がん治療と外見の変化

脱毛や、手術の痕など、治療に伴い起こる外見の変化。
がんになる前とは変わってしまった自分と、どう向き合っていけばよいのでしょう。
がんになっても、自分らしく生きていくために、外見に起こるさまざまな変化への対処法をご紹介します。

(監修:国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター センター長 公認心理師・臨床心理士 藤間勝子先生)


国立がん研究センター中央病院
アピアランス支援センター
公認心理師・臨床心理士 藤間 勝子先生

がんの治療に伴って、患者さんの外見に変化が起こることがあります。外見の変化は、患者さん本人だけでなく、周囲との関係にも影響を及ぼすことがあります。最近は社会生活を続けながら通院で治療する方も多く、外見の変化による自己イメージや対人関係の変化で悩む患者さんも増えてきており、病院でもそういった相談にのってもらえたり情報提供をしてくれたりします。そこで、実際に患者さんの支援にあたっている国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センター 公認心理師・臨床心理士の藤間勝子先生にお話を伺いました。(2019年8月取材)

不安があれば、医療関係者に相談しよう

がん治療をしていると、手術や抗がん剤治療の影響などで外見にさまざまな変化が生じ、自分らしさが失われたと感じたり、自分の今までの人生を諦めなくてはならないと思う方は多いです。「自分だけではどうしたらいいかわからない、つらい」というときには私たち医療関係者に相談してください。一緒にいろいろな解決方法を考えていきたいと思います。

髪や爪、肌などの外見の変化に自分で対処できれば、それが自信につながります。「できない」「無理」と思っていたことが「できるかも」と思えるようになると、自分でいろいろな工夫を考えられるようになります。そうやって一つひとつ日常を取り戻していきながら、自分らしい人生を歩むためのお手伝いができればと思っています。

がん治療開始前でも後でもいつでもご相談ください

“抗がん剤治療を行うイコール脱毛”と考えて、治療を始める前に慌ててウィッグを買ってしまうような患者さんもなかにはいます。そこで私たちは「必ず脱毛するわけではないから担当の医療関係者に確認すること、脱毛するとしてもあせらなくてよいこと」といった正しい情報をお伝えするようにしています。そうして、患者さんの不安を解消し、安心して治療にのぞめるようにするのが私たちの役割です。

治療開始後に、外見に具体的な症状が出てから悩むこともあるので、困ったときは遠慮せずいつでもご相談ください。ふだんは外見を全く気にされないような方でも、成人式やお子さんの結婚式、入学・卒業式など、ライフイベントをきっかけに相談に来る方もいらっしゃるので、そのときは一人ひとりの状況に合わせたアドバイスを行っています。変化した部分をカバーするような方法をお伝えすることもありますが、その方の考え方や物事の捉え方を見直すことで解決する場合もあります。

具体例「顔に残った手術の傷が気になるとき」

例えば、手術をして顔に傷が残ったとします。その傷を気にして、外出を控えるようになった方に対して、傷の状態からは必要ないとしても、「傷跡に大きな絆創膏を貼ってみるのはどうですか」と提案することもあります。絆創膏を貼っているだけでは、がんの手術痕なのか、自転車で転んだ切り傷なのかは周囲にはわかりません。ちらっと見る人はいるでしょうが、注目されて大騒ぎになるようなことはないとわかると、安心できる方もいます。傷跡を外に見せるのが苦しいのであれば、隠してもいいのです。外見を見られないために家に引きこもるなど、本来の自分とは違う生活をしなければならないと思うと、気持ちも沈みがちになってしまいますよね。あなたがもともと社交的な方ならなおさら苦しいかもしれません。そういったときも、どうすれば本来の自分らしく生活できるかを私たちが一緒に考え、サポートします。

具体例「指先の色の変化が気になるとき」

料理教室の先生で指先の色素沈着を気にされている方がいました。料理教室ですから、何かを塗ってカバーすることもできません。教室をお休みしなければいけないのかと悩まれて、相談にいらっしゃいました。この方には、お話をするなかで、「指先は動いていることが多くて、曲がっていると影になるから意外と人目につきにくい、色が変わっていても気付かれにくい」とお伝えしました。すると、ご自身で改めて指先をご覧になって、納得した様子でお帰りになりました。

