被るべきか、被らざるべきか 男も気になる治療による脱毛

(2020年6月公開)

江戸某所。幕府附属がん専門療養所(国立がん研究センター)にて。布団に横たわりながら抗がん剤の投与(点滴)を受ける主人公、宗助(55歳)。ぼーっと昨夜の出来事を思い出している。宗助:おお。シャンプー後、手についた抜け毛を見つめる宗助。宗助:聞いてはいたものの、けっこう抜けるもんだなぁ。まあ、命と引き換えでは致し方ないか。宗助の妻(55歳):なんとおいたわしい。宗助の頭を見た妻がわーっと泣き出す。宗助:いや、まぁ、仕方なかろう。妻を慰めようとする宗助。妻:いいえっ、お気の毒で見ておられません。

妻:わたくしはあなたの忍びない姿に耐えられません。宗助:そ、そんなにか?妻:ですので、こんなこともあろうかと、わたくし、かつらをこうてまいりました。笑顔で話す妻、動揺する宗助。宗助:かつらなんて女子のようではないか。かつらで隠すってのも嫌なんだよな。周りからどう見られるか、と考え心配する宗助。かつらのせいで病気のことが回りの噂になったら、と宗助は自分のかつら姿を見てこそこそ話す同僚を思い浮かべる。がんだと知れ渡ったら、奉行所勤めが難しくなるかもしれない。不安で胸をいっぱいにする宗助。

宗助:はあ~。床に就きながらため息をつく宗助。宗助:そういえば療養所になにやら相談処(アピアランス支援センター)があったな。帰りに寄ってみるか。療養所にあった「風貌よろづ相談処」の存在を思い出し、心を決める宗助。相談処でお茶を飲みながら話し合う宗助と相談員。宗助:というわけなんです。相談員;なるほど。かつらは使っても使わなくてもどちらでもよろしゅうございます。ご自身のお気持ちが楽なほうになさってくださいませ。それにかつらだとバレてもよろしいんでございますよ。宗助:ふむ。相談員:がんイコールかつらではございませんし、一度被ってみられたらいかがですか?相談員のアドバイスを受けて宗助は、そういうものなのか、被ってみるか、と気持ちを固める。

翌朝。どきどきしながらかつらを被る宗助。喜ぶ妻。宗助は、奉行所へ向かう電車で、キョロキョロと周りの反応を伺う。周りは特に気にもとめていない様子。奉行所に着くと、与力に事情を話に行く宗助。宗助:おはようございます、ちょっと折り入ってご相談が。与力の部屋で話し込む二人。宗助:実は先だっての病気の治療で髷が結えなくなってしまったんです。それで、今日からカツラを被ることにしました。ドキドキしながら話す宗助。与力:おや、それはかつらであったか。

与力:相わかった。病気療養は大儀であるが、引き続きよろしく頼む。あまりにあっさりした反応なのでそれだけ?と拍子抜けする宗助。宗助:か、かつらですよ?与力:かつらだろうが何だろうが、今まで通り働いてくれたらそれでいい。髷のことなんて気にせんよ。宗助の心配をよそに大笑いする与力。与力:ただ、しんどいようなら無理せず申し出るんだぞ。お前の身体が大切だからな。宗助:ありがたき幸せに存じます。与力の言葉に感動し、涙目でひれ伏す宗助。与力の部屋を出てきたところを、岡っ引きから「宗助の旦那ァ」と声をかけられ、動揺する宗助。

岡っ引き:どうなさったんで?宗助:いや、ちょっと髷がな。気まずそうにする宗助。岡っ引き:あぁ、お似合いですぜ、そのかつら。それで、件の盗人ですが。宗助:お、お前知ってたのか?衝撃を受ける宗助。岡っ引き:療養所にお通いだっておっしゃってたし、うちの親父も使ってるんでね。旦那も存外細けぇこと気になさるもんだ。あっしらは旦那の髷なんざ気にしませんで。ささっ、みんな待ってますぜ。微笑む岡っ引き。宗助:あ、あぁ。みんな今までと変わらず接してくれるじゃないか。要らん心配だったなぁ。としみじみ思いながら部下たちの元に向かう宗助。

藤間先生

実際にあったエピソードをもとに作成しておりますが、ご紹介するのはひとつの例です。
患者さんによって、脱毛の有無や程度だけでなく、捉え方や対処方法もさまざまです。
ご自分にあった対処方法については、アピアランス支援センターや、お近くのがん相談支援
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