お悩み別対処法⑥ 外食をするときの工夫

がん治療中には、食事に制限があったり、嚥下障害や味覚障害によって食べ方を工夫する必要があったりするため、自宅以外での食事に不安を抱えている方もいるのではないでしょうか。また、まわりの人に気を使わせてしまうからと治療中の外食を遠慮してしまう患者さんもいらっしゃいます。しかし、工夫次第でがん治療中も外食を楽しむことができます。
このコーナーでは、がん患者さんが抱える食事に関するお悩みと対処法について、がん患者さんへの栄養指導のご経験が豊富な大妻女子大学の川口美喜子先生、東京医科歯科大学病院の豊島瑞枝先生、NTT東日本関東病院の上島順子先生からアドバイスをいただきます。第6回は、外食をするときの工夫に焦点を当てました。(2023年6月公開)

A:食事量を補うためには、高エネルギー・高たんぱくの食べやすい食品を小袋に詰めて、間食セットを用意しておくとよいでしょう。あらかじめ職場近くのコンビニやスーパーなどで、病態や状況に応じて食べられる食品を見つけておくことも大事です。

川口先生:治療前や治療後の職場での食事のとり方に不安や悩みを抱えている方は多いと感じます。よくある相談は「1回の食事量が少ないために、1日に必要なエネルギー量やたんぱく質量が不足してしまう」というものです。そのような場合は、職場でも比較的口にしやすいシリアルやドライフルーツ、つまみとして売られているナッツ類やチーズ、ささみなど、ご自身が食べやすいものを小袋に詰めて、職場に常備したりバッグに入れておくことをおすすめしています。

時間があるときに、職場近くのコンビニやドラッグストア、スーパーを見て回るのもよいでしょう。食べやすい形態、エネルギーが豊富なもの、季節を感じる食材、懐かしい惣菜、いろいろな味付けの食材など、病態や状況に応じて食べられる食品をあらかじめ見つけておくことが大事です。探してみると、麺類、おにぎり、寿司、サンドイッチ、野菜サラダ、揚げ物、煮物、カップフルーツなど、多くの種類の中から自分に合ったものが見つけられるのではないでしょうか。選ぶときのポイントは、主食(糖質)と主菜(たんぱく質)の組み合わせにすることです。いなりずし、オムライス、月見そばなどを選んだり、おにぎりと温泉卵、野菜サンドイッチと焼き豚などを組み合わせてもよいでしょう。

がん患者さんの患者会では、私は患者さんに「食事の主治医はあなた自身です」とお話ししています。職場環境や仕事内容、勤務時間帯も人それぞれですが、職場での食事を楽しむために余裕のあるときに「自分のご飯」探しをしてみましょう。

A:水分補給の際にプロテイン入りの飲料を飲んだり、帰宅後や休日に間食を増やして摂取栄養量を調整するとよいでしょう。

上島さん:胃の部分切除術後(幽門側胃切除 BI再建)の60代女性Aさんの例をご紹介します。Aさんは保育助手として2つの保育園を掛け持ちで勤務しています。お仕事がお好きな方で、退院後2週間の休養をとって職場に復帰予定とのことでした。Aさんから「仕事復帰後は元気な園児から目が離せず間食が難しい」とご相談を受けました。お話を伺うと、普段は飲水もままならないくらいお忙しいとのことでした。

保育助手は体力を使うお仕事であり、必ず間食をしてほしいと考えました。Aさんは午前と午後に別の保育園でお仕事をされているため、昼の移動時間に手軽に摂取できるゼリーや液体タイプの栄養剤(概ね1パックあたり200kcal)をとることをおすすめしました。また可能であれば、夕食後~就寝までに、スープや乳製品を摂取するよう提案しました。さらに、仕事時に摂取できない分の栄養量を確保するため、休日に十分な間食を取り入れるようお伝えしました。例えばお粥にチーズや卵、ささ身、野菜などを入れて栄養価を上げるよう提案しました。Aさんご本人も体力が落ちないように意識して間食を取り入れてくださり、術後の体重減少は1か月後で-1kgにとどまっています。術後6か月が過ぎた現在では体力も戻り、保育助手のお仕事も2か所掛け持ちで続けておられます。

間食がとれないお仕事の方も多いと思います。その場合でも水分摂取はできるので、例えば中身の見えない水筒にプロテイン入りの飲料を持参して、仕事の合間に摂取するのもよいでしょう。日中に間食がとれなければ、帰宅後や休日に栄養量を調整することも可能です。

