がん治療は卵巣機能にどんな影響があるの?-女性の場合

手術による影響
-卵巣や子宮の手術は『妊娠できる力』に影響を及ぼします

卵巣や子宮は妊娠するために必要な臓器であり、これらを手術した場合は卵子の数が減るなど、妊娠できる力が低下します。

両側の卵巣を摘出した(取り除いた)場合
卵巣の機能が失われ、妊娠できなくなります。

片側の卵巣だけを摘出した(取り除いた)場合
卵子の数は減りますが、残った卵巣が機能するため、妊娠できる可能性が残ります。

子宮を摘出した(取り除いた)場合
赤ちゃんを育てる部屋が失われ、妊娠できなくなります。

子宮頸部の手術を行った場合
妊娠しにくくなる傾向や流産・早産の危険性が高まります。

手術による影響

放射線照射による影響
-卵巣だけでなく、全身に放射線を照射した場合も卵巣機能が低下する可能性があります

卵巣への放射線照射により卵子の数が減り、妊娠できる力が大幅に低下します。また、全身に放射線を照射した場合も卵巣機能が低下する可能性があります。放射線の量が増えるほど卵巣へのダメージが大きくなり、妊娠できなくなることがあります。
子宮も影響を受けやすく、流産・早産・低出生体重のリスクが高くなります。

薬物療法による影響
-使用されるお薬の種類によって影響が異なります

(1)化学療法(殺細胞性抗がん剤)による影響

化学療法(殺細胞性抗がん剤)とは、がん細胞を攻撃することでその増殖を妨げたり、破壊する働きのあるお薬を用いた治療法です。主な薬剤の種類として、代謝拮抗薬、白金製剤、アルキル化薬、抗生物質などがあります。お薬の種類や量によって卵巣機能への影響のしかたや程度は異なりますが、乳がん、血液がん、肉腫などに使われる化学療法の一部は卵巣に直接作用し、卵子の数を減らし卵巣機能を低下させます。卵巣機能が低下すると一時的に月経がみられなくなりますが(無月経)、残った未成熟な卵胞が成熟してくると月経が再開します。ただし、未成熟な卵胞が少ない場合は月経の回復が難しくなります。また、たとえ月経が再開しても、妊娠しにくい状態になっている方も少なくありません。

(2)分子標的療法による影響

分子標的薬とは、がん細胞の表面にあるたんぱく質などをターゲットとして、がん細胞を効率よく攻撃する薬剤です。多くの種類のがん腫で分子標的療法が行われます。分子標的薬が卵巣機能に及ぼす影響は動物実験で調べられていますが、赤ちゃんを授かる力にどう影響するのかについて、まだ十分なデータはありません。

(3)内分泌療法による影響

内分泌療法はホルモン療法とも言い、ホルモンの分泌やはたらきを阻害し、ホルモンを利用して増殖するタイプのがんを攻撃する治療法です。乳がんに対する内分泌療法は、卵巣機能を低下させませんが、治療期間が5~10年間と長期にわたるため、加齢により自然妊娠や安全な出産が困難になる場合があります。また、乳がんの治療で化学療法の後に引き続き内分泌療法を行う場合、月経の再開が遅れる可能性もあります。

(4)免疫療法による影響

免疫機能は、体の重要な防御システムですが、一方で過剰な免疫反応を抑える機能が備わっています。免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)は、この免疫を抑える機能を解除し、がんに対して免疫が攻撃できるようにする薬剤です。妊娠中に治療をすると、流産や死産につながる可能性があると考えられています。

造血幹細胞移植による影響

造血幹細胞は骨髄の中で血球(赤血球、白血球、血小板)をつくりだすもとになっている細胞です。造血幹細胞移植は、まず大量の化学療法や全身への放射線治療を行い、その後に自分またはドナーから事前に採取した造血幹細胞を点滴で投与する治療法です。白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの血液がんに対して造血幹細胞移植を行う場合、最初に行われる大量の化学療法や全身への放射線治療によって卵巣はその機能を回復できないほどの大きなダメージを受けます。
なお、限られた施設ではありますが、全身への放射線照射を行う際に卵巣を遮蔽する(卵巣に放射線があたらないようにブロックする)方法が検討されています。それによって、移植後早期に卵巣機能の回復が期待できます。一方で、卵巣遮蔽することで照射量の低下による再発の懸念も考えられるため、緩解状態(症状が落ち着いて安定した状態)の患者さんに限定することなどが重要だと考えられています。