お悩み別対処法④ 体力を向上させたいときの食事

がんの治療では、治療前・治療中・治療後の状態に応じた栄養と食事摂取によって体力の維持や向上が必要になってきます。しかし、病気や治療の影響で、思うように食事ができず、体力が落ちてしまう方もいらっしゃいます。
このコーナーでは、がん患者さんが抱える食事に関するお悩みと対処法について、がん患者さんへの栄養指導のご経験が豊富な大妻女子大学の川口美喜子先生と東京医科歯科大学病院の豊島瑞枝さん、NTT東日本関東病院の上島順子さんから、どのようなアドバイスを行っているのか、実例を挙げてご解説いただきます。
第4回は、「体力を向上させたいときの食事」を取り上げます。(2021年12月更新)

Q1抗がん剤の治療の影響で、食べる量が減ってしまいました。体力をつけるにはどうしたらよいでしょうか?
A食べられるときに、食べたいものを食べるようにしましょう。

川口先生

治療の回数が進んでいくと副作用の出現頻度と症状が酷くなり食欲が落ちていく方がいます。「食べられるとき、食べたいものを食べて」と医師も看護師も私もアドバイスを送ります。患者さんは、食べたいものを思い起こせない、食べることを考えることも辛いと感じるときもありアドバイスが虚しく聞こえることもあるでしょう。がんの治療経過では、エネルギーを多く消費していますから、何よりも次回の治療までに体重を落とさない、体力を回復しておくことが目標になります。夏の間はもちろん冬季の部屋では脱水予防も大切ですが、水分さえも口にできない方にとっては、辛いことです。水分摂取はミントなどハーブ類、レモンなどかんきつ類の利用やほうじ茶、抹茶などで飲める方がいます。

エネルギー量と他の栄養を確保するための工夫を考えます。治療翌日に食欲がなかったら次の日に多く食べようという気持ちで臨みましょう。体力を維持するためのエネルギー量は、薬を服用している方は、水の代わりに飲みやすい栄養剤を手元に置き、薬を飲むのもよいでしょう。食べることに悩むとき、物語の詰まった料理は食事をとるきっかけになります。温かい味噌汁、懐かしい卵焼きの味、お誕生会のときの大好きな特別メニューなど、思い出の味から食欲がわきます。

マヨネーズ入り卵焼き、ごま油を使用した青菜のナムル、ザーサイ、ネギとゴマ油をトッピングした冷奴、ごはんをチャーハンやドリアにするなど、油脂を活用してエネルギーアップしましょう。ナッツ類やミニチョコレート、小袋シリアル、ドライフルーツ、冷凍のミニグラタン、肉まん、アイスクリームや冷凍フルーツなど、間食を準備し、食事で不足する栄養を補いましょう。美味しく食べることが一番大切ですが、抗がん剤治療中にも体力を落とさないために、あなたが食べられるものを家族とともに積極的に見つけることです。


上島さん

急性骨髄性白血病で抗がん剤治療を行っている60代の男性は、味覚障害が出ており何を食べてもおいしいと感じませんでした。入院治療をすると、抗がん剤の副作用で食欲も落ちてしまいます。毎回の入院治療期間はおおむね2週間ですが、その間にだいたい2kg減量されることが多いです。治療を続けるために、栄養補給は重要であることを栄養指導で認識していただき、退院後食欲が戻ったら、たんぱく質と脂質を多く含む食材(牛肉やウナギなど)を中心にしっかり食べていただきました。味覚障害の影響で本来の味とは違い、美味しさも減少している状況ですが、栄養補給の重要性を理解されているため、しっかり食べてくださっていました。約1か月間の自宅退院の間に、毎回体重を回復されてきています。