A:栄養バランスを考えるよりも美味しいものを堪能する、大切な方との特別な時間を持ち、食事を楽しむことを大切にしましょう。

川口先生:新型コロナウイルス感染症が収束に向かいつつあり、治療中の食事の選択肢として外食に出かけることをおすすめできるようになりました。食事を作れない、作りたくない、または行きたいお店があるときは、ぜひ外食に出かけてみてください。
外食を利用する目的は、自宅で調理するよりも外食が美味しいと感じる料理を食べに行ったり、特別な日に素敵なお店で食事をしたり、誰もが期待することと同じでよいのです。栄養バランスを考えるよりも美味しいものを堪能する、大切な方との特別な時間を楽しむことを優先してみてください。

患者会で治療中に外食をうまく利用する工夫を尋ねると、とても楽しいアイデアが出ます。例えば、味覚障害で食べたいものが思いつかないときには、回転寿司に行って食べたいものを見つけるのも一案です。最近の回転寿司は、寿司以外のサイドメニューが充実しており、果物やデザートもあって選べる品数が多いうえ、自由に手に取れるのも利点です。自分なりの食べる量やスピードをコントロールできるため、一緒に食事する方に遠慮したり、相手に気遣いさせることが減り、安心して食事ができるようです。

食欲不振や味覚障害のときに、これまで味わったことのない多国籍料理や創作料理のお店に入ってみるのもよいようです。これまでに味わったことのない味に食が進んだり、新たな味や香りとの出会いにより食事の時間を楽しむこともできます。胃がん術後化学療法中の男性Bさんは、味覚障害で何も美味しく食べられない状態でした。そこでご家族が、これまで食べたことのない国の料理店に連れて行ってくれました。するとBさんは、味を想像できないからこそ、料理の味付けに思いを巡らせながら、あれこれと会話をしながら食事を楽しむことができたそうです。それ以降は何度かそのお店に足を運んで楽しい食事の時間を持つことができたと話されました。

A:免疫が低下しているときは生ものを避け、下痢中や術後すぐは油分の多い料理を控えましょう。食事量を調整するため少量サイズのメニューを頼むのもよいでしょう。咀嚼が難しいときは小さく切ったり、つぶしてから口に運ぶと食べやすくなります。スープやリゾット、卵料理などそのまま食べられるメニューもたくさんあります。

川口先生:治療中は体調によって無理のないようにメニューを選択しましょう。抗がん剤治療などで免疫が落ちているときは、生もの、特に二枚貝や牡蠣を避けます。下痢の場合や、胃切除術後間もないときには、油分の多い料理は少量にします。香りの強い物が食べにくいときは避けたほうがいいですが、症状や状態においては、わさびや唐辛子、山椒、こしょうといった香辛料は食欲を増すこともあります。デザートは口当たりがよくて食べすぎてしまうことがあるため、小さなサイズ、少量にするとよいでしょう。

中華料理店では通常の半分のサイズなどを注文する、和食ならば懐石料理のように少量ずつ提供されるメニューを選ぶなど、量を調整できるお店もおすすめします。外食を楽しむために、体調に応じて少しの工夫ができるお店選びをしてみましょう。

豊島さん:私の父は食道がんのため、固形物の飲み込みが難しくなりました。外食に行くのも体力が低下し一苦労です。それでも長年通っていた中華料理のお店に行きたいと言うので、家族で行くことになりました。お店の方に事情を話すと、スープや杏仁豆腐など、通常メニューの中から食べられそうなものをご提案いただき、大変ありがたかったです。
食材を細かくきざんだり、ミキサーにかけたり、さまざまな食形態に対応してくださる飲食店は増えていますが、治療中の方の専用メニューを置いているお店はまだまだ少ないのが現状です。しかし、そのまま食べられるメニューを探したり、自分の手元で食べやすく加工したり、食べ方を工夫すれば外食を楽しむことができます。

例えばスープやポタージュなどは問題なく食べられる場合が多いと思います。リゾットやドリア、雑炊なども、そのままでも食べやすいメニューです。エビやお肉のように多少硬いものが入っているときは、除いて食べます。よく煮込まれたカレーやビーフシチューなども比較的食べやすいメニューです。卵料理もおすすめです。オムレツやスクランブルエッグ、だし巻き卵、卵豆腐や温泉卵などを選んでみましょう。その他、豆腐やとろろ、ねぎとろなど、そのまま食べられるメニューは意外とあります。

咀嚼が難しい場合は、無理に口の中で食べ物を細かくしようとせず、ナイフ、フォーク、スプーンなどの食具を使って小さくしたり、つぶしてから口に運ぶだけでもだいぶ食べやすくなります。使いやすい食具を持ち込むのも一つの手です。単純ですが、一口の量を少なくすることでも食べやすくなります。いろいろなメニューが置いてある身近な外食店はファミリーレストランです。食べられそうなメニューがあるか、チェックしてみてください。

