個人事業主です。「がん」と診断されました。
これからどうしたらよいですか?

まずは情報を整理してみましょう。

 がんと診断されたとき、あなたの頭に真っ先に浮かんだことはどんなことですか。ショックで何も考えられない人もいれば、「経営(資金繰り)はどうしようか」、「来週までの締切り業務は大丈夫だろうか」、「まだ子どもが小さいのにこの先どうすればいいのか」など、さまざまな不安や心配が、頭の中を飛び交っているかもしれません。個人事業主の方が「がん」と診断された場合、がんと仕事や生活にどう折り合いをつけていけばよいのか、まずは情報を整理してみることから始めましょう。

 ここでいう「個人事業主」とは、次のような方を指します。

個人で事業を行っている方

従業員がいたり、家族と一緒に事業を行っていたりしても、法人でなければ個人事業主といえます。また、従業員5人未満の「小規模事業者」や「自営業者」も個人事業主です。

  • 飲食店や美容院、八百屋や菓子店といった小売店の店主など
  • 税理士や社会保険労務士、弁護士といった専門職で法人でない場合など

企業などと雇用関係がなく、独立して仕事を請け負うフリーランス

  • カメラマン
  • デザイナー
  • イラストレーター
  • ライター
  • ミュージシャン など

 個人事業主と一般の会社員が、がんの治療を続けていく上では、社会保険(医療保険と年金保険)にも以下のような違いがあります。

社会保険の違い

健康保険 年金
個人事業主 国民健康保険(市町村)
または国民健康保険組合(業種別)
国民年金
会社員 全国健康保険協会(協会けんぽ)
または健康保険組合(企業・業種別)
厚生年金

日本年金機構 事業主の方へ別ウィンドウで開きます(2019年11月29日閲覧)
日本年金機構 年金のことを調べる別ウィンドウで開きます(2019年11月29日閲覧)
国民健康保険中央会 国民健康保険制度別ウィンドウで開きます(2019年11月29日閲覧)

 情報を整理していく上で大切なことは、まずは気持ちを落ち着かせることです。そして気持ちが落ち着いてきたら、次に治療と仕事のこと、生活のこと、これからの希望や想いなどを整理していきましょう。

治療と仕事のこと

 担当医から説明を受けた病状や治療について、ひとまず整理をしてみましょう。もしわからないことがあれば、もう一度担当医や看護師に説明を求めてみるのもよいでしょう。難しい医療用語は、わかりやすい言葉に言い換えてもらい、がんの部位や治療方法などを紙に書いて見せてもらうようにすると、よりわかりやすくなります。

 これからの治療と「働くこと」を考える上では、がんの部位やステージ、治療方法や治療期間だけではなく、起こりうる副作用や後遺症(仕事にどのような影響をおよぼすのか、どのくらいの期間続くのか)、その対処法(重症化予防)、もし致命的な場合は他の治療方法の提案についても、事前に説明を受けておくことが大切です。

 会社員であれば、あなたが治療で仕事を休んでいる間、同じ部署の誰かがフォローしてくれることもあります。しかし、個人事業主の場合は、あなた一人で仕事の大部分を担っていることも多いため、あなたの仕事をフォローしてくれる人を探す、請け負った仕事を代わりにやってもらえる人を探すなど、仕事の段取りも整理する必要があります。お料理を作る方なら、味覚障害や手のしびれなども心配でしょう。「来週のプレゼンは予定通り行えるか」、「資料の準備は間に合うか」、「誰かピンチヒッターはいるか」、「お店が営業できない間はどうするのか」などの困りごとを書き出してみながら、入院・手術などで仕事が完全にできない期間はどのくらいか、入院中に個室で仕事を続けることは可能か、お店などの営業時間外に外来はあるか、化学療法などの治療中は働くことができるのかなども確認しておきましょう。

 職種も働き方も多種多様な個人事業主だからこそ、今後の治療スケジュールをあなた自身が把握しておくことが重要です。

生活のこと

 生活の上で一番大きな不安は、経済的な問題ではないでしょうか。仕事ができない間は、それが売り上げや収入に直結するからです。経済的な問題は家族にも降りかかり、治療費などの心配は、治療のモチベーション低下にもつながります。

 がんの治療は進歩し、副作用対策も進んでいます。治療をしながら仕事を続けている人もたくさんいます。

 5.「治療中の生活費をどうしたらいいか心配です。」には生活費に関することが、6.「事業を「引き継ぐ」、「休む」ことを考えています。」には利用できる制度が紹介されています。それらを参考に、生活する上で、治療前に準備しておくことを、整理してみましょう。

 治療中は日常生活でできなくなることもあるので、家族や友人などの協力を求めておくことも大切です。

がん罹患による収入の変化

廃業…17%、休職・休業中…8%、自営業・自由業を継続、同じ会社・配置先で勤務…60%、その他…10%

がん罹患による収入の変化を聞いたところ、自営業・自由業・会社経営者・役員のうち17%の人が廃業、8%の人が休職・休業していると回答。

調査方法:2010年6月1日~7月16日に、全国約150のがん患者団体・がん患者支援団体に対する郵送依頼と書面回収およびインターネット上でのウェブアンケートを実施し、855名から回答を得た。

出典元:がん患者の就労と家計に関する実態調査2010
(実施:一般社団法人CSRプロジェクト 協力:アクサ生命保険株式会社)

これからの希望や想い

 長い間の下働きを経て、ようやく自分のお店が持てた、独立できた!と思った矢先の診断。「なぜ、今?という思いでいっぱい」という方もいるかもしれません。がんの治療で仕事が中断されたり、仕事に制約がかかったりすることに対し、悔しい思いをされる方もいることでしょう。がんになったことは、あなたの仕事や生活を、立ち止まって考えてみる機会にできるかもしれません。ペースを緩め、少しだけ視点を変えることで、見えてくることがあるかもしれません。あるいは、そろそろ次の代に引き継いでもいい、これを機に引退してもいい、と思うかもしれません。

 仕事や働くことへの想いは、人それぞれです。この機会にあなた自身の「働くこと」への希望や、これからの生活への想いを、1つずつ書き出してみるなど、整理してみてください。

整理すべきチェックリスト

担当医に確認すべきポイント

治療について

仕事について

あなた自身で考えるべきポイント

仕事について

生活のこと