3.病気のことを話す?(話さない?)

病気のことを話すか話さないかで迷ったとき(これは、相談に来る方のほとんどが気にされているテーマですが)、次の4つの着眼点が参考になるでしょう。

  • 着眼点1: 病気の「開示・非開示」には唯一の正解があるわけではない
  • 着眼点2: “病名”は自ら開示する必要はない
  • 着眼点3: “〇〇がんという病名”はイコール“業務内容そのもの”を指すわけではない
  • 着眼点4: 相手にとって、ネガティブなイメージだけを残さない

着眼点1:病気の「開示・非開示」には唯一の正解があるわけではない

病気の「開示・非開示」に関しては、個人個人で考え方や性格が異なるので、どちらかが唯一の正しい考え方ということではありません。また、病気の「開示・非開示」は、多くの方が気にされているテーマであり、なおかつ就活時や仕事をする上で、とても重要なポイントでもあります。だからこそ、ひとりで疑問や不安を抱え込まず、支援者などと話し合い、参考例を聞くことによって、自分にとって、よりしっくりくる答えを導き出すことが重要なのです。

着眼点2: “病名”は自ら開示する必要はない

“病名”はごくプライバシーにかかわることなので、自ら開示する必要はありません。一方、事業所側は、従業員に対する安全配慮義務や健康管理の観点から、健康状態について確認することがあります。そのとき、次の着眼点3が参考になるでしょう。

着眼点3:“〇〇がんという病名”はイコール“業務内容そのもの”を指すわけではない

“〇〇がんという病名”はイコール業務内容(仕事に与える影響)そのものを指すのではないということ。その事実をしっかりと認識し、“病名”に捉われすぎないことが肝要です。その上で、さらに、より実際的・現実的事実として忘れてはいけないのは、“〇〇がんという病名”そのものではなく、 “今の健康状態”や“通院頻度”などであって、それらが該当業務に直接影響するかどうかです。

着眼点4:相手にとって、ネガティブなイメージだけを残さない

病気のことを伝えた場合、その話が耳に入ったとたん、相手は「この人は本当に業務に耐え得るだろうか?」とか「長く働けそうか?」と不安を抱きます。これは相手にとって、ネガティブな情報といってもよいでしょう。もちろん、無理をして自分を取り繕うのは良くないですが、相手に不安が残ったまま面接を終えてしまうと、せっかくのチャンスが遠のいてしまいます。そこで、相手にとってプラスの情報も付け加えることがポイントになるのです。ポジティブな情報の例としては、①現在、働ける程度まで健康状態が回復している。だから就活をしているのだという事実。②医師からの就労制限も特にない。など、自分の健康状態上の感覚としてのプラスの情報と医療の専門家である医師の見立てとしてのプラスの情報の2つの側面です。これらプラスの情報も相手にしっかりと伝えることが、選考を左右するといっても過言ではないと筆者は感じています。

また、仕事をする上で配慮を得たいことがある場合、「今の状況」は該当業務にどう影響しそうか、また、どの程度配慮してもらえるのか、事業所の方としっかり話し合い、お互い理解を深め合うことが大切です。

次に、Q&A形式を使って、よくあるケースを検討してみましょう。

Q1:健康状態に不安がある中で、どのように仕事を選んだら良いでしょうか?

A1:仕事を選ぶ際に、まずは希望する職種で働いている方が、実際どのような働き方をしているか(1日の様子などを)確認してみましょう。大学新卒の場合、在学中にインターンシップで仕事の体験をすることで、その仕事での働き方のイメージが湧くと思います。

「彼を知り己を知れば百戦殆からず」という諺があるように、相手を知り、自分のことがわかれば、ミスマッチを防ぐことができます。就活の際、業界や職種の研究と自己分析が、今後の方向性を選ぶ上での原点であることを思い出してください。例えば、健康状態を念頭に置いたとき、応募先の働き方を把握し、自分の状況を理解することでミスマッチを回避することができます。応募の際、健康状態の不安要素を開示することで職場の理解が得やすくなるかもしれませんし、開示する必要がないケースもあるはずです。病気の「開示・非開示」に唯一の正解はありません。 人によっては「いきなりフルタイムで働くのはキツそう」と感じている方もいるでしょう。その際は、週3日、1日5時間程度のパートから「慣らし運転的」に仕事を始めるという選択肢も考えられます。

Q2:エントリーシートや面接の場面でポジティブな伝え方はあるでしょうか?

A2:ここでは、大学生の新卒時のこととして考えてみます。例えば、治療や入院で留年した場合(年度が変わってしまう場合)、基本的には、留年した理由を自ら積極的に伝える必要はありません。とはいえ、その理由を尋ねられたとき、答えないわけにはいかないでしょう。このようなとき、意識してもらいたいのは、過去に大病をしたという事実によって、相手がネガティブな印象だけを記憶に残してしまわないようにすることです。これは着眼点4でも示したように、ポジティブな情報も付け加えることも忘れないようにしてください。

次に、いわゆる“学チカ(学生時代に力を入れてきたこと)問題”。長期の休学を余儀なくされたとき、「学生時代に力を入れてきたことは何もない」と考えてしまいがちではないでしょうか。そのため、「病気の克服をがんばってきた」ことを学チカとして挙げる方が少なくありません。「病気の克服」はとても大切なことです。しかし、表現を工夫する必要があります。「病気の克服」は、理解されつつも、結果的に相手に同情を求めることになってしまうことがあります。その場合、自分が相手(会社など)に何を貢献できるのか、という印象が薄まり、伝わりにくくなってしまいます。ここで改めてポジティブな情報についてですが、少なくとも筆者が患者さんから話を聴く限り、皆さん、とてもかけがえのない貴重な体験をしていると感じます。それにもかかわらず、皆さんは、それに気づいていないことが多いのです。それはとてももったいないと感じます。貴重な体験、ポジティブな体験の例を挙げてみると、「家にいる間、SNSを使っていろいろ発信してきたので、情報を配信していくことは得意です!(広報ができる)」とか、「オンラインゲームをしていたので、知らない人とでもコミュニケーションが取れます」など、“仕事でも活きそうな経験や社会でも通用しそうなスキル”を療養生活の中で知らぬ間に身に着けていたということもあるのではないでしょうか?そうした貴重でかけがえのない経験を洗い出し、光を当て、その事実を浮彫にすることが何より大切です。そのために大学のキャリアセンターがあり、ハローワークや非営利組織等の支援機関などがあるのです。こうした場で、キャリアコンサルタント等の就労支援の専門家と一緒に、これらのテーマについて考えていくことをお勧めします。きっと、あなただけがアピールできる独自の強みが見えてくるはずです。

執筆:岡田 晃 先生(一般社団法人 治療と仕事の両立支援ネット-ブリッジ キャリアコンサルタント)

2023年10月公開