お悩み別対処法② 手軽に準備できる食事

がん患者さんのなかには、さまざまな事情から、食事をしっかり取れなくなってしまう方もいらっしゃいます。食事は、治療を続けていくうえで大切となる体力を維持するために欠かせないものです。このコーナーでは、がん患者さんが抱える食事に関するお悩みと対処法について、がん患者さんへの栄養指導のご経験が豊富な大妻女子大学の川口美喜子先生と東京医科歯科大学病院の豊島瑞枝さんから、どのようなアドバイスを行っているのか、実例を挙げてご解説いただきます。
第2回は、「手軽に準備できる食事」。病気や治療の副作用などで、食事の準備が思うようにできない…。そんなときの対処法をご紹介いたします。(2021年12月更新)

Q1治療に伴う副作用で、手にしびれがあります。包丁や菜箸などの調理器具がうまく使えません。
どうやって食事の準備をしたらよいでしょうか?
A使いにくい調理器具を無理に使わず、ほかの道具を使ったり、道具をあまり使わなくて済む料理を選びましょう。
川口美喜子先生
川口先生

まずは、包丁を使わない料理を選びましょう。オーブントースターや炊飯器に入れれば出来上がる料理もありますから、うまく活用しましょう。簡単に調理ができるように食材や調味料が一つにセットされた物もあります。しびれがあると、レトルトの袋や缶詰、ペットボトルが開けられないこともありますから、選ぶときは注意しましょう。100円均一などでも、缶詰やペットボトルなどを開けるための補助器具が売っていますので、そういったグッズを活用するのもよいですね。また、神経障害でしびれがある方は、熱さ・冷たさも感じにくくなっていますので、火傷にも注意が必要です。

図:ペットボトルを開けるための補助器具
図:ペットボトルを開けるための補助器具

豊島瑞枝さん
豊島さん

まな板・包丁を使って洗うのが大変な場合には、キッチンバサミやナイフ・フォークを利用したり、ハンドフードプロセッサーを持てなくなった場合にはミルミキサーを使用したりと、その時々に適した調理器具があります。鍋を持つのも重い場合には電子レンジを使用することもできます。

Q2嚥下困難で、食べられるものが少なくなってしまいました。特別な食事を用意しなければならないのでしょうか?
A患者さんの状態に合わせて、食べやすいように一工夫することで、手軽にしっかり栄養をとりましょう。市販の食品を活用するのも一案です。

豊島さん

嚥下困難の原因はさまざまで、食べやすいもの、食べにくいものも個人差が大きいものです。しかし、食べにくいものを無理して食べていると、食べづらさから食事の量が減り、体重が減り、体力が落ち、さらに食べづらさが増すという悪循環に陥りかねません。ペースト状に加工したり、まとまりを良くしたりすることで、食べやすく飲み込みやすくできるので、ぜひ試していただければと思います。
口腔がんの術後、放射線治療を行っていたTさんは、治療がすすむにつれ、口の中に粘膜炎がおき、痛みのため飲み込みづらさが出てきました。普通の食事を食べていたのですが、「ごっくんとする時が痛い」と話され、声もガラガラしています。ご本人はあまり乗り気ではなかったのですが、ペースト状の食事を一度試していただいたところ、食事時間は半分に短縮し、全量食べられるようになり、「もっと早くミキサーを使えば良かった」と喜ばれていました。カレーのルーの部分と温泉卵をセットでお出ししたときには「まさかカレーが食べられるとは思っていなかった!」と大喜びされ、厨房のスタッフにとお手紙をくださったほどです。
もちろん、ミキサーを使えば何でも飲み込みやすくすることができますが、わざわざミキサーを使わずとも、カレーやシチューのルーの部分や温泉卵、茶わん蒸し、ポタージュスープなどは、飲み込みづらさが出てきても食べやすいお料理です。ご家族と同じメニューでも、お粥やお豆腐、ゆるめのマッシュポテトなど、「つなぎ」の役割を果たしてくれる食材に混ぜて食べることで食べやすくすることもできます。また、市販食品でも、飲み込みやすく加工されたものがありますので、管理栄養士に相談してみると良いでしょう。


川口先生

食事の形を食べやすくするだけでなく、季節感や香り、食感についても考えて、おいしい食事を提供したいですよね。例えばきゅうりをすり下ろすなら、そのままではなく、さっと湯通ししてからすり下ろすと、青臭さが抜けて飲み込みやすくなります。
口蓋の手術をして嚥下困難になった患者さんに、ペースト状にした食事を提供したことがありました。最初は、これなら食べられると喜んでくださいましたが、ハンバーグも魚もお粥もペースト状にして提供したところ、食感がどれも同じで食べきれないと、残してしまいました。お粥はご飯の粒を少し残してのど越しを感じられるようにして提供したところ、最後まで食べることができました。患者さんの状態に合わせて、ペースト状にする際には少し工夫をするとよいでしょう。
また、ペースト状になると水分量が多く、かさが増えてしまいます。少量でもしっかり必要なエネルギーやたんぱく質がとれるように、栄養補助食品なども活用しましょう。

Q3調理のために立っているのもつらい状態です。家族のために、食事の準備をしたいのですが、どうしたらよいでしょうか。
A手作りにこだわらず、市販品をうまく活用しましょう。台所に立たなくてよい、椅子に座ってできる料理を選ぶこともおすすめです。

