お悩み別対処法③ 体重コントロールに向く食事
がん治療の影響で、食欲の変化や膨満感、活動量の低下などから、治療前と比べて体重がかなり変動する方がいらっしゃいます。治療の継続や治療後の経過には、適正な体重を維持することが大切です。
このコーナーでは、がん患者さんが抱える食事に関するお悩みと対処法について、がん患者さんへの栄養指導のご経験が豊富な大妻女子大学の川口美喜子先生と東京医科歯科大学病院の豊島瑞枝さん、NTT東日本関東病院の上島順子さんから、どのようなアドバイスを行っているのか、実例を挙げてご解説いただきます。
第3回は、「体重コントロールに向く食事」を取り上げます。(2021年12月更新)
- Q1化学療法や放射線療法で体重が減ってしまいました。これ以上体重を減らさないようにして、減ってしまった体重を増やすには、どうすればよいでしょうか?
- Aまずは、食べられるものを探しましょう。
上島さん
膵頭部がん術後に化学療法を導入された50代女性のお話です。化学療法の副作用で味覚障害が出てしまい、何を食べても美味しくなく、食事量が減ってしまわれました。栄養相談時に色々と食べられそうなものを一緒に探しましたが、なかなか体重減少は収まりませんでした。コーヒーの苦味は大丈夫ということがわかり、コーヒーの中にMCTオイルと粉末プロテインを入れてエネルギーの確保をしました。安定して食べられるものがあるとわかったことで、化学療法を乗り切るコツを掴み治療に前向きになれたとおっしゃっていました。体重は、栄養相談後2kg増加し、今も維持されています。また味覚障害もレジメンの変更に伴い改善され、今では美味しく食事を召し上がっておられます。
化学療法の副作用は以前と比べると減ってはいますが、食思が落ちてしまうことはあります。しかしながら、副作用が落ち着くとまた食べられるようになりますので、心配しないでください。食べられるときにしっかり食べて体力を戻すことが、化学療法を上手く乗り切るコツです。何かひとつでいいので、治療中に安定して食べられる食品を見つけるようにしましょう。前向きに治療を行う上でもプラスになると思います。
豊島さん
頭頸部がんの患者さんの場合、放射線治療の照射部位が頭頸部であるため、「食べる」機能をつかさどる「口」や「のど」に皮膚炎、口内炎、粘膜炎といった炎症が起こります。痛みや食べづらさにより、食事摂取量が減り、体重減少につながります。そのため、口腔ケアは非常に重要です。当院では歯科医師をはじめ、歯科衛生士、薬剤師、摂食・嚥下障害看護認定看護師などが情報共有し、治療のサポートに当たります。
舌がんで、リンパ節への転移がわかり、頸部郭清と放射線治療、化学療法を行ったHさんは、治療を完遂したものの、3kgの体重減少をみとめました。術後の頸部のつっぱり感により飲み込みづらさがあり、照射の影響で唾液が出にくく口腔内が乾燥するので、汁気のあるものでないと食べづらいそうです。栄養剤や栄養補助食品は口に合わず、とろみあんの使用やミキサーにかけるなどの形態調整も嗜好に合わず、食べづらいとわかっていても常食を希望されていました。しかし、やはり食べづらさは強く、たくさんは食べられません。
そこで、ご本人の食べたいもの・食べられるものを中心にメニューを組み、乳製品等を補食として使用し、無味無臭のMCTオイルを取り入れることで栄養量のアップを図りました。オイルはお料理にかけて食べていただきましたが、すべりもよくなり一石二鳥でした。退院後も摂食嚥下リハビリテーション外来に定期的に通院していただき、飲み込みやすくするためのリハビリの指導や、唾液を出すための薬剤の処方、口腔ケアの方法の提案など、食事以外の面からもアプローチをし、少しずつではありますが、食事摂取量が増えてきました。
川口先生
体重が減るのはなぜでしょう。味覚障害、口内炎や便秘などの副作用による食欲不振のために食事の量が減ったのでしょうか。下痢や嘔気・嘔吐のために食べた物の吸収が阻害されているのでしょうか。食事の準備や食事に向かう気力がなく、食事回数や食事時間が減ったのでしょうか。副作用対策を考えた食事を参照し、食べられるものを見つける努力をすることが必要です。
- ポイント
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- 原因を考えてみましょう
副作用による食欲不振? 消化吸収の障害? 精神的な影響による摂取量の減少?