治療の影響で食べられないときもありますが、食べられるときには栄養価の高い食事をして体重を戻すようにしましょう。


豊島さん

Aさんは、術後、抗がん剤と放射線による追加治療が決まりました。抗がん剤は間隔をあけて2回投与が予定されています。1回目の抗がん剤治療の後、なんとなく気持ちが悪いとのことで、食事摂取量が半分以下になりました。食べられそうなものをうかがいましたが「わからない」とおっしゃいます。まずは食べられるものを食べていただき、お口に合うものがあれば提供することにしました。味噌汁やすまし汁などの汁物は飲めたとのこと、それをきっかけにフルーツやデザートなどのさっぱりしたもの(ただしミルクを使用したものや、甘味や脂肪分が濃いもの以外)は大丈夫かも、とご自身で提案してくださいました。数日同じような状態が続きましたが、1週間後にはまたもとのように食べられるようになりました。そこで、たんぱく質とエネルギーを確保できるよう、ご本人と相談し、食べやすい卵や豆腐、乳製品などを組み込み、デザートも利用して2回目の抗がん剤治療に備えました。2回目の抗がん剤治療の前には、1回目のときを思い出し、「月曜日までフルーツとデザートと汁物にしてほしい」と希望され、ご自身で立てた献立のスケジュールで抗がん剤治療を乗り切りました。食べられなくなる期間の見通しがついている場合は、食べられる期間にしっかり栄養補給して治療に備えていくことが多いです。

Q2手術を控えています。体力をつけておくようにと言われていますが、何をしたらよいでしょうか?
A必要な栄養素や量を把握し、どうやって食事で摂取していくことができるか、医療スタッフと相談しましょう。

上島さん

直腸がんで術前化学療法のために入院された60代男性のお話です。お仕事は現役でされている傍らご自身はスポーツマンで、夏はテニスのインストラクター、冬はスキーのインストラクターをされています。

術前6コースの化学療法開始時に、栄養指導に入りました。化学療法を導入される方には、筋肉量、筋力、身体機能測定を実施したうえで栄養指導を実施しています。

この方は、筋肉量、筋力、身体機能ともに問題ありませんでした。しかしながら、化学療法中に筋肉量や筋力が落ちる方は少なくありません。この方は「化学療法を実施するうえで運動を制限した方がいい」というお考えをお持ちでしたが、栄養指導では、副作用が少ないときはしっかり食べること、合わせて運動も実施するようにお伝えしました。もともと主食を食べず、1日2食の食生活をされていましたが、化学療法中に食べる量が減り、体重減少を認めました。それでも、自ら運動し、3食きちんと食事することを意識され、体重を増加させてこられました。

その結果、体重は化学療法開始時と比べ術前には-4.4kgの減少を認めましたが、四肢骨格筋量は化学療法時から変化なく横ばいで維持できていました(骨格筋量指数(SMI)8.6kg/m2)。

がん治療中は、今までの食習慣を見直す機会でもあります。体力をつけるために、食べられる方は3食きちんと食べて、運動をすることをお勧めします。


豊島さん

40代のBさんは、舌がんの手術を控えていましたが、痛みで食事がすすみません。さらに、ごはんと砂糖、肉類はがんによくないと思っており、日々の食事はほぼうどんのみとなっていました。手術は腫瘍切除と再建を伴うものでしたので、できるだけたんぱく質とエネルギーを確保したいこと、体重も減らない方がよいことを伝え、毎食1品はたんぱく質を摂るように心がけていただきました。痛みがあるため、豆腐や卵、乳製品が摂りやすく、痛み止めを併用しながらONS(経口的栄養補助食品)も使いました。どのような栄養がどのくらい必要か、どのように栄養を確保し食事をしていくか、実践可能なことをしっかり話し合えるとよいと思います。食事の用意や調理が難しいこともあるでしょうし、量が多い、痛い、しみるなど、我慢しながら食事をするのは苦痛です。頑張らなければできないことは続かない可能性もあるので、言われたことを頑張るだけでなく、ご自身の思いや不安など、管理栄養士に伝えていただけるとアドバイスがしやすいです。


川口先生

口腔がんで入院予定の50歳代の患者さんの例です。術前化学療法と手術を控えていました。体重減少はわずかで、栄養状態にも問題はありませんでしたが、手術を前に不安が募りました。入院治療(生活)は、治療を目標に生活習慣や食事は規則的で患者さんにとっては制限と感じる方もいますが、準備が整っています。しかし、手術のために入院するまでの在宅療養の期間の食事はご自身で準備し、体力や免疫力をアップしていかなければなりません。患者さん自身が正確な情報を得ることが大切です。インターネットや雑誌、他の患者さんの体験談から得た情報を参考にした食事管理で、体重減少や消化管の不調のため便秘や下痢に陥る方もいます。