A:まずは管理栄養士に相談してみてください。「摂食嚥下関連医療資源マップ」を活用するのもよいでしょう。

豊島さん:舌がんにより舌亜全摘の手術を受けた50代男性Cさんの事例を紹介します。Cさんから「娘が結婚することになり、両家の顔合わせをすることになった。食形態を調整してくれるよいお店を知っていたら教えてほしい」とご相談を受けました。Cさんは舌を亜全摘されているため、咀嚼と飲み込みが難しく、液体やペースト状、ムース状のものを召し上がっておられます。

私は何年か前に、「すべてスプーンで食べられるフレンチフルコース」というケアフードの試食会に参加する機会がありました。すべてスプーンで食べられ、舌でつぶせるやわらかさであり、盛り付けも素晴らしくもちろん味も申し分ないコース料理をいただきとても感動したので、そのレストランをCさんにご紹介しました。後日、無事に両家の顔合わせが終了したCさんから、「ぜひ他の患者さんにも情報提供してほしい」と写真付きで喜びのご報告をいただきました。同じメニューを形を変えて一緒に食べることができ、とても楽しかったそうです。その後もご家族とともに外食を楽しまれており、ときには旅行にも出かけ、その都度「豊島さん、このお店はこんなふうに(食形態の調整を)してくれたよ!」と、写真を交えて報告してくださいます。「初めてのお店でも、一緒に行く家族が、『お料理をミキサーにかけていただくことは可能ですか?』とか聞いちゃうんだよね」と笑っていました。ご家族といろいろなお店を開拓しては、外食を楽しんでいらっしゃるので、私も大変勉強になります。その後、娘さんの披露宴では、ペースト状のコース料理を用意していただいたと大変喜んでおられました。

外食は体調や体力の問題もあり、ハードルが高いと感じる方もいると思いますが、コロナ禍を経て個室やデリバリー対応をするお店も増えました。外食をきっかけに食事がすすむこともありますので、あきらめずにチャレンジしていただければと思います。困ったことがありましたら、管理栄養士にご相談ください。
また「摂食嚥下関連医療資源マップ別ウィンドウで開きます」をご存じでしょうか。専門の検査やリハビリを受けられる全国の医療機関や、食形態の調整を行ってくれる飲食店、対応できる食形態の情報が掲載されていますので、ぜひご利用ください。

A:事前にレストランに相談してできる限り不安を解消しておきましょう。事前相談が難しい場合は、体調が許す範囲での食事や飲酒が可能か、主治医に相談してみましょう。

上島さん:大腸がんで横行結腸にストーマを造設されたばかりの60代男性Dさんの事例を紹介します。手術し退院後1週間でご親戚の結婚式に参加せねばなりませんでした。食べてはいけないものはありませんが、繊維の多い食事を控える必要があると言われ、結婚式での食事に対する不安がおありでした。

事前にメニューが分かっているようであれば、レストランに体調を伝えて、消化の悪いものは避けてもらうようご提案しました。また、消化の悪い食事の量を減らして提供してもらうことが可能か確認してもらうようにお話ししました。もし、食事内容の変更が難しい場合は、そのときだけの食事と割り切って、食べていただくようにお伝えしました。アルコールについてもご相談を受けました。Dさんは親戚に手術をしたことを伝えておらず、お付き合い上、飲まないのは難しいとのことでした。主治医に飲酒が可能か許可を得てもらい、その上で深酒にならないように、他人から注がれるお酒以外は、ノンアルコールの飲み物をレストランに提供してもらうよう交渉することをご提案しました。Dさんは事前にレストランと相談され、お食事や飲み物の内容を変更してもらうことが可能でした。親戚の方にも気づかれずに済んだそうです。

結婚式などのイベント時は料理がたくさん出てくることもあります。また、人とのお付き合いのため、食事を残したりするのが難しい場面もあります。事前にレストランに相談して解決できることは解決しておきましょう。事前相談が難しい場合もあると思います。全く食べないことや、残すことが難しい方は、主治医等と相談し、身体が許す範囲でそのままの食事をよく噛んで食べていただければと思います。消化の悪い食材は摂取を控えめにするとよいでしょう。

【アドバイザー】
大妻女子大学家政学部教授・がん病態栄養専門管理栄養士 川口美喜子先生
東京医科歯科大学病院 摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士 豊島瑞枝さん
NTT東日本関東病院 がん病態栄養専門管理栄養士 上島順子さん

がんwithでは、たくさんのレシピを紹介しています。
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→食べたくなる、作りたくなる食楽レシピ