お悩み別対処法⑤ コロナ禍における食事コントロール
新型コロナウイルス感染症の影響で、生活や食習慣の変化を余儀なくされてしまった方も多いのではないでしょうか。患者会などの、自分の思いや参加者の思いを語りあったり情報を共有したりできる機会も減っています。しかし最近では、オンラインを活用した食事・栄養の相談の機会もあります。よりよいがんの療養と日常生活を送るために、栄養と食事について専門家の意見を参考にしましょう。
このコーナーでは、がん患者さんが抱える食事に関するお悩みと対処法について、がん患者さんへの栄養指導のご経験が豊富な大妻女子大学の川口美喜子先生、東京医科歯科大学病院の豊島瑞枝先生、NTT東日本関東病院の上島順子先生からアドバイスをいただきます。
第5回は、コロナ禍における食事のお悩みに焦点を当てました。(2022年8月公開)
A:カロリー不足の場合は、間食を増やす、タンパク質を多めに摂取することを意識してみましょう。不安があるときは、ひとりで抱え込まず、オンライン相談等を利用して専門家に相談することをおすすめします。
川口先生:第2子妊娠後期に乳がんがわかり、術後に出産し化学療法を終え、今後は分子標的薬による治療予定の方の例をお示しします。産後、体重が妊娠前と同じ53kgに戻った後44kgまで減少しましたが、1日3食とっており栄養面でも体重減少は問題ないと判断されていました。しかし、ネット等の記載から、一定のペースで体重が落ちているからがん悪液質(筋肉の分解促進、脂質の分解の促進など全身の炎症により栄養不良となる)のために衰弱死するのではないか、という不安におそわれて相談にいらっしゃいました。
まずは体重の推移と食事内容・回数・量を聞き取り、栄養評価から始めました。現在のBMIは15.8kg/m2で低体重、5か月間の体重減少率13%で栄養状態に影響を及ぼす値でした。体重減少の原因は、白米や間食を控えた糖質制限を始めたことでカロリー摂取量が1300~1400kcalと必要量に届いていないことと、咽頭炎の発症でした。ご本人と相談して、目標エネルギー量を元の体重53kgを目指し1日1600kcalとしました。具体的には、主食のご飯やパンの量を多めにする、タンパク質をとれる肉のメニューを取り入れる、エネルギー補給のため調理に油を使用すること、間食を足すこと、をおすすめしました。
治療中の体調管理は、体重変化の観察と食事内容がご自身で判断しやすい点です。今回の患者さんのように、ダメという思い込みである種の食品の摂取をやめてしまい摂取カロリーが減ってしまうこともあります。減らした量は、他の食品で補わなければ体重が減少し、低栄養を引き起こします。栄養状態を維持することが治療の継続につながりますので、体重、食事内容・回数・量、嗜好を時々記録してみるとよいでしょう。
- 参照
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- 目標体重(標準体重)の求め方:標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
- BMI:[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出される値
(日本肥満学会ではBMI22を適正体重(標準体重)、25以上を肥満、18.5未満を低体重と分類) - 体重減少率:医学的な体重減少とは、意図的な体重コントロール(ダイエットなど)をしていないのに、6~12か月で体重が4.5kg、もしくは5%以上減少した場合を指す
上島さん:子宮頸がん術後で化学療法を開始された40代女性の例です。食欲はあり、味覚障害などの症状もなく、1日3食摂取されていましたが、採血検査の結果から主治医に栄養摂取不足を指摘されました。
お話をきくと、食事量は落ちていないものの、牛や豚の脂はがんになりやすいと聞いたため摂取していないとのことでした。またコロナ禍の影響で収入が減ってしまい、食費を抑えるために1回の食事の品数を少なく野菜中心にされていました。そのせいで、1日あたり約100~300kcalのカロリー摂取不足が考えられました。また、在宅ワークが中心となり活動量が大幅に減少したことで、全身の筋肉量が低下していることもわかりました。
この方には、タンパク質の摂取が必要であることをお伝えし、金銭面にも配慮しつつ食事にタンパク質を取り入れるアドバイスをさせていただきました。牛や豚の脂を摂取するとがんになりやすい、というエビデンスはありませんが、ご本人の心情に配慮し、牛・豚以外の食品からタンパク質を摂取することとしました。また、間食も取り入れてエネルギー摂取を補うようおすすめし、3週間後には、体重は1.7kg増え、貧血は改善しました。ご本人も、体調の改善を実感されており、食事と運動の重要性を認識されるようになりました。
