気持ちまで若やぐ髪形の工夫 ~副作用の脱毛が、ウィッグを楽しむキッカケに~

(2020年5月公開)

自宅の居間で布団に横たわる呉服屋の大女将のまつ(主人公)。抗がん剤で治療をしている。息子の嫁、みよが桐箱を持って部屋を訪ねて来る。みよ:お義母さま。オランダ商人から取り寄せた南蛮渡来の最高級かつらが届きましたよ。まつ:まぁ。今度こそ自然に被れるかしら。まつが桐箱を開けると、マリーアントワネットのような金髪のカツラが入っていた。まつ:こんなの、被れないわ。ショックを受け、ひどく落ち込むまつ。そんな義母の様子をみてうろたえる嫁。部屋の奥には、まつが気に入らず使っていないかつらが山積みになっている。中には、大奥御用達と書かれた箱もある。

なんとか義母を助けたいと悩むみよ。お義母さま、御髪がおきれいだったから余計に悲しいんだわ。一体どうしたらいいのかしら。また一緒にお出かけしたいのに。と、蟹蔵ラブと書かれたうちわと応援ボードを持ってまつと一緒に歌舞伎を観劇したことを思い出す。数日後。新しいカツラを自宅で試着するまつ。みよ:よくお似合いでございますよ。まつ:こんなのダメよ。すぐにかつらだってバレちゃうわ。みよ:そんなことありませんわ。流行りの髷で映えますよ。まつ:自分の髪じゃないんだもの。変よ。もうずっと家に籠るしかないんだわ。悲しみと憤りでカツラを投げ、絶望するまつ。

布団にうずくまり泣くまつ。そこへ、まつとみよの三味線の師匠が訪ねてくる。師匠:ごめんくださーい。みよ:はーい、ただいまー。今日はお師匠さまにご挨拶しないんですか。まつに尋ねるみよ。まつ:えぇ、あなたが行ってきて。みよ:いらっしゃいませ。店に出て挨拶をするみよ。師匠は2人の弟子を連れている。師匠がメッシュの入った派手な髷を結っていることに気づいたみよ。みよ:あら、本日はまた素敵な御髪で。新しい髪結いさんですか?みよが尋ねると、くすくすと笑う師匠と弟子たち。師匠:これはね、かつらよ。か、つ、ら。弟子A:地毛を結うより楽ってね。弟子B:お師匠さまは最近、気分に合わせて髪型をかえられるんですよ。呆気にとられるみよ。

師匠:これは原宿村の流行りの髪結い(カリスマ美容師)の意匠(デザイン)なのよ。みよ:まあ、全くわかりませんでしたわ。さすが、いつもお洒落なお師匠様ですわね。店の奥で驚くまつ。頭に手ぬぐいを被っている。買い物を終え満足気な一行を見送り、まつに声をかけるみよ。みよ:お義母さま。お義母さまもお師匠さまと何がちがいましょう?まつ:でも、私はがんよ。みよ:はたから見たら同じです。お洒落のかつらも治療のかつらも。手を握り、泣きながら話をするみよ。まつも涙を流す。

あくる日。みよと一緒にかつらを見に来たまつ。頭には手拭いを被っている。店にはずらりとさまざまな髪型のかつらが並んでいる。まつ:こんなに色々あるのね。みよ:私も被ってみたくなっちゃいましたわ。これなんてどうでしょう?赤鬼のかつらを試着するみよ。それをみたまつは、久しぶりに笑う。まつ:まあ。あなたそれはちょっと。みよ:じゃあ、こっちなんてどうでしょう?まつ:あら。とってもいいじゃない。たしかに、外から見たら意外とわからないものね、と気がつくまつ。みよ:さあさあ、お義母さまも。まつの背中を押すみよ。みよさんも親身になって考えてくれるし、せっかくの機会だから、いろんな髪型を試そうかしら、と考え前向きになるまつ。

新調したかつらを被り、明るい表情でみよと一緒に出掛けるまつ。外でばったり師匠と会う。師匠:あらっ。まつとみよ:こんにちは。師匠:今日は一段と粋な髷ね。どこで結ってもらったの?まつ:実は師匠を見習って、かつらを被ってみましたの。笑顔で答えるまつ。髷には派手目な簪も差している。師匠:まあ~素敵ね。自然でわからないわ。よくお似合いよ。まつの髪型を褒める師匠。まつは、みよにこそっと耳打ちする。まつ:少し派手だったかしら?みよ:いいえ、とんでもない。むしろ、今度歌舞伎座に行くときは、もっと華やかなのをお召しになっては?まつ:また新しいのをあつらえないとね。くすっと笑いながら嬉しそうに話すまつ。

藤間先生

実際にあったエピソードをもとに作成しておりますが、ご紹介するのはひとつの例です。
患者さんによって、脱毛の有無や程度だけでなく、捉え方や対処方法もさまざまです。
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