川口先生

体力が落ちてしまって立っていられないこともあれば、気力がなくて台所に立つ気になれないこともありますね。そういうときは、椅子に座ってできる料理をおすすめしています。家族や周囲の方にも協力をお願いしましょう。ピザを焼いたり、手巻き寿司にしたり、市販の餃子を買ってきてホットプレートで焼くだけにするなど、椅子に座って準備ができる料理もいろいろあります。家族や一緒に食事をする人たちにも準備を手伝ってもらいやすい料理なら、食事の時間が楽しくなります。つらい気持ちをがまんせず、楽しい時間に変えられるような発想の転換をしてみましょう。
30代の女性の患者さんで、両親と同居されている方がいました。がんになってから、時々調理のために立っていられないことがあるそうで、そういうときは両親のための食事の準備がつらかったのだそうです。ご両親も、心配でつらい思いをされているとのこと。「どうしたら楽しい時間にできますか?」と相談にいらっしゃいました。そこで、つらいときには、材料をすべて市販品でまかなえる手巻き寿司をすることを提案したところ、「そういう手もあるんですね」と喜んでいらっしゃいました。「両親と手巻き寿司をしたら、楽しい食事の時間になりそうです」とおっしゃって帰っていきました。


豊島さん

絶対に手作りしないといけないわけではありません。市販のお惣菜でも、組み合わせ次第で栄養の偏りを減らすことができます。
化学療法の影響等で、だるくて仕方がない場合、食べられるものは何でもいいから食べましょうとお話ししています。お湯を注ぐだけのカップ麺でも、卵を落としたり、お湯の半分を温めた牛乳や豆乳、トマトジュースなどに変えると、栄養価がアップします。調理せずともそのまま食べられる乳製品や卵、大豆製品は冷蔵庫にあると便利です。

図:そのまま食べられる食品
図:そのまま食べられる食品

立っているのもつらい場合は、調理はもちろんのこと、買い物に行くのも大変です。入院が長期間になってしまった患者さんは、退院後すぐに入院前の生活に戻れないことが多々あります。
一人暮らしのKさんは、仕事中心の生活だったこともあり、普段はほとんど外食でした。退院後も外食もしくはお惣菜等を買ってきて食べようと思っていたのですが、3食配膳・下膳されていた入院中とは違い、買い物をはじめ、すべて自分でやらなければならず、いろいろなことが面倒になってしまったそうです。そのうち外に出ることもだるくなってしまい、1食くらい食べなくてもいいや、という日が続いていると、退院後初回の外来で話されました。
「何もしなくていいなら何もしたくない。これだけ食べていれば大丈夫というものはないですか?」とのご相談で、荒療治でしたが、栄養剤を処方してもらい、食事の準備ができなかったら毎食でも良いから飲んでもらうことにし、2週間後に再度お話しすることになりました。2週間後、体重が1kg増え、朝は外食で朝定食を食べている、お惣菜も買って来られるようになったとのことでした。非常食のような感じで、何もなくてもこれさえあれば、という安心感が良かったそうです。

Q4料理が苦手です。食事の準備をすることを考えるだけでも大変そうで気後れします。かんたんにできるコツはありますか。
Aレトルト食品や半調理品を利用するとよいでしょう。ほんの少し一工夫を加えると、さらにおいしく仕上げることができます。

川口先生

単純な料理でも、素敵にするコツがあるんです。それは「一工夫すること」です。例えばサラダにシラスやベーコンなど何か1つトッピングを足す、レトルトのカレーライスでも焼き野菜やバター炒めにしたシーフードミックスを付けるなど、「愛のエッセンス」を1つ足すことで、おいしく見えるのでぜひ試してみてください。一工夫をすることで、単純な料理が素敵に見えるだけでなく、どんな工夫をしようか考えるようにしているうちに、料理が苦手という意識も変わっていくものです。少しだけ、工夫をしてみてください。
AYA世代の患者さんや乳がんの若い女性患者さんのなかには、こういう悩みを持っている方が結構います。そういう方にはいつも、「愛のエッセンス」の話をしています。料理は苦手でも、何かできそうと思うことが大切です。


豊島さん

半調理品を利用するのも良いでしょう。カットしてある食材や調味料がセットになっているものがあります。献立を考えるのも苦手な方の場合には、副菜付きのセットもあります。塩分や野菜の量など、栄養価に配慮されたものもあり、自分で献立を考えるのは難しいけれど、出来上がったものを食べるよりは自分で調理をしたい、という患者さんが利用されていました。献立を考えたり、食材を洗ったり切ったりという作業が苦でなければ、市販のタレや、〇〇の素、のようなものを利用するのもひとつの手です。

図:食材と調味料のセット
図:食材と調味料のセット


川口先生

今回は、「手軽に準備できる食事」をご紹介しました。
がんの治療をしていくなかで、食事の準備が思うようにできないときもあるでしょう。治療計画が立ったら、治療に伴いどのような副作用が考えられるのかを、予め知っておくことも大切です。それによって、準備ができるからです。いつ頃、どんな状態になることが予想されるのか、そのときにどんな対策ができるのか、家族や周囲の人にも早めに伝えておいて、協力してもらえるように準備しておくとよいでしょう。

【アドバイザー】
大妻女子大学家政学部教授・がん病態栄養専門管理栄養士 川口美喜子先生
東京医科歯科大学病院 摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士 豊島瑞枝さん

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