- 原因を考えてみましょう
これまでも、同じような悩みや不安を抱えた患者さんの相談に答えてきました。一人一人の食環境が異なるため、個別の対応になります。栄養相談で大切にしていることは、一人一人に必要な栄養量を摂っていただくことです。日々の体調や病状も変化します。まず、スーパーやドラッグストアをぶらり散策して食べられそうなものを見つけてみましょう。スポーツ愛好家の方向けのコーナーでは、エネルギーやたんぱく質、ビタミン、ミネラルを補給するためのブロック、パウダー、ゼリーなどがあります。乳幼児や介護食のコーナーには食べづらいときにも食べやすい商品があります。家庭や職場に常備しておくとよいでしょう。
「朝食が食べられない」「夕食は疲れて飲み物程度しか摂れない」など、食事回数が減った方の相談も受けます。口の中を清潔にすることで食欲がわいたり、食べる気力が回復することがありますから試してみてください。また、朝食にはスムージーなど、無理なく摂取できるメニューもお勧めします。
まずは、食事の習慣と食べる回数に気を配ることが大切です。そして、エネルギーアップのために食べられるものを見つけること。例えば、茶碗蒸しに生クリームをかける、薬を飲む時には飲みやすい栄養剤で飲んでから口をすすぐなどもよいでしょう。
- Q2手術をする前に体重を減らすように言われています。食べる量を減らして体重を落とせばいいのでしょうか?
- A食事を抜く「食べないダイエット」はNG。必要な栄養を摂りながら、食事内容の見直しを。
上島さん
早期胃がんのため手術を受ける予定の70代男性が、ダイエットのための栄養相談にいらっしゃいました。その方のBMIは29.0kg/m2でした。手術のためにダイエットが必要と言われ、栄養相談初回時は昼食を抜くという食事をされてきていました。しかしながら、アルコールとお菓子が大好きで、深夜にテレビを見ながらそれらをよく摂取されていました。深夜にお菓子を召し上がる理由として、禁煙をするようになり口寂しくなったのと、夜なかなか寝付けないことがありました。昼食はしっかり食べてよいことをお伝えし、深夜の食行動を見直すことに重点を置きました。お菓子の内容を変えることは可能そうであったため、エネルギーの少ないものを選択するようにお伝えしました。また、歩行運動も出来そうとのことで、奥様と歩いていただくことにしました。歩行運動開始後、夜の寝つきは若干よくなったとのことでした。栄養相談開始後2週間で体重が2kg減少したのをきっかけに、その後はご自身でルールを決められ、21時以降は食事摂取をしないことにされました。手術まで2か月間の間に4kgの体重減少となりました。
ダイエットをするために、食事を抜く方にお会いすることがありますが、その方法は手術という大きな侵襲を受ける予定のあるお身体にはお勧めできません。たんぱく質やビタミンなどの栄養素はきちんと確保した上で、余分なエネルギー量を減らしていくやり方がよいと思います。可能な方は運動も併用するとよりよいでしょう。
豊島さん
手術前に体重を減らす場合、ただ単純に食事摂取量を減らしてしまうと、脂肪ではなく筋肉量の低下をまねいてしまう点、栄養素の偏りから低栄養のリスクが高まってしまう点に注意が必要です。頭頸部がんの患者さんのなかには、痛みや食べづらさから食事摂取量が減り、入院までに意図せぬ体重減少をしてしまう方がいらっしゃいます。また、もともと肥満傾向がある場合は、食べなくても大丈夫と食事を抜いて体重を落とそうと考えがちです。
糖尿病があり、BMI36.9kg/m2と肥満をみとめたKさん。血糖コントロールと減量目的で術前から入院することになりました。1600kcalのエネルギー調整食を提供しましたが、もともと入院を機会に減量したかったとのことで、減量に意欲的でした。食嗜好もあり、通常よりもたんぱく質を多め、脂質を少なめで提供しました。食事の量が減ったことによる減塩の効果もあり、10日で4.5kg減量し、手術となりました。入院管理下では、極端な話、出されたものを食べていればよいのですが、ご自宅で減量される場合には、食事の用意はご自身でされることになります。実践不可能な提案とならないよう、現在の食習慣をできるだけ詳細に聞き取り、どこを減らすかご本人とよく相談します。場合によっては、食事量を減らすことで不足しがちなたんぱく質・ビタミン・ミネラルの強化食品を摂っていただくこともあります。
- Q3手術をしたら、体重が減ってしまいました。これ以上痩せてしまわないようにするにはどうしたらよいでしょうか?
