治療中のナイト・ルーティン~自分の肌をコントロールする新習慣

(2021年9月公開)

酒屋を営んでいる茂(63歳)は大腸がんで抗がん剤治療中。家業を手伝う娘の由美と酒瓶の陳列作業をしている。由美が手に持っている酒瓶を見て、顔をポリポリと掻きながら指示を出す茂。茂:その銘柄はそっちの棚だ。由美は茂をみて心配そうに尋ねる。由美:お父さん…かゆいの?茂:…かゆくない! 掻いていた手をサッと隠す茂。黙々と仕事を続ける2人。茂は商品のポップ作りを、由美は掃除をしている。茂は無意識に顔を掻き始める。それを心配そうに見る由美。由美:……。

自宅で夕食を食べる茂と由美。茂が病院で渡されたメモが食卓の隅に置かれている。メモを見る由美。メモには、「このお薬は皮膚に症状が出ることがあります。」と書かれている。由美:お父さんが治療してる薬、皮膚に症状が出ることがあるんだね。茂:ああ、知ってる。由美の方を見ずに黙々と食事をほおばる茂。苦笑する由美。由美:それでかゆいんじゃないの?茂:…。茂は、紫外線を浴びていたことやひげそりをしていたこと、ごしごしとタオルでこすっていたことなどを思い出し、今まで肌のことなんか考えたことなかったな…、と振り返る。

夜、洗面所の鏡をじっと見つめる茂。顔の肌が乾燥して粉をふいている。ガサガサになってきたよな…。歳だし、病気だから仕方ないか。と考える茂。昔は「脂ぎっている」とよく由美に言われていたのにな…。由美が女子高校生だった頃、「顔くらい洗いなよ」と言われていたことを思い出す茂。まあ、肌が乾燥したって特に困るわけでもないし…。茂は考えながら鏡を見つめる。茂の背後にやってくる由美。由美:やっぱりクリームとかつけたほうがいいんじゃない?茂:…べとべとするのはキライだ。由美は茂の言葉を聞き、ため息をつく。

診察室で、説明を受けながら顔をポリポリ掻く茂。顔が赤くなっている。それに気づいて、茂に尋ねる主治医。主治医:かゆいですか?だいぶ乾燥していますね。茂:はあ。少し戸惑ったように答える茂。主治医:保湿剤を出しますから、ケアしてくださいね。処方薬を受け取るために薬局に行く茂。薬剤師はカウンターでパンフレットを開きながら、茂に薬の説明をしている。薬剤師:…というお薬になります。茂は聞き流すように相槌を打つ。茂:はい、はい。薬剤師:ところで、お肌は大丈夫ですか? 薬剤師の問いかけに、少し答えをつまらせる茂。茂:…あ、ああ。

茂:実は…結構かゆくて。照れつつ、思い切った様子で伝える茂。薬剤師:でしたらケア方法もご説明しますね。薬剤師:がんを乗り切るためには、不快な症状をいかにコントロールするかが大切なんです。保湿剤をたっぷりつけて…と説明を始める薬剤師。薬剤師の言葉にはっとする茂。薬剤師:お風呂でも直接石鹸を擦りつけないでくださいね、熱すぎるお風呂も乾燥しやすくなります。熱いお風呂に入ったり、石鹸で肌を擦ったりしている普段の自分の姿を思い浮かべ、少し焦る茂。茂:は、はは…。薬剤師:ひげそり後にも保湿剤やクリームを…。薬剤師の丁寧な説明を真剣に聞く茂。肌のことなんて、ガマンすればいいと思っていたが…これも治療の一環なんだな。と考えるようになる。

自宅の洗面所。茂:え−と、この保湿剤は、なるほど…。このくらいかな? 保湿剤の説明書を読みながら、適量の保湿剤を手にとる茂。茂:ベタベタはしないな、かゆくもないし。顔に保湿剤を塗り込み、気持ち良さそうな茂。後日、酒屋。茂が描いたポップを見つけて驚く由美。由美:お父さん!このポップ、すごくかわいい! まんざらでもなさそうな茂。茂:えへへ、なかなかうまいだろう? 茂:いらっしゃい! 笑顔で客を迎える茂の姿に、お父さん、よかったね。と安心して微笑む由美。