若い世代(15〜39歳)によくある悩みと対処法
がん治療による外見の変化は全世代に共通し、脱毛や肌や爪への影響、手術による傷痕などがあります。対処法として、帽子やウィッグの使用や化粧でのカバーなどがあります。
なかでもAYA※世代、特にA世代にあたる中高校生や大学生などは特有の悩みとして、外見が気になる時期です。AYA世代によくある悩みと解決方法を紹介します
AYAとは、「Adolescent and Young Adult(思春期や若年成人)」の略で、一般的に15歳から39歳までの年齢層を指します

執筆:
国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター
公認心理師・臨床心理士
藤間 勝子先生
AYA世代によくある外見の困りごと

周りにがんを経験した人が少なく、
情報が得られにくい
周囲に同世代のがん体験者がほとんどおらず、どのようなことが起きるのか?どのような対処をしたら良いのかがわからない、という方がほとんどです。インターネットに頼らざるを得ないのですが、アピアランスケア(外見のケア)に関わる情報は、治療や病気の情報以上に広告的な内容であったり、不正確な情報もあるため、迷ったり混乱することもよくあります。
対処方法
① まずは主治医や看護師に以下を確認してみましょう。
- 自分の治療では、「いつから」「どのような」変化がおこるのか
- 「どのように」対処をすればいいのか
- わからないことがあったらどこに相談すれば良いのか
同じがんの種類でも治療により現れる外見の症状は異なりますので、必ずいまかかっている病院で自分の治療ではどのようなことが生じるか確認します。対処方法や相談先については、最寄りのがん相談支援センターに相談することもできます。
② 患者会に参加して聞いてみましょう。
同じ体験をした患者さんと交流することでさまざまな情報を得ることができます。同じ病気の患者会もありますが、年配の方ばかりだと気おくれするかもしれません。AYA世代に特化した会やネットでの交流中心の会もありますので自分に合うものを選んでみましょう。
③ 特別なケアが必要なときは病院から指示があるのでそれを守ってください。
ニキビのようなぶつぶつがでるざ瘡様皮疹や、手や足の裏が赤くなったり痛みがでる手足症候群といわれる皮膚障害では悪化防止の方法が指示されますのでそれを守ってください。それ以外特別な指示がないときは、病前と同じケアで基本的に問題ありません。何も指示がなく不安なときは、医師や看護師、薬剤師にどのようにケアをすればいいのか質問してみてください。

いろいろ準備をしなければいけないと思うが、
お金はかけられない
インターネットなどを見ると「医療用」「がん患者用」などと称したさまざまな製品が販売されており、このような「特別な」製品を準備しなければならないのかと慌てる方もいます。AYA世代では学生の方や就労期間が短い方も多く、十分な収入や貯金がないことも少なくありません。「特別な製品を準備しなければ」と思っても、治療費や生活費のこともあり困ってしまうこともありますし、支援をしてくれる親御さんに負担をかけないよう「自分が我慢しなければ」と思ってしまう方もいます。
対処方法
①「医療用」「がん患者用」などと称した製品は基本的に必要ありません。
特別な製品を使わなければならないときは病院から指示があります。それ以外の、例えば敏感肌用や低刺激のスキンケア、脱毛用シャンプー、医療用のウィッグやネイルケア用品などと称した製品をあわてて購入する必要はありません。まずは、いま使用しているものを継続し、物足りないな、ちょっと違うかな、と思ったときにほかの製品に切り替えると良いでしょう。
② 行政の助成金やチャリティを利用してみる
地域によっては、ウィッグや乳房補正具などに助成金がでることがあります。がん相談支援センターやお住まいの市区町村の役所やウェブサイトを確認してみましょう。
また、15歳以下の方向けには大手ウィッグ会社がウィッグの無償提供を行っています。16歳以上でも、地域の患者支援団体がウィッグの無償提供やレンタルなどを行っているので、病院のスタッフに聞いてみるか、インターネットで調べてみると良いでしょう。
脱毛とウィッグ選びのコツ