この患者さんも不安なため、入院前に食べておいた方がよいものを教えてほしいと望まれました。まずは、現在の体重を評価し、目標体重に近ければ体重を落とさないことです。そのために現在の食習慣を大きく変更しないようにします。便秘、下痢や腹部膨満感など消化器症状があるときは、食習慣や食事内容を書き出してみましょう。これまでと大きく変化した食事内容などがないかを思い起こします。ビタミンやミネラル、たんぱく質や脂質が不足しないよう、緑黄色野菜と魚や大豆製品などのたんぱく質を含む食品は、積極的に食べるようお勧めしました。

食事は不足したり摂りすぎたりすると、口内炎、便秘・下痢、体重変動、足がつるなど体調の変化としても現れます。時々、連続3日間の食事記録と体調をメモしてみると、変化に気づくことができ、お勧めです。

Q3主治医の先生から、そろそろ職場復帰を考えてもよいと言われましたが、治療中に体力が落ち、以前のように働けるか心配です。
A復職後をイメージして、いつ、どこで、どんなものを食べられそうか、具体的に考えてみましょう。

川口先生

復職後の生活時間と活動量の変化を意識して、「慣らし運転」をしておきましょう。必要栄養量は増えますが、食事を準備する時間がなかったり、疲労感で食べることが億劫になったりすることもあります。3食の食事時間と食事をとる環境を思い描いてみると、生活リズムの変更が必要になることがわかります。朝食を準備する時間を確保することが困難な場合には、時短調理と手軽にとれるバナナ、ビスケットやドリンクタイプ、スープタイプの濃厚流動食やゼリータイプの栄養補助食品を試しておきます。帰宅後の食事を欠食したり、総菜やインスタント食品の利用頻度が増すと、体力や気力が低下します。朝のうちに仕込んで置ける保温調理器でカレーやシチューなど煮込み料理を準備しておいたり、総菜やレトルト食品にひと工夫、たとえばカップ麺に温泉卵、総菜ポテトサラダにきゅうり、揚げ物に千切りキャベツや大根おろし、から揚げを南蛮漬けにするなどして食材を加えたりすることは、栄養素を多く摂取でき、食べたときにも満足感があります。食事量が足りないと感じた日、活動量が多かったと感じた日は、栄養補助食品をとりましょう。自分の好みの栄養補助食品をスーパーやドラッグストア―で見つけることも楽しいものです。


上島さん

胃全摘術を受けられた、保育助手として働いておられる60代女性のお話です。お仕事では、小さなお子さんを相手にされるため体力が必要です。胃切除後のため、間食をすることが必要ですが、いつでも間食をすることができるわけではありませんでした。どのように栄養補給を行っていくかご本人と相談し、隙間時間で栄養補給ができ、気軽に手に入る飲料またはゼリータイプの経口栄養補助食品を摂取することにしました。入院中から栄養補助食品を試してもらい、続けられる味かどうかや、摂取するタイミングをイメージしてもらいました。

退院1か月後から仕事を再開されました。およそ1か月に1回、外来受診ごとに栄養指導に来ていただき、体重の減り具合を一緒に確認し、仕事開始後の食生活でうまくいかなかった点と改善点を話し合いました。もうすぐ術後1年が経ちますが、お元気に保育助手のお仕事を継続されています。

退院前に仕事復帰後のイメージを医療スタッフと共有することで、具体的な対策を考えることができます。少量で栄養価の高い栄養補助食品もドラッグストアで手に入りやすくなってきていますので、上手に取り入れてみましょう。


豊島さん

食事に時間がかかったり、食形態の調整が必要だったりする患者さんは、復職後、昼休みの間に食事が終わらないのではないか、メニュー選びに苦戦したりするのではないかと心配されます。

口があまり開かず、咀嚼の力も強くないCさんは、今後復職を予定されています。もともと1日2食で朝は食べず、昼は社員食堂かコンビニエンスストアで調達、夕食は買ってきたものを食べるという生活だったそうです。入院中はお粥と軟らかいおかずを召し上がっていましたが、社員食堂にはそんなメニューはありません。また、1時間のお昼休みの間に、何を食べるか決めて購入し、食べた後には歯みがきも必要です。食事に時間がかかる場合は、食事の量を少なくし、足りない分の栄養をおやつで摂るのもひとつの手です。ゼリー飲料などは常温保存可能でふたが閉められ、歯に挟まったり詰まったりしないので、食後のお掃除も比較的楽に済みます。

