がん患者さんの医療保険 よくある相談にお答えします

医療機関でがん治療中の方やその家族の方向けに開催しているお金の相談会にも、医療保険についての相談は数多く寄せられます。
今回は、よくある3つの相談にがんライフアドバイザー®が答えます。

回答:主治医からがん治療方針の話があった時点で、保険会社に連絡を入れて受けられる保障を確認しましょう

がんが疑われたときから検査が繰り返され、がんと診断を受ける前から、健康な頃には想像しなかった医療費がかかってきたことでしょう。これから治療が始まるとなったら、この先どのくらい医療費が必要になるのだろうと、不安になることもあるでしょう。

そこで思い出すのは、加入している医療保険やがん保険です。毎月、保険料が銀行口座から引き落とされているから、加入しているのはわかっているけれど、どんなときに給付金が受け取れるのかはうろ覚え。理解して加入したはずなのに…。そんな方も少なくないのではないでしょうか。

がんになったときに役立つ民間保険といえば、真っ先に思い浮かぶのが、がん保険や医療保険でしょう。しかし、生命保険の医療特約や特定(三大)疾病保障保険、就業不能保険、所得補償保険など、がんになったときに役立つ保障も兼ね備えている保険の種類は、意外と数多くあります。

まずは自分が契約している保険の保険証券、もしくは保障がわかる内容の書類をすべて出してみてください。その際、保険料はもう払い終えているけれど保障は続いている保険や、保険料が給与から天引きされて勤務先を通じて加入している保険、勤務先が契約して保険料を支払っている保険なども見落としがないようにしましょう。

表1:がんになったときに役立つ保険の例
がん保険 補償の対象をがんに限定した保険
医療保険 病気やケガによる入院、通院、手術などに備える保険
特定(三大)疾病保障保険 三大疾病(がん、急性心筋梗塞、脳卒中)の診断があり、所定の状態になった場合に、生存中に死亡保険金と同額の保険金が支払われる保険
就業不能保険 病気やケガによって、働くことができなくなった状態が所定の期間を超えて継続した場合に給付金が支払われる保険
所得補償保険 病気やケガによって、働くことができなくなった場合に、その間に喪失した所得を補償する保険

保険会社の資料が入った分厚いファイルをいくつも持って、相談に来られる方もいらっしゃいます。契約先の各会社のコールセンターに電話を入れて、ひとつひとつ保障を確認するのですが、商品名や保障名では判断がつきにくいものが少なくありません。

思わぬ給付金が出たAさんのケース

小細胞肺がんのAさんは、通院で放射線治療を受けることが決まっていました。放射線治療の保障にも通院での保障にも加入していなかったので、給付金が出ないと思い込んでいらっしゃいました。しかし、一緒に保険会社に確認をすると、Aさんが加入している医療保険は、がんの放射線治療を受けた場合、照射量の条件なく手術給付金の支払い対象となっていることがわかりました。

受け取れると思っていた給付金が受け取れなかったBさんのケース

小売業をしている個人事業主Bさんは、お店を休業する日が多いと経営に支障が出るということを懸念し、通院回数が少なくて済む内服薬での治療を選択しました。特定治療通院という、がん治療のために病院へ通う通院費の保障に加入していたので、内服薬を処方してもらうために通院した日の分は、給付金が受け取れると収入の見込みをしていらっしゃいました。しかし、その保険会社のその保障は、内服薬による抗がん剤治療のための通院は該当しないものでした。

民間保険からの給付金が、どんなときにいくら受け取れるかは、治療を受ける上で、お金の見通しを立てるための大きな情報です。起こるかもしれない副作用やこれからの生活など、さまざまな不安が湧き起こる中、お金の不安だけは和げることができるかもしれません。がんと診断され、主治医から今後の治療方針の話があった時点で、保険会社に連絡を入れ、自分が受けられる保障を確認することをおすすめします。

回答:がん治療の内容や家計状況を見ながら、自分で請求のタイミングを決めてしまいましょう

入院して手術でがんを切除した後、抗がん剤治療で2週間に1度の通院の予定があるとか、抗がん剤治療のために3日間の入院が3週間に1度の頻度であるといったように、がんの治療は、入退院を繰り返したり、定期的な通院が何か月、何年と続くことがあります。加入している医療保険から入院給付金や通院給付金が受け取れる場合、治療が継続している中で、どのタイミングで給付金の請求をしたらいいのか、悩んでしまうこともあるでしょう。