抗がん剤治療による脱毛は、治療開始2~3週間後から始まることが多いです。その時期に仕事や学校を休む予定の方はあわてず、まずは帽子を準備しておきましょう。脱毛が始まる時期に通勤・通学の予定がある方は、その前にウィッグを準備しておくことで装着の練習や調整もできるので安心です。最近はフルオーダー、セミオーダーでウィッグを準備する人は少なく、既製品だと店舗に在庫があれば即日、通販でも数日で入手できるので焦らなくても大丈夫です。
また、ウィッグだとわかると、周囲の人にがんであることが知られてしまうのではないかと不安になり、「自然に見えるウィッグ」を選ばなければならないと考える人もいます。
ウィッグの広告では、「人毛が自然」「分け目が自然」などと表現されていますが、AYA世代ではヘアカラーをしてオイルなどでケアをしている方も多く、つややかでハリのある人工毛素材のウィッグのほうが自然に見えることもよくありますし、最近では分け目の目立たない髪型も多いので、気にしすぎることはありません。また「高価なウィッグのほうが自然」だと思う方もいますが、年配向けのデザインが多く、AYA世代の好みにあわないこともあります。
大切なことは、今と違う髪型であっても「自分がいいな」と思えるデザインのウィッグを選ぶことです。インターネットで探す際は、「フルウィッグ」というキーワードを使用してください。特に男性用の場合、「ウィッグ」だけで検索すると部分ウィッグも一緒に表示されるため、見分けにくくなります。「性別・年代・デザイン(ボブとかショートなど)」のワードで追加すると好みに近いものが見つかりやすくなります。このときに「医療用」や「脱毛」「化学療法」などの用語を入れると、高額な製品の広告が上位に出てきてしまうので注意してください。
今の髪型や髪色とまったく同じウィッグを選ぼうとすると選択の範囲が狭まってしまいます。髪の長さやデザイン、色など、自分の好みと校則や職場のルールを考えて、範囲を広げて探してみるとよいでしょう。若い人向けのファッションウィッグのウェブサイトもいろいろあるので、好みのデザインを探してみてください。
ウィッグの価格はさまざまですが、最初は「失敗したら買い替えれば良い」くらいの割り切りで、数千円~2、3万円程度の製品から選んでいくと良いでしょう。インターネット通販と比較し、実店舗販売のウィッグはやや価格帯が高くなるため、3万円台以上のところが多いです。自分が気に入らなかったウィッグをフリーマーケットサイトなどで売ってしまう人もいますし、逆にそのようなサイトからウィッグを購入する人もいます。
インターネットなどで購入した新品のウィッグは前髪が長いことが多いので、少しカットしたほうが使いやすくなります。行きつけの美容室がある方は、お店に行ったときにカットしてもらえるか相談してみましょう。このときに「がん」だと話す必要はなく、単純に「このウィッグを使いたいんだけど、前髪を切ってもらえますか。カットの費用はいくらくらいですか」と問いあわせれば良いです。もし、行きつけの美容室がない、あるいは、断られたときは、病院内の理美容室や地域でウィッグのカットをしてくれるお店を探してみると良いです。コスプレをしている友達に、ウィッグのカット方法を聞いた人もいます。
脱毛は、頭髪だけでなく、眉やまつげ、体毛など全身に生じますが、治療が終わると再発毛することがほとんどです。眉やまつげの脱毛は化粧で補うこともできますし、眼鏡でカモフラージュする人もいます。
アートメイクの留意点
最近AYA世代では美容皮膚科や美容整形の話題に慣れている人も多く、「脱毛するなら眉のアートメイクを入れたほうがいいですか?」と質問されることもあります。眉の脱毛は頭髪よりも後に始まり、先に再発毛します。治療期間にもよりますが、脱毛期間が短いことが多いので、基本的には化粧で十分対応できます。最近では数日消えない眉ティントや貼り付ける眉シールなどを利用する人もいます。アートメイクは、少ないリスクとはいえ皮膚に針を刺す侵襲性のある手法であり、実施には十分な検討が必要です。抗がん剤治療が決まったばかりで心理的に不安定な時期に、アートメイクを実施する決断をすることはおすすめしません。
病気になる前から眉が薄くアートメイクを検討していた方、手術などで傷が残り眉が生えにくい方、再発などで複数回治療を行い眉が非常に薄くなった場合などには、主治医と相談のうえ実施を検討してください。

