自分らしい就職・復職準備のために(復職編)
自分らしい仕事への復帰を目指す、気持ちと環境の「整え方」

服部文氏

「がんと診断され、治療のため休職したが、治療がひと段落したのでそろそろ復職したい」。――主治医からは就労可能と言われても、ブランクがある状態で職場に復帰することを不安に感じる方も多いでしょう。スムーズに復職するためには、どのような準備をすればよいのでしょうか。
がんとともに生きる方が、職場に戻って自分らしく働き続けるために、職場復帰に向けての気持ちの整理の仕方や、会社側との交渉、安心できる職場復帰のポイントなどを、たくさんの患者さんの職場復帰を支援してきたキャリアコンサルタントの服部文さんご協力のもと、ご紹介します。(2020年12月公開)

協力:服部文氏
「病気になっても安心して暮らせる社会の実現」を活動理念に掲げる一般社団法人 仕事と治療の両立支援ネット-ブリッジの代表理事として、がん患者に対して就労支援を手がける。また、イベント参加や講演などを通して、がんになっても安心して暮らせる社会実現のための啓発活動を行っている。
Q1復職したいと思っていますが、まず何をしたらよいでしょうか?
A1

復職の第一歩は「内省」から。
思いがけない病気を患ったことで混乱し、切羽詰まった気持ちのなかで離職してしまい、その判断を後に悔やんだ体験を持つ方がいます。そのため「早まって辞めないで」とよく言われますが、それと同様、復職時においても「仕事へ戻らなくては」という焦りから冷静さを欠いた判断をすると、結果的に復職こそしたものの、職場との軋轢(あつれき)で苦しむことになりかねません。

そこで、復職を考える際にまず取り組んでいただきたいのは「内省」です。内省とは、“自分の考えや行動などを深くかえりみること”。自分自身が