外見についての見方や考え方を見直してみませんか

がんの治療というのは特別な状況です。ものの見方や考え方も健康なときとは違い、自分の変化に敏感になってしまうのも当然です。

外見のケアは、患者さんが社会生活を送りやすくするため、その方らしく生きていくためのお手伝いだと、私たちは考えています。外見の変化があって、患者さんがどうにかしたいと相談にいらっしゃった場合、「どんな場面で気になるのか、誰の目が気になるのか、どんなときに気になるのか」を詳しく伺います。

お話を聞いてみると、患者さんに外見の変化を気にさせてしまう別の問題が見えてくることもあります。こうしたことは、自分ひとりで考えていてはなかなか気づけないものです。外見の問題の解決方法は変化を物理的にカバーすることだけには留まらず、ものの見方や考え方を見直してみるというのも、解決方法となります。私たちは一人ひとりの患者さんと向き合って、その人の問題にあった解決方法を探していきます。

主ながん治療と外見の変化

一言で「がんの治療によって起こる外見の変化」といっても、がん種や治療によって生じる症状は異なります。

がん治療で起こる外見の変化
治療 変化
手術
身体:
手足の喪失、顎や目の喪失(頭頸部がん)
皮膚:
切開による傷跡・瘢痕(はんこん)・ケロイド
その他:
ストーマの造設、リンパ浮腫
放射線治療
皮膚:
放射線皮膚炎(ひどいやけどのような状態)、皮膚が赤くなる、落屑(らくせつ)、乾燥、皮膚が薄くなる、出血
毛髪:
脱毛(頭部に照射した場合)
薬物療法
毛髪:
脱毛、縮れ毛、多毛、長くなる、硬くなる、白髪になる
皮膚:
乾燥、湿疹、色素沈着、白斑、ざ瘡(ニキビ)様皮疹、手足症候群(手や足の裏が赤くなったり痛くなる)
爪:
伸びるのが遅くなる、薄くなる、脆くなる、厚くなる、色が着く、棒状の線が出る、爪の下が化膿する、爪が脱落する、巻き爪、陥入爪

ほかには、むくみによって体型が変わったように見えたり、太ったりしてしまうこともあります。私たちが実施した調査では、一般の方が思う「がん患者さん」の外見イメージは、「血色が悪くなる」「頭髪の脱毛」「痩せて体型が変わる」です。ですから、太ってしまうと、実際以上に健康そうに見えてしまい、人から指摘されるのを気にする方もいます。このように治療の種類やそれによってあらわれる外見の変化もさまざまですし、どんなことが気になるのかも患者さんによって多種多様です。どんな外見の悩みにも柔軟に対応しています。

治療開始後に現れる日常生活の不便さ

治療を始める前に最も質問が多いのは、やはり脱毛のことです。一方で、治療が始まった患者さんの場合、「外見の変化で生活に支障があるけれど、どうしたらよいですか?」という身体機能に関わる質問が出てきます。

例えば「手足症候群で物が持てない、歩行が大変だ」「ざ瘡様皮疹でブツブツが出て痛いうえに見た目もよくない」などのお悩みが多く寄せられます。現在は、副作用や合併症などの症状軽減のために行う予防や治療、ケアをする「支持療法」が発達してきましたので、こうした変化には、薬剤や看護的なケアで対応できるケースも増えてきました。私たちは外見のケアという観点で、治療ではない側面から関わっています。

治療による外見の変化は、普段の生活にどんな影響があるのか考えてみましょう。

自分の姿を見て落ち込んでしまったら

まず大きな影響として、変化する外見を見るたびに、自分ががんであることや死の恐怖を感じてしまうということがあります。脱毛した頭を見るたびに、自分ががん患者であると思い知らされるから嫌だ、と言った方もいました。このように変化した外見ががん患者であることを思い起こさせ、常に病を意識しなければならないのは大きな苦痛です。

自分の大切なものを失った、自分らしさを失ったという苦痛もあるかもしれません。例えばパートナーがほめてくれていた胸を失って、大きなショックを受けてしまう方もいて、ご自身のアイデンティティに関わる問題にもなってきます。ただ、「自分を失う」という点では個人差も大きく、あまり気にならない方もいらっしゃいます。

