わたしの旅行体験記2

さまざまなものに感謝しつつ、また新たな旅に出ます!

(乳がん経験者 女性・50代)

乳がんと付き合いはじめて14年目になります。以前から山好き・温泉好きでしたが、初発のときは、手術で乳房を全摘し、脇のリンパ節も郭清したので、しばらく足が遠のきました。しかし、抗がん剤治療がひと段落したころから、温泉好きの「虫」が騒ぎだしました。

とは言え、「温泉デビュー」にはとても慎重でした。最初は周囲の目が非常に気になり、にごり湯であれば身体が隠せるのではないか、洗い場に仕切りがあると見えにくいのでは、等の判断基準で行く場所を決めました。そうして最初に行ったのは、有馬温泉です。「金の湯」と呼ばれる茶褐色のお湯と、薄暗い湯船がちょうど術後の身体を隠してくれて、「ああ、ようやく日常に戻ってこられた!」と思ったことを覚えています。その後は、いろいろと工夫し、術前とほぼ同様に入浴しています。山も「低山」から徐々に復活。リンパ節を郭清しているので、背負うザックはあまり重すぎないようにして、日帰り中心で楽しんできました。

9年目に乳がん再発。内臓への遠隔転移でした。それがわかったときは、初発以上に非常に落ち込みました。1年ぐらい経ったところで、「山に行こう、折角だから、霊山と呼ばれる山に登ろう」と、友人と5泊で白山・立山を巡りました。このうち標高2,700メートルの白山は、ケーブルやリフトがなく、自力で登る以外に山頂には立てない山です。ちょうど、抗がん剤の副作用の真っ最中でしたが、どうしても登りたいという思いが勝ち、この山を選びました。

白山は一般的に日帰りで登ることができる山ですが、治療中の身体には結構こたえます。特にそのころ悩まされていた手足の痛みや腫れといった治療の副作用に対しては、出来る限りの備えと対策で臨みました。例えば、行程に余裕をもたせて山頂手前で一泊する、トライアスロン等ハードな競技スポーツで使う靴ずれ防止のクリームや、筋肉疲労防止のスプレーなどのグッズを活用する等。おかげで体力低下を痛感しながらも、何とか山頂まで登ることができました。翌朝、遮るものが全くない山頂で眺めた、東の雲海を徐々に茜色に染めて顔を出した朝日は、息をのむ素晴らしさでした。「この風景を見させてくれてありがとう」と、山や友人やさまざまなものに感謝したことを覚えています。

あの登山から3年が経過します。その後、たくさんの温泉に行き、山に登り、と旅を重ねてきました。旅は、新たな出会いやご縁がつながるだけでなく、日常のさまざまなことを一旦棚上げして、自分自身に向き合える時間でもあります。

がんを経験したからといって、旅を諦める必要はありません。工夫次第で結構何とかなるものです。コツがあるとすれば、がんを経験する前よりも、時間も心も体も余裕を持たせることでしょうか。治療中の場合は、主治医に相談することも忘れずに。まだ元気で山登りできている身体とさまざまなものに感謝しつつ、また新たな旅に出て、人やものや風景に出会っていきたいと思います。