- Aこまめに食べる、食べられるもの・食べたいと思えるものを食べることから始めましょう。
上島さん
胃全摘術を受けられた60代男性は、お一人暮らしでした。手術後、病院では食事をすべて摂取できており、体重減少はほとんどありませんでしたが、自宅への退院後、2週間で2kgの体重減少を認めました。栄養相談でお話を伺うと、お腹が空かないから食べないとのことでした。胃の手術後は空腹感を知らせるホルモンの減少により、健常時と同じように空腹感を感じることができなくなることがあります。そのため空腹感を待って食事をしようとしていると、体の維持に必要な栄養量の摂取が不十分になりがちです。体重減少を招いてしまいますので、胃の手術後は空腹感がなくても、時間を決めて、少量でいいので食事を摂取されることをお勧めします。色々な食品を準備できない場合は、医師や管理栄養士から勧められた栄養補助食品を利用しましょう。
胃の手術後にしっかり体力を回復させるために最も効果的なことは、「こまめに食べる」ことです。これは医師にも管理栄養士にもできない、手術を受けられた患者さん自身だからできる治療法です。そして、いずれ美味しく食べられるときがきますので、焦らず、ゆっくり回復していきましょう。
豊島さん
口腔がんは、口の中にできるがんですが、舌、上下の歯肉、頬粘膜、口唇など、どの器官も食べることや飲み込むことに大きくかかわっています。また、頸部郭清術により、嚥下関連筋群が切除された場合にも、飲み込みづらさが増す可能性があります。
体重を増やすには食べることが必要ですが、「食べる」ことが苦痛になってしまわないよう注意を払っています。食事をするには、1日3回(もしくはそれ以上)、メニューを考えて準備をし、食べて、片付ける、ということになります。今までの生活パターンも考慮し、できるだけ負担がなく、少しでも食事を楽しめるようサポートをしていきます。
化学療法と放射線治療からの手術を終えて退院されたTさんは、入院中に体重が6.6kgも落ちてしまいました。上顎歯肉がんの手術により、咀嚼が難しく、形のあるものは食べづらいとおっしゃり、入院中はペースト状のお食事を希望されていました。お一人暮らしで、食事は今まで買ってきたものを食べることが多かったとのこと。退院に向け、買ってきたものを食べられるよう、徐々にペースト状から形のあるものに変更していきましょうと提案しましたが、食べづらいとおっしゃり、なかなか納得されません。そこで、パンや麺、米飯など普段よく食べるものが、どうやって喉をとおっていくのかを嚥下内視鏡検査で実際に見ていただき、食べにくくても摂食嚥下機能に問題ないことを一緒に確認しました。退院後もフォローを希望され、退院してから2週間後の外来では、なんと3kgも体重が増えていました。入院中にはできなかった、食べたいものを食べたいときに食べられるということと、買い物に出かけることで運動量が増え、空腹感が出てきたことが功を奏したようです。さらに1か月後には2kg体重が増え、笑顔も増え、「食べたいもの」から「食べた方がよさそうなもの」へと食事内容への興味も出てきたようでした。
川口先生
60代の女性のケースをご紹介します。胃がん術後の体重減少が著しく、不安に感じていたが相談する場がなく、体重を増やしたい思いが募っていました。鏡に映る自分の姿が痩せて見えて、友人に会うことに少し臆病になり、術前に比較して体力が落ち、外出する機会が減ったことで心身ともに弱くなった自分を少しでも術前の状況に戻したいと思い悩んでいました。
ご自身が目標とする体重と最近の体重の変動について、身体的状況(食欲や、下痢・便秘・腹部膨満などの消化器症状)、そして最近の食事内容(嗜好、食事量など)と生活活動の様子(外出、散歩、家事の状況)について振り返ってみます。
この方は、食事摂取に関連する副作用はなく、消化器症状で問題になることはありませんでした。外歩きは散歩程度で、活動量が増えてはいないようでした。好き嫌いなく食事はできています。現状をよく把握して、月に1kgの体重増加を目指すことにしました。1日250kcal前後のエネルギー量を増やすことで、目標とする体重に近づけます。朝食の食パンを6枚入りから4枚切りに変更(80kcal増)したり、パンにチーズを挟むかのせて焼く、バターとジャムの両方を使用するなどでエネルギー量を増やします。昼食と夕食のご飯を3~5口(40~80kcal程度)だけ増やして、しらすやゆで卵をおかずに追加する。時には味噌汁やスープに油揚げか卵(50~80kcal程度)を追加します。このように、毎食、主食で負担のない量を追加し、副菜に手軽な食材を追加することを心掛けていただきました。食事の量を追加したのは、間食や中食を追加すると食事時間に満腹感があり食べられないことが多いためです。
数か月後には「体重が増え、外出も控えることがなくなりました」とご報告をいただききました。
- ポイント
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- 今あなたが食べることのできる量、食事と間食の回数を確認しましょう
- 術後変化した食嗜好や食事内容を振り返ってみましょう
食べにくくなったもの、食べやすいと感じるものは何でしょうか? 術後に変化した、または体重減少に影響する生活や食習慣がありますか?