「外見の変化によって周りの人との関係が変わってしまうのではないか」という社会的な不安もあります。

見た目が変わることで自分ががんだと周りに知られてしまうかも

また、外見が変わることで、自分ががんだということが周りに知られてしまい、同情されるなど今までと同じ人間関係を維持できないのではないか、と心配になる人は多いです。

特に職場においては、自分のがんが知られることで、うわさ話になったり仕事にさしつかえるのではないかと気になるかもしれません。

自分の意志とは違う部分で気を使われることや必要以上に配慮されることで、過剰な業務軽減や難しい業務を任されないなど、チャンスやこれまでの立場を失ってしまうことが不安に感じる場合も、外見ケアをすることでそれらを解消することにつながります。

家族・友人に気を使われすぎている気がする・・・

藤間先生

周囲の方との関係でいえば、職場だけでなく身近な家族や友人との関係も同様です。あなたががんであると打ち明けられた人たちも、もしかしたらどう接したらよいのかわからず困ってしまっているかもしれません。「励ましていいのか、励まさないほうがいいのか?」ウィッグなどで新しい外見になったときに、「褒めたほうがいいのか、そこに触れないほうがいいのか?」などです。

そんなときは、周囲の人たちにどう反応してほしいのか、自分の希望を伝えることも大事です。「こんなふうに対応してほしい」と、遠慮せずに言葉や態度で伝えていいのです。もちろん、周囲の方も最初は戸惑うかもしれませんが、コミュニケーションをとりながら、お互いに理解しあっていくことが大切です。人間関係のお悩みについても私たちを頼っていいですよ。

治療中の方だけでなく、それを支えるご家族も相談することができます。

先回りし過ぎるとかえって本人を傷つけることも

家族ががんになったとき、心配するあまり、先回りしてウィッグや化粧品を準備する方がいます。しかしそれは患者さん本人に対して、「あなたは今の外見ではいけない」「その外見はおかしいから隠しなさい」というメッセージとして受け取られかねません。せっかくの気づかいや心配が逆に大切な家族を傷つけてしまう、すれ違いに繋がることがあります。

特に小児の患者さんでは、両親や祖父母が率先してウィッグや帽子をかぶせようとして、それまで脱毛を気にしていなかった本人も「脱毛は悪いこと」「恥ずかしいこと」「悲しいこと」と感じてしまうこともあります。せっかくの心配している気持ちが伝わらないのは切ないですよね。

あなたが大切だと伝える

がんに罹患したご家族の方には、「どんな外見でも、あなたは私にとって大切な人だよ」「どんな外見でも私たちは気にしないけれど、あなたが気になるなら言ってね」というメッセージをしっかり伝えつつ、本人がどのように考えているのか聞いてみてくださいとお伝えしています。またウィッグやネイルなどで外見ケアをした後の姿は、患者さん本人は周りにどのように見えるか自信がないので、初めて見たときにたとえ治療前の姿と違っていたとしても、よいところを見つけて褒めてあげてください。がんになった家族の変化を受け入れて、一緒に前を向いていけるといいですね。

外見ケアはお悩み解決の入り口

かつては、がん患者さんは外見のことなど気にしている場合ではない、治療に専念しなければ、という時代もありましたが、今は違います。治療の目的は究極的には、患者さんがその人らしく生きるためだという考え方です。外見のケアは美しくなることが目的だと誤解されることも多いのですが、私たちは必要以上の制限を加えず、その人らしく生きるためのサポートをしたいと思っています。

例えば、治療中休職していた場合、会社に復帰する際に脱毛をどうカバーしたらいいかと心配する方が多くいらっしゃいます。そのような方には「病気治療で休んでいた人が復帰したとしたら、その人の何が気になりますか?髪型ですか?」と尋ねることがあります。大抵の方は「いや違います」と答えます。そうですよね。休んでいた人が戻ってきてくれたら、髪型よりも「戻ってきてくれてよかった」「仕事はできるのかな、無理していないかな」などと思う方がほとんどでしょう。ご本人に「あなたの周りはいかがですか?」と尋ねると、はっとされる方がほとんどです。職場は仕事をするところですから、「仕事ができる状態で戻ってきていることを示すことが大切です」とお伝えすると、髪ばかり気にしなくていいんだなと思えるようになりませんか。

外見ケアから社会復帰を支援しています

がんになると、自分らしさや自分の今までの人生を諦めなくてはならないと思う方は多いです。でも、形を変えて自分らしさを表現したり、自分らしい生き方をしたりすることはできます。私たちは外見のケアという側面から、みなさんの社会復帰を支援しています。何か外見のことで、困りごとがあれば、身近な医療者やがん相談支援センターなどにお気軽にご相談ください。

2019年12月公開 / 2023年12月改訂