A:生鮮食料品の入手が困難になるので、乾物や冷凍野菜などを活用しましょう。ストレスがたまるときは甘いものも可。
豊島さん:私自身の自宅待機経験から、お役に立ちそうなことをお伝えできればと思います。
私は濃厚接触者となり約3週間自宅待機となりました。不要不急の外出は避けるようにとのことで、ネットスーパーや宅配が頼みの綱でした。とはいえ、ネットスーパーも翌日以降の配達となり、生鮮食品をすぐに手に入れるのが難しかったです。冷蔵庫の野菜室にも限りがあるので、たまねぎやジャガイモといった常温保存可能な野菜を多めに準備すると良いと思います。海藻サラダやひじき、切り干し大根などの乾物は日持ちが良く場所も取らないため、不足しがちな野菜を摂るのに便利です。肉や魚の代用品として、豆類の缶詰やお麩が便利です。冷凍庫に余裕があれば、冷凍野菜、肉、魚を、各1食分ずつを目安にストックできると良いでしょう。
ストレスの溜まる自宅待機生活、ふだん食べない甘いものが食べたくなるものです。菓子類もあると心が潤います。私は寒天とフルーツ缶でゼリーを作ったり、ホットケーキを焼いておやつにしました。
自宅にこもっていると、どうしても生活が乱れがちになるので、食事の時間をできるだけ一定にすることも大切です。
A:鶏肉や野菜を多く含むメニューを選ぶ、レトルトや総菜を買うときは小さめサイズを選ぶ、といった工夫ができます。
川口先生:コロナ禍の食生活について患者さんにお話しを聞いていると、宅配、コンビニやスーパーの惣菜や弁当、近所の飲食店の利用頻度が増えていることがわかりました。また、空腹感を感じることが少なく、手軽に食べられるスナック菓子、即席めんや菓子パンなど室温保存できる食品で済ますという方も多いようです。コロナ禍の生活や食環境では、栄養バランスを考えながら食事を摂ることは難しい面もあります。しかし、治療継続や今後の体調管理のために、筋力を落とさない、体脂肪を急激かつ過剰に増やさないことは免疫維持の観点からも重要です。
そのためには、食事に主食、主菜、副菜を揃える意識を持ち、主菜でタンパク質をしっかり摂取することが大切です。副菜は野菜(海藻やキノコ含む)料理にしましょう。季節を感じる旬の野菜料理(菜の花の和え物、焼きナス、春キャベツのサラダなど)を一品添えると食事の満足感も増します。宅配を利用する際は、ピザ、寿司、麺類、丼物、といった炭水化物中心のメニューになりがちです。その場合は、インスタント味噌汁に冷凍野菜や卵を入れたり、牛乳を加えて作る、インスタントの野菜ポタージュなどを足すことでタンパク質と野菜を摂れます。レトルトの麻婆豆腐、カレーなどを選ぶときは、ご飯の量を自身で調整しましょう。また、食品を購入する際はなるべく小さいサイズを選択することを意識しましょう。特にデザートは口当たりが良く食べすぎてしまうので注意が必要です。
食事内容を炭水化物に偏らせない、一品で済ませない、タンパク質を意識して摂ることを習慣にすると体重の急な増加を予防できると思います。
上島さん:右精巣腫瘍の手術と抗がん剤治療を完遂し無再発で2年経過されていた30代男性の例をご紹介します。コロナ禍で職場の飲食店が休業となり、自宅で自粛生活をする中で、3か月間で12kgの体重増加と脂肪肝を認め、栄養指導依頼となりました。
自粛生活中は、活動量が急激に減ったことに加え、食事は宅配か近所にラーメンを食べに行かれており、時間に関係なくスナックやアルコールを摂取していたため糖質と脂質中心のエネルギー摂取過多の状態でした。脂肪肝は肝がんのリスクにもつながることから、ダイエットが必要です。ご本人は仕事が始まれば活動量が増えて痩せられると楽観的でしたが、仕事復帰時期は未定でしたので、食生活を見直す必要性についてお話しし、糖質と脂質の摂取量を減らすこととしました。まず体組成を測定し体の状態を数値で確認してから、目標を設定しました。宅配メニューの中から鶏肉や野菜を多く含む料理を選択する、ラーメン摂取回数を減らす、可能な限り運動をする、という内容を実施してもらいました。その結果、半年間で5.3kg体重が減り、体脂肪率は4.5%の減少、筋肉量は0.4kg増と、筋肉量を減らすことなくダイエットに成功しました。
コロナ禍で、今までの生活様式からの変化が激しい患者さんにとって、管理栄養士による客観的な評価や数値は生活を見直すきっかけになっているようです。
【アドバイザー】
大妻女子大学家政学部教授・がん病態栄養専門管理栄養士 川口美喜子先生
東京医科歯科大学病院 摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士 豊島瑞枝さん
NTT東日本関東病院 がん病態栄養専門管理栄養士 上島順子さん
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