友達や同僚に病気を知られたくないのに、
見た目の変化からわかってしまうのが困る
周りにがんだと知られてしまうと、今までと同じような付き合いができなくなるのではないか、と心配し、「絶対に隠したい」と思う方もいます。病気のことは周囲に話さなくても良いことですが、見た目の変化からわかってしまうのではないかと不安になるかもしれません。どんなに自分に似合うウィッグを準備しても、化粧でカバーしても、この不安があるとなかなか気持ちが落ち着きません。
AYA世代の多くが、自分が告知されたときに感じるのと同じように、周りの人たちも、自分と同世代の人ががんになると考えが及ばないかもしれません。みなさんがウィッグを使っていても、いつもと化粧が違っても、他の人からは「いつもと違う」ことはわかっても、「なぜ違うのか」、その理由まではわかりません。そのため、簡単に、むしろポジティブな話題として「髪型変えた?」「化粧変えた?」などと声をかけてきます。このときは落ち着いて「変えたよ、似合う?」と返したうえで、違う話題を促すようにします。周りの人たちは自分がかけた言葉の答えを得られれば、満足して他の話題に移ります。逆にあわてて、とりつくろったり、無視して答えなかったりすると、相手に「変だな」という印象を残してしまいますので、何か言われたらどう答えるか、の準備をしておくと安心です。
学校や職場で外見について嫌なことを言われたら
相手は軽い気持ちで外見の変化に触れたのかもしれませんが、もし不愉快に感じたら我慢する必要はありません。「今そういうことを言われるととても傷つく」と相手にはっきり伝え、その人から離れるようにしましょう。職場であれば、しかるべき人や部署に相談するのも方法のひとつです。
中高生や大学生のなかには、「場の空気を壊す」「自分のキャラクターにあわない」などの心配をして、はっきりNOと言えない人もいます。学校や家族に相談できないときは、病院のスタッフにどのように対処すればいいのか、相談してみてください。病院のスタッフは、ほかの患者さんがどのように対処したか、などの情報を持っていることが多いです。
【お子さんを持つ治療中の方へ】自分の子どもに影響が出ないか不安
あなたにお子さんがいて、まだ小さい場合、自分の外見の変化のせいで、子どもが嫌がらないか、周囲からいじめられないか、などの心配があるかもしれません。
お子さんは、自分のお父さんやお母さんの外見が治療で変わっても、中身は変わっていないことをよくわかっています。脱毛や手術の傷痕などに驚いたり、「痛くないのか?」と心配することがありますので、事前に、お子さんの年齢にあわせた言葉で、「病気の治療をしていること、痛くないこと」を伝えておくと良いと思います。入浴時に手術痕が気になる場合はテーピングでカバーする方法もありますので、病院のスタッフに相談してみてください。
また、親の容姿が理由でいじめにつながるという話はほとんど聞きませんが、不安な場合には事前にお子さんの通う保育施設や学校に相談しておくこともできるでしょう。

自分が思うような姿になれない、
自分の姿に自信がもてない
AYA世代、特にA世代(15~19歳)は、自分らしさを確立する時期であり、装いや外見に一生懸命になる時期でもあります。この時期に自分が思うような姿から外れてしまうことはとても辛く、また自分には魅力がないのでは、と思い恋愛や結婚にも消極的になってしまうことがあります。乳がんの患者さんでは自分に女性的な魅力がなくなったと考えてしまう人もいます。
薬物療法による外見の変化は、多くの場合、治療終了後に回復しますし、外見をカバーする方法はさまざまにあります。化粧や洋服による工夫をしている患者さんも多いです。自分なりの工夫をしていくうちに、自分らしさがつかめてくることはよくあります。
ただ、外見の魅力については、自分の評価と他人の評価に差があり、治療による外見の変化について他人が低く評価するわけではない、との報告もあります。若い患者さんでがん治療中、あるいは治療後に恋愛、結婚をしている人も多くいます。
自分らしさはとは見た目だけの問題ではありません。また、病気をしていても、していなくても、A世代が通る問題ですので、自分なりに探してみてください。
皮膚障害と化粧
抗がん剤治療のなかには、皮膚にニキビのような皮疹がでる治療もあり、人目が気になるかもしれません。そんなときは化粧でカバーすることができます。男性でも行う人がいます。ぶつぶつを完全に隠すのは難しいですが、フェイスパウダーやパウダーファンデーションなどで肌の赤みをカバーするだけでも見た目はかなり変わります。また、およばれや人前に立つときなど、しっかりとカバーをしたいときは、やけどやあざなどをカバーする特別なファンデーションがありますので、それを使うのも良いでしょう。いずれの場合も二次感染(皮疹部分に細菌などが入り込み、新たな感染が起こること)を防ぐためにも、化粧が必要な用事がすんだら、クレンジングをし、清潔を保つことが重要です。また、悪化予防のために処方されている外用薬なども、病院からの指示通りに使用してください。不安があるときは薬剤師や看護師に相談してみると良いでしょう。
就職活動について
治療中や治療後のまだ十分に外見が回復していない時期に就職活動をする場合、見た目をどのように表現すれば良いのかと悩む人もいます。
男子大学生から、面接には「ウィッグを使用して臨むのが良いのか、ありのままの姿のほうが良いのか」、と相談されたことがあります。基本的に病気のことを公表せずに就職活動をするのであれば、ウィッグを使用して面接を受けた方が、外見の話題に時間を取られず自己アピールがしやすくなります。ただ、黙っているのも自分を偽っているようで気持ちが悪い、というのであれば、内定後などのタイミングで、今はウィッグを使用していると説明しても良いでしょう。希望する職種や企業にもよりますので、就労支援担当者と相談しながら決める方法もあります。
2025年2月公開