病気のこと 誰に、伝える? 伝えない?

伝えるメリットとデメリットを考えてみましょう。

 個人事業主にとっては、主(あるじ) である自分が病気になってしまったということを関係者に伝えることには、取引や仕事を打ち切られてしまうのではないかという恐れを伴います(実際にそういうこともあります)。また、これから治療を行うことで、実質的に今まで通りの仕事ができなくなるという現実もあります。個人事業主の方は、仕事と治療を両立していく(もしくはせざるをえない)ことが大切ですから、病気になる前からの関係性や、これからの関係性を考慮して、公開する範囲と内容を考えましょう。病気のことを伝えるメリットとデメリットを考える上で大切なことは、誰に、どこまで、どのタイミングで伝えるかを整理することです。そこで、相手ごとに、メリットとデメリットを考えながら、伝える範囲を整理してみましょう。

従業員への伝え方

 家族と一緒に仕事をしている場合、伝えるより伝えないことのデメリットのほうが大きいと思われます。それは、仕事と治療を両立するためには、仕事でも生活面でも、家族のサポートが重要になるからです。病名、病状とともに、今後の治療の見通しを共有し、今後の治療や仕事について一緒に考えていきましょう。

 家族以外の従業員の場合は、仕事の仕方や関係性によって考え方は異なります。治療期間が短い、あるいは仕事への影響が少ないということであれば、伝えないという方法もあるかもしれません。しかし、従業員が少ない場合や治療が長期間にわたるなどの場合、一人あたりの仕事の負担や影響はどんどん大きくなっていきます。ましてや、あなたが仕事の主の場合、従業員も「いつまでこの忙しさは続くのか」と不満に思ったり、「これから先、大丈夫なのか?」と不安な気持ちでいっぱいになるかもしれません。そうした不安や不満を解消するためにも、仕事を続けていく意思や治療の見通し、休業期間などをあらかじめ伝えておくことが大切です。

 従業員は仕事での大切なパートナーと考えて、悩みや困っていることは、きちんと伝えるようにしましょう。

クライアント・顧客・取引先への伝え方

 「取引先に自分ががんだと知られたら、契約を打ち切られてしまうのではないか」と不安になる人も少なくありません。家族や従業員がフォローすることで、これまで通りの仕事ができるのであれば、必ずしも伝える必要はないでしょう。しかし、あなたの治療により納期が遅れる、業務量が減る、あなたに全て任されている仕事の場合など、当初の契約内容とは異なる事態が発生する場合は、顧客や契約先に病気のことを伝え、契約履行について早急に相談する必要があります。信用や今後の仕事に影響がでないよう、仕事の見通しと共に、もし代替案があれば、具体的に伝えていくこと、同時に「今後も仕事を続けていく意思がある」ことを、しっかり伝えておきましょう。

がん罹患による取引先への影響

がん罹患による取引先への影響

がんと診断された後の職業を「自営業・自由業を継続」と選択した方のうち、60%の人が「取引先との影響は変わらない」と回答した一方で、18%の人が「取引条件が厳しくなった・金融条件が厳しくなった」など悪い影響があったと回答。

調査方法:2010年6月1日~7月16日に、全国約150のがん患者団体・がん患者支援団体に対する郵送依頼と書面回収およびインターネット上でのウェブアンケートを実施し、855名から回答を得た。

出典元:がん患者の就労と家計に関する実態調査2010
(実施:一般社団法人CSRプロジェクト 協力:アクサ生命保険株式会社)

仕事仲間への伝え方

 フリーランスで、あなた一人で仕事を請け負っている場合は特に、フリーランス仲間の支えはとても大切です。病気であることや治療の見通しを伝え、仕事の支援を頼んだり、一部の業務を友人などへお願いできないかを検討してみましょう。ただし、あなたでなければできない仕事、例えばカメラマンで、あなたが撮影することが必要な場合は、仕事の契約先に代わりの人でも大丈夫かを相談したり、仕事の時期を入院や治療期間にかぶらないように調整したりすることが必要になってくるかもしれません。その場合、契約先に自分の状況をどこまで伝えるかは、契約先との関係性によります。伝えるメリット・デメリットを充分に検討し、そのうえで交渉や調整をしてみましょう。

担当医など医療者に相談することも選択肢

 仕事のスケジュールではなく、治療の時期や治療法を変更するという方法もあるかもしれません。担当医に仕事のことを話して、治療の時期や治療方法を調整できないか相談してみることも一つの方法です。働き方に応じた提案が担当医から出されることもあるかもしれません。

 いずれにしても、自分だけで悩まず、早め早めに関係者に問題を抱えていることを話して交渉してみることが大切です。

経験者の声やりくりで、乗り切る。
経験は力になる。
50代/女性 コピーライター 乳がん A子

 働かないと収入はゼロ。断ると次はないかも? 一時的に休めても、自力で稼がざるを得ないフリーランス。がんは治療が長引くこともしばしばなので、得意先にどこまで話すか悩ましいところです。

 病を打ち明ければ配慮は得られる。けれど、お気遣いから依頼が消えた経験もあります。そんなことから私自身は、入院だけを告げたり、休暇を取ると伝えたり、何も言わないなど、これまでの関係性や相手の性格から慎重に伝える内容を判断しました。ご家族が罹患された方には理解を得られやすかったため、味方になっていただいた場合もあります。

 広告業界はクライアント都合で何度も修正が発生し、なかなか予定が読めません。コピーワークやCM企画はオリエンテーションから納品まで一人で担うので、替えが効かないという事情もあります。

 副作用がつらいときは少しだけ横になる、あえて移動や出先で作業して気分転換を図る。ダウンを見越して、余裕を持ったスケジュールを組んでいます。

 逆に言えば調整は自分次第。以前のようにはかどらない、時間がかかるなど自信をなくすこともありますが、罹患したからこそわかる気づきは絶対仕事に役立ちます。

経験者の声両立へのカギは、
相談できる仕事仲間を増やすこと
50代/女性 編集 大腸がん H子

 フリーランスで書籍や雑誌の企画編集、企業の販促物制作などに携わっています。この仕事の特徴は常に締め切りに追われること。現在、化学療法を受けていますが、副作用の期間を考慮しながら、いかにスケジュールを組んで仕事を進めるかが課題です。

 手術の時は、フリーランスの仲間に相談し、担当していた冊子を急きょ引き継いでもらいました。

 企業関係の仕事はチームで行います。今後の治療方針が決定した時点で、まずはチームリーダーに個人メールで現状報告。チームリーダーからは「無理せず、仕事は体調をみながら相談しましょう。これからも一緒に仕事をしていきたいと思っています」と言っていただきました。また、彼女の母親が乳がん経験者だと話してくれて、「H子さんは大切な仲間だと思っていますので、治療が順調に進むことを願っています」との言葉があり、ありがたかったです。

 メンバーには、リーダーから伝えてもらいました。その結果、「グーグルカレンダーで点滴日を共有させてください」と言ってもらい、体調によってはチームで仕事を割り振る、ラッシュの時間帯は避けた会議日程など、調整してくれています。自分でも副作用の期間前に仕事を前倒しで進めるなど工夫しています。

 仕事と治療が両立できるカギは、具合が悪いときに遠慮なく相談できる仕事仲間を増やすこと。特に、収入が安定しないフリーランスの場合、人との信頼関係が何よりも大事だと痛感しています。

 がんになったことは歓迎すべきではありませんが、たくさんの人に助けられていることを実感でき、仕事への向き合い方を問い直すきっかけになったことはありがたく思っています。