やり過ぎは禁物?治療中のお肌のお手入れ~がん治療中もいつもと同じく、マイペースで

(2021年10月公開)

乳がんで抗がん剤治療中の小百合(42歳)は切迫した表情を浮かべながら、「がん スキンケア」「ナチュラルコスメ」「オーガニック」「低刺激」「敏感肌用」「天然」「やさしい」などをキーワードにスマートフォンでインターネット検索を行っている。そこへ友人で大のコスメフリークである京子から電話がかかってくる。小百合:あら、京子さんだわ。小百合が電話に出ると、京子:どうしたの、相談って?小百合:治療中のね、お肌のお手入れを教えてほしいの。今までと違うケアが必要なのよね? 私、今までお手軽ケアだったから…。

京子:それだったら、おすすめのケア教えるわ! 大量の情報を小百合に伝える京子。京子:ナチュラルな成分じゃないとダメ!朝と夜は同じスキンケアじゃだめ!保湿はお風呂上り10分以内!時間厳守よ!ブースターと、化粧水と、美容液と、クリームと。目元は専用クリーム!全身くまなく!2度洗いしないとダメ!洗う温度は32度。こすっちゃダメ!重ね塗りしないとダメ!完璧じゃないとダメ! 圧…強っ!!と京子の勢いに押される小百合。

夜、小百合は湯船につかるもののくつろげず、指を折って作業を確認する。化粧水とクリームと保湿剤と…。全身完璧に。素早く保湿して。しっかり泡立てて。熱いお湯はダメ。あとなにか忘れてないかしら…。不安げな表情で京子に教わったスキンケアを思い浮かべる小百合。出たら10分以内にクリームを塗って保湿しないと。あれしてこれして…と考えていると、ある事実に気がつく。あ! でも背中は自分じゃ届かないわ。小百合は夫にメッセージを送る。小百合:早く帰ってきて 夫:ちょっとかかりそう 小百合は、「ちぇー」とがっかりしているスタンプを送る。小百合:背中のケアができないの 夫:ごめん、会議なんだ だめだ、完璧にできない!と思いつめる小百合。

小百合は、私、ちゃんとできてない…と落ち込んでいる。時間が経過し、帰宅する夫。そーっと寝室に入ってくる。小百合はベッドに横たわり、夫に背を向けて怒った様子でスマホを見ている。夫:遅くなってごめん。背中にクリームだっけ? 小百合はベッドから起き上がり、小百合:もうダメ!間に合わない! 夫:仕方ないだろう、仕事なんだし…。ごめんごめん…大変だったよね…。と小百合をなだめようとする夫。小百合は、キィーッと癇癪を起こす。

数日後。小百合は同僚の直美(42歳)とカフェにいる。小百合:夫が全然協力してくれないのよ。肌のケアだけでも大変なのに。急いで保湿したり、背中に手が届かずイライラしたりしてしまう姿を思い出しながらコーヒーをスプーンでぐるぐると混ぜる小百合。直美:私もあなたと同じ治療をしてたけどふだんと同じだったわよ? 直美の言葉に驚き机を叩く小百合。小百合:えっ!がんの治療してたの? 直美:言ってなかったかしら?

直美:清潔・保湿・保護が基本。あとは必要な時に病院で説明してくれるわ。主治医の先生に相談したらそういってた。 小百合:そうなの? 直美:うん。だからふつうにしてた。 直美の話を聞き、「そっか、やりすぎていたかな、私」と考える小百合。表情が明るくなる。直美:あんまり旦那さんのこと責めないであげてね。にやっとする直美。小百合:わっ…わかってるわよ!直美に見透かされて照れる小百合。小百合はカフェの窓から外を眺める。幼い子どもを抱きかかえようとする女性や仕事をしている男性、高齢の女性…。がんと共にに暮らしているのかもしれない人たちが見える。がんでも、ふつうでいいことって、たくさんあるんだね。