相談に来られる患者さんが、口をそろえておっしゃるのは、主治医に診断書を作成してもらうのにお金と時間がかかるから困る、ということ。

診断書の種類によっても、医療機関によっても、料金は異なりますが、診断書作成費は1通につき5,000円前後ではないでしょうか。もちろん保険適用外ですので、全額自己負担になります。こまめに請求すると、その分だけ診断書作成料が嵩んでいくことが、患者さんを悩ませています。

また、診断書作成の申込みをすると、作成には2~3週間ほど日数がかかるとしている医療機関が一般的です。待たされる日数がもどかしく思ったり、通院日に受け取れなかったりする方は少なくなく、自分が思うタイミングで給付金の請求ができないことに繋がっていると感じます。

がん診断時に給付金が出るCさんのケース

がんという診断があれば給付金が受け取れるがん保険に入っていたCさんは、乳がんの診断直後で治療開始前に、とりあえずがん診断給付金の100万円だけ受け取ることにしました。これからの治療や生活の資金を手元に置くことで、お金の不安は拭え、治療に前向きになれたとおっしゃっていました。その後、入院給付金や通院給付金の請求を急ぐ必要はありませんでしたが、いつでも請求できるようにと、保険会社から請求用の書類を複数枚、取り寄せておきました。

抗がん剤治療ごとに給付金が出るDさんのケース

Dさんは、抗がん剤治療をした月ごとに10万円が支払われる保険に加入していました。副作用による倦怠感がひどく、休職せざるを得ず、収入は給料の3分の2の額の傷病手当金のみ。預貯金を切り崩さないと生活費が足りませんでした。そこで、月初めの抗がん剤治療日に診断書を医療機関に提出すると決め、保険会社からの給付金を同じ頃に受け取れるように、毎月のルーティンにすることにしました。

せっかく受け取れる給付金があるのに、請求ができずに受け取れていないために、生活を切り詰めなければお金が回らないとか、他からお金を借りなければ支払いができなくなることは、本末転倒です。例えば2ヶ月分ずつといった具合に期間で区切って請求するのも一案、治療法や抗がん剤の種類が変わるごと請求するのも一案、退院ごとに請求するのも一案です。継続するがん治療の中で、家計状況を見ながら、自分の請求のタイミングを決めてしまいましょう。ただし、請求期限は、給付金を請求できるようになった日から3年*ですので、ご注意ください。

急ぎの場合には、医師の目に留まるよう、必要事項や期限の希望を書いたメモ書きを付けておく工夫をしたり、診断書提出前の診察時に一言事情を伝えてみてはどうでしょうか。

また、保険金請求の際に、医師の診断書が不要になるケースもあります。保険会社に確認してみましょう。

表2:給付金を上手に受け取るための準備
申請書類をあらかじめ取り寄せておく
一定期間ごと、治療変更の際など、請求するタイミングを決めておく
給付金請求期限は3年なので注意
請求時の診断書の要不要を保険会社に確認する
請求書類の目立つところに必要事項や期限をメモする
診断書発行にかかる期間を確認しておく

 保険法第95条(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=420AC0000000056)で定められています。ただし、3年が経過した後でも給付金を受け取れる場合もありますので、保険会社にご相談ください。

回答:保険料が払えないから解約、ではなく、保険会社に保険の見直しを相談してみましょう

がんになったときもお金の心配をしないですむように、必要となる費用をあらかじめ備えるために保険に加入していたはずなのに、保障の対象にならず、肝心なときに給付金が出ないケースも耳にします。なるべく支出を抑えたい状況で、給付金が出ない保障のための保険料は無駄な支出だ、解約してしまいたい、と思ってしまう心情も理解できます。

毎月の固定費を少しでも減らし、治療費の捻出はもとより、治療以外にがんライフを少しでも心豊かなものにできるためにお金を使えるよう、私もアドバイスをしています。民間保険の保険料も大きな固定費の1つ。しかし、保険料分だけ支出が減らせるから、保険を解約したらいいということでは決してありません。