食形態の調整が必要な場合は、食事の際に「マイ食具」があると便利です。ナイフやフォーク、スプーン、キッチンバサミなどがあると、手元で食形態を調整することができます。コンビニでもらえるプラスチックのスプーンやフォークでは、力が入りづらく折れてしまうことがあるので、自分用のものを持参すると調整がしやすいです。コンビニのおにぎりはスープとセットで購入し、スープの中に入れて崩して食べると食べやすくなります。リゾットやドリア、グラタンなどもそのまま食べやすいメニューです。Cさんの場合は、2食では栄養量の確保が難しいと考え、乳製品だけでもよいので何かしら朝食を摂り、おやつと食具を用意することにし、ふだん購入するメニューについて何を選ぶか相談しました。かたまりのお肉よりひき肉の方が食べやすかったり(トンカツよりもメンチカツ)、お肉よりはお魚の方が食べやすかったりと、メニューを具体的に考えることで、復職後のイメージがつきやすくなります。

Q4もうすぐ退院です。日常生活で必要な体力をつけていくにはどうしたらよいでしょうか?
A適度な運動でお腹を空かせ、食事を美味しく、楽しくとることが、体力維持につながります。

川口先生

運動と食事の両面からの体力づくりが大切です。動かないことは食欲が低下し、体力の低下となり、疲れやすく気分が落ち込みます。これを負のスパイラルと言います。

両親と3人暮らしの20代女性患者さんは、退院後に食事の時間が暗く憂鬱になってきました。心配そうな両親との会話も少なくなり、段々と食事量も減り、食事の時間が楽しくありません。両親に申し訳なく思う毎日です…というご相談でした。外に出る機会も少なくなっていたようですが、思い切って食事栄養指導に来てくださいました。

食事をすることは、コミュニケーションが生まれることでもあります。楽しい、美味しいと思える食事が、今必要としている栄養量を食べることができて、楽しくない・食べたくないという負のスパイラルを解消し、体力づくりにつながります。

まずは朝、目覚めたときに口を清潔にしましょう。熱いものや冷たいものを口に含んでみます。夕食までの時間は、身体を動かし、お腹が空いたという感覚を持ちます。食卓には、季節の食材を1品に載せるために、ちょっとの努力をします。夏には、わかめスープに茗荷の千切り、赤いトマトにバジルや茹でたスナップエンドウを添える、鯵の南蛮漬け、サラダに枝豆をトッピング、トウモロコシご飯そしてデザートにスイカや桃を添えるなどしてみましょう。すると、気持ちが穏やかになり、頭に浮かぶことが明るくなり、会話も始まります。そのような栄養指導から、ご本人はお母さんと一緒に食事の準備をしてみますと少し明るい顔になりました。

食事を美味しく、楽しくすることが、退院後の日常生活に戻ったときに、まず始めるべきことのように思います。


豊島さん

がんの手術のため入院された88歳男性のDさんは、杖歩行でしたが自立されており、問題なく日常生活を送ることができています。しかし、入院期間は3週間を予定しており、術後は経腸栄養となるため、体力の低下や摂食嚥下機能の低下が心配でした。術後の経過は良好で、術後10日間は経鼻胃管からの経腸栄養で体重あたり30kcal/kg(約60kgでしたので、1800kcal)摂っており、高血糖や下痢などなく過ごされていました。独居でしたので「歩けなくなっちゃ困るから、非常階段を昇り降りしたい」と強く希望されましたが、安全面からお断りさせていただき、代わりにベッド上で安全にできる運動をご紹介しました。お話し好きだったことも、口の運動につながりました。

体力づくりには栄養はもちろんですが運動も欠かせません。運動することでお腹もすきます。また、話しづらさを気にせずよくお話されていたからか、経口摂取になってもONS等使用せず、1800kcalの食事をしっかり食べることができ、体重も、日常生活動作(ADL)も、入院した時の状態を維持したまま無事退院することができました。退院後も元気に通院されています。

【アドバイザー】
大妻女子大学家政学部教授・がん病態栄養専門管理栄養士 川口美喜子先生
東京医科歯科大学病院 摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士 豊島瑞枝さん
NTT東日本関東病院 がん病態栄養専門管理栄養士 上島順子さん

がんwithでは、たくさんのレシピを紹介しています。
あなたの「食べたい気持ち」に応えるレシピがあるかもしれません。
→食べたくなる、作りたくなる食楽レシピ