローンの契約時に加入する「団体信用生命保険」は、死亡または契約で決められた高度障害状態に該当したときに、住宅ローンの残高がゼロになる保険です。この場合の高度障害は、がんが理由で該当するような状態ではないので、もし、がんになったときのローンの免除を望むなら、がん保障がついた団体信用生命保険への加入が必要です。

収入が減る中での変わらない固定費と医療費の支出で、厳しい家計状況が続く場合、住宅ローンを借りている金融機関に、今後の返済の見直しを相談してみてはいかがでしょう。金融機関は、延滞をせずに返済できるよう、家計状況に応じた返済計画の変更(条件変更)を検討してくれるでしょう。

返済計画の変更を相談するにあたり、具体的な数字や日数の話ができることが前提となります。つまり治療期間や休職期間の目途が立ち、家計状況をきちんと把握できていて、毎月支払える金額が分かっていると相談もスムーズです。

返済計画の変更のチェック項目には、返済期間、返済額が挙げられます。返済期間を延ばす変更をすれば、毎月の返済額を減らすことができます。ただ、総返済額は当初の返済計画よりも増えてしまうので、長期的な視点を大切にしながら、辛くならずに無理なく返せる金額での返済プランを相談しましょう。

ポイント

金融機関に相談に行く際は、事前に予約を取り、本人確認書類や返済予定表、源泉徴収票や確定申告書、通帳など収入が分かるものを持参すると良いでしょう。

金融機関を、借金を取り立てる相手だと怖れるのではなく、返済できるように契約を見直してくれる相手と捉え、治療や休職の見通し、現在の収支状況を金融機関にきちんと伝えて相談してみることをお勧めします。

参考文献:一般財団法人 住宅金融支援機構別ウィンドウで開きます
(2023年5月12日閲覧)

Q5. 失業給付を受給しながら就活している途中で再発転移が分かり、病状的に再就職が難しくなってしまいました。失業給付は打ち切りでしょうか? この先、収入が無くなってしまうと困ります。

A5.

失業給付(雇用保険の基本手当)は、就職しようとする積極的な意思と、いつでも就労できる能力があることが受給要件となっています。そのため、失業保険を受給中に体調が悪化し、求職活動ができなくなると、失業給付は支給されなくなってしまいます。

しかし、収入が途絶えてしまうわけではありません。15日連続で就労不能という医師の証明により、失業給付が受け取れる日数からすでに支給された日数を差し引いた分、言い換えれば支給されるはずだった失業給付の残り分が、傷病手当に切り替えて支給されます。受け取れる傷病手当の日額は、失業給付の基本手当の日額と同額です。つまり、受け取る予定にしていた失業給付と変わらぬ収入を得られるというわけです。

申請には専用の書類「傷病手当支給申請書」が必要です。ハローワークから書類を取り寄せ、傷病名や就労不能期間などを主治医に記入してもらい、ハローワークに提出しましょう。

ポイント

傷病手当と聞くと、健康保険の傷病手当金が頭に浮かぶ方が多いのではないかと思いますが、実は雇用保険にも傷病手当という制度があるのです。

また、30日以上就労不能の場合には、傷病手当として受け取るのではなく、失業給付の受給期間を延長して、求職活動再開後に失業給付の受給を目指す方法もあります。

自分の状況にはどちらの方法が良いか、ハローワークの窓口で相談してみましょう。

参考文献:厚生労働省:ハローワークインターネットサービス 基本手当について別ウィンドウで開きます
(2023年5月12日閲覧)

(2023年8月更新)

<執筆者> 川崎由華

一般社団法人がんライフアドバイザー協会 代表理事
大阪医科薬科大学大学院 医学研究科 在籍
社会福祉士、CFP®
1級FP技能士
住宅ローンアドバイザー
両立支援コーディネーター

医師の家系で生まれ育ち、がん治療関連薬を扱う製薬企業での勤務、両親のがんの罹患を経験。がん診療連携拠点病院で相談員を務める中、がん患者とその家族のお金や仕事の相談を受ける医療・介護者づくりの法人を設立。相談実績を医療関連学会での発表を重ねる他、お金や仕事の問題といった社会的苦痛の緩和も治療の一貫として考えていく重要性を、講演や雑誌、ラジオなどメディアを通じて全国の医療従事者や市民に向けて伝えている。