病状や副作用の出方に応じて治療を選択していく中で、今の治療には給付金が出ないからといって、今後も役に立たない保障だとは限りません。

抗がん剤治療中のEさんのケース

術後の抗がん剤治療が始まったEさん。主治医から、今後は通院での抗がん剤治療なので入院する治療の予定はないと言われました。加入している医療保険からは、入院すると給付金が1日につき5,000円ずつ受け取れるのに、通院では1円も出ず、自分が交わした契約とはいえ、そのときはお金に困っているときに助けてくれない保険そのものに嫌悪感を抱いてしまった、とおっしゃっておられました。しかしその後、病状が進み、最期の過ごし方を口にされるようになりました。医療機関内の緩和ケア病棟に入ることを希望されたため、入院でも医療保険から入院給付金が出るとお伝えしたところ、最期まで家族にお金の負担をかけることはしたくなかったから、加入し続けていて良かったと安堵していらっしゃいました。

これから受ける可能性のある治療を医療スタッフに聞きながら、再度自身が持っている保障を確認してみることをおすすめします。

解約返戻金のある終身保険や養老保険であれば「保険料が支払えないけど、保障の範囲を小さくしていいから保険契約は続けたい」という希望に応え、解約しなくても支払う保険料が一切不要になる見直し方法が2つあります。

  1. 現在契約している保険金額は変えずに、保障の期間を短くするという見直し。
    これは延長保険への変更で、例えば、現在の契約は終身保障になっているけれど、保障の期間は一定期間で良いと考える場合には有効な見直しです。
  2. 現在契約している保障の期間は変えずに、保険金額を少なくするという見直し。
    これは払済保険への変更で、例えば、保障の期間は終身で契約しておきたいけれど、保険金額は減らしても構わないという場合に、有効な見直しです。

延長保険の保障の期間も、払済保険の保険金額も、契約を見直すときの解約返戻金などの積立金をもとに設定されます。つまり積立金のない掛け捨ての保険に、この見直し方法はできません。また延長保険や払済保険へ変更すると、特約は全て消滅してしまいます。入院特約や通院特約など、がん治療中に給付金を受け取れる特約を付けていた場合には、給付金による収入が無くなることも踏まえて検討する必要があります。

また、保障に付いている不要な特約を外すと、外した特約の分だけ支払う保険料を下げることができます。加入している保険の内容を改めて確認してみると、主契約は少額なのに、そこに数多くの特約が付いていることで保険料が高くなっていた、というケースもあります。特約1つ1つの内容を見て、要不要を検討してみてください。

保険料を下げるもう1つの手立てとしては、契約している保障額を下げることも一案です。例えば死亡時に1,000万円を受け取れる契約を500万円に下げることができれば、その分保険料も下がります。ただ、遺される家族がお金に困ってしまうようではいけません。しっかり家族内で話し合って判断されることが大切です。

保険料が支払えない=解約、ではなく、保険を見直して上手く活用できないか、加入している保険会社に相談してみてください。

表3:保険の見直し方法の例
延長保険にする
(保険金額は変えず保障期間を短くする・特約は消滅する)
保険料の支払いを不要にできる
払済保険にする
(保障期間は変えず保険金額を減らす・特約は消滅する)
特約を減らす 保険料の支払いを減らすことができる
保障額を減らす

(2022年8月公開)

<執筆者> 川崎由華

一般社団法人がんライフアドバイザー協会 代表理事
大阪医科薬科大学大学院 医学研究科 在籍
社会福祉士、CFP®
1級FP技能士
住宅ローンアドバイザー
両立支援コーディネーター

医師の家系で生まれ育ち、がん治療関連薬を扱う製薬企業での勤務、両親のがんの罹患を経験。がん診療連携拠点病院で相談員を務める中、がん患者とその家族のお金や仕事の相談を受ける医療・介護者づくりの法人を設立。相談実績を医療関連学会での発表を重ねる他、お金や仕事の問題といった社会的苦痛の緩和も治療の一貫として考えていく重要性を、講演や雑誌、ラジオなどメディアを通じて全国の医療従事者や市民に向けて伝えている。