別の相談では、体調や体力の低下のために食事を準備することが億劫になる、朝食を抜いてしまうなど食事の回数が減っている方がいました。術後には1回の食事量が減りますから、食事の回数も減ってしまうと必要なエネルギーを摂ることが難しくなります。そのような場合は、いつでも手軽に食べられる好みのものを準備しておきましょう。
シリアル、ドライフルーツ、せんべいやおかき、クッキーなどでもよいでしょう。また、バナナ、魚肉ソーセージ、ヨーグルトなど近くのコンビニエンスストアやスーパー、ドラッグストアをぶらり散策して食べられそうなものを見つけてみましょう。
- Q4がんの治療後に体重が増えてしまいました。これ以上太らないように体重をコントロールするコツはありますか?
- A生活の中で身体を動かす機会を探しましょう。間食の量にも気を付けて。
川口先生
日常の活動を増やしましょう。運動や日常活動を制限される場合を除いて、毎日の生活の中で体を動かす機会を見つけます。積極的にジムに通ってエネルギー消費と運動効果を期待することもよいですが、日常生活の中でもエネルギー消費を考えます。例えば、「掃除の回数を増やす」「床掃除をしっかりする」、新型コロナウイルス感染症の対策で外出が難しくなったけれど、「買い物に毎日で出かける」など、日常生活の中で体を動かす機会を見つけていきましょう。ジムや外に出かけることが躊躇される場合は、インターネット上で公開されている動画を参考に、軽い運動やラジオ体操、お風呂に入る前にストレッチなどを楽しめることを習慣にしてみましょう。
- ポイント
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- 適正な体重を知りましょう
- 体重の変化を記録しましょう
- 運動や身体活動を増やし、間食の量を決めましょう
間食が多くなっている場合もあります。この時期は、リンゴやミカン、洋ナシなど果物などが多くなったり、ドライフルーツやナッツ類にもつい手が出ます。
1日の間食は200kcal程度にします。食品のエネルギー量は、ほとんどの場合、包装の裏に記載がありますから、何度か確認しているうちにわかってきます。間食が楽しみな方も多いはずですから、間食を禁止するのではなく、量とエネルギーを控えるようにします。低カロリーで満足できる食品を見つけておくこともおすすめします。
食事の内容を記録するなど、規則正しい食生活をすることが大切です。食事の時間を決めたら、食事の内容について問題を見つけます。油脂の多いベーコンや豚バラ肉、アボガド、オリーブオイル、ココナツオイルを使い過ぎていませんか。食パンのサイズが4枚切りの方は6枚切りにします。炒め物や揚げ物は蒸した調理に変更します。蒸した野菜やお肉、魚介を美味しいと感じることが大切ですから、蒸し料理の味付けに工夫をしましょう。レモンや黒酢、ビネガーを使用して少し酸味をきかせたり、ケチャップ、ソース、カレー粉などの調味料やスパイスを使ったり、かつお節やナッツ類、シード類、豆類などのトッピングでいつもと少し違う楽しみを感じましょう。
食事の準備や片付けが辛くなって、デリバリーサービスの利用やファストフードが増えると、過食になったり、エネルギー過多になります。利用回数を減らす、サイズを小さくする、野菜料理をプラスするなどの工夫をしましょう。
体重のコントロールは、短期間では難しいだけでなく、適正になった体重を維持していくにも、食べることが辛くなったり、食べてしまって後悔したりと、気持ちがそがれてしまうことがあります。自分にとって一番の問題は何かを明らかにして、そのための対策方法をいくつか準備しておくとよいでしょう。
【アドバイザー】
大妻女子大学家政学部教授・がん病態栄養専門管理栄養士 川口美喜子先生
東京医科歯科大学病院 摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士 豊島瑞枝さん
NTT東日本関東病院 がん病態栄養専門管理栄養士 上島順子さん
がんwithでは、たくさんのレシピを紹介しています。
あなたの「食べたい気持ち」に応えるレシピがあるかもしれません。
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