わたしの旅行体験記1
『生きる』ありがたさを忘れないために
(膀胱がん経験者 女性・50代)
がんと共に旅行するということは、「『生きる』ありがたさを忘れない」ためかもしれません。初発の術後は幸い後遺症もなく、自分へのご褒美と、大好きな韓国をはじめ、彼方此方一人旅を楽しみました。再発、再々発後は、日常を取り戻せない焦りと不安との戦いで、旅行は想像もできませんでした。体も心も少しずつ力を取り戻し、日常のありがたさを感じられるようになったとき、「旅行に挑戦したい」と感じました。
最初に選んだのはインドネシアのジョグジャカルタ。娘の留学先でした。食事や行動に制限はありませんが、水分補給とトイレ対応は必須です。膀胱炎を発症しやすいうえ、高熱が出るまで炎症状態を自覚できないため疲労も大敵。①疲れはためない、②十分な睡眠、③トイレを我慢しない、④水分補給(1.5〜2リットル/日が理想)を掲げ計画を立てました。また、頻尿感を抑える薬、抗生剤、痛み止め等、担当医に服用のタイミングなど相談し事前に処方してもらいました。
飛行機もトイレに近い通路側の席を予約し、浮腫対策に圧縮ソックス、携帯ツボ押し、携帯足置きも購入。現地の医療機関、トイレ事情、水事情も調べました。トイレ環境や水道事情が、日本ほど恵まれている国はないと改めて実感しました。非常事態用に、治療中購入した紙おむつ数枚、ろ過機能付携帯ペットボトルや薬剤も(薬剤は未使用ですが、ペットボトルは使いました!)。英文の病名と症状の説明メモも作成しました(有料で病院でも依頼できるようです)。
トイレにサッ!と駆け込めるよう、荷物もコンパクトに。大きいカバンを持ち歩き、家人と交代でトイレに行かざるを得ず冷や汗が出た経験からです。海外トイレの個室は、荷物掛けも置くスペースもないことが多く、S字フックやビニール袋を携帯し役立ちました。
現地では、その日の状態と状況に逆らわず無理せず。「ミッションは立てない」をモットーに行動しました。事前予約したツアーのキャンセルもありです。移動時間が長いツアーは、休憩なしで3、4時間移動するときもあるため、出発前にトイレと飲料水確保は必ず確認が必要です。私は、同行する添乗員に事情を簡単に話し、可能な対応を確認しました。途中、臨時にトイレ休憩を入れ、飲料水の補給もできるよう配慮してもらえました。一度、運転士さんの友人宅で休憩をとったことも。私の病気を知った友人の方は、体によいと温かいお茶とお灸の薬草を持たせてくれました。言葉や文化は異なっても、「想い」は共有しあえることを感じました。自分から発信することで、サポートを授受できることも。自分が作ってしまった障壁の存在も解消されていきました。自分が考えていた「生き方」とは違うスタイルの存在を、旅行は教えてくれます。
体と心に生じた変化を受け入れたとき、新しいスタイルで旅行を楽しむ術も得られるかもしれません。「できなくなった」ことに意識を向けるより、今、「できること」「できるようになったこと」に目を向け、自分を慈しんでみる。頑張った自分の心と体で感じ・見て・触れ・経験する。『旅』は『生きている』ことの大切さを気持ちに深く刻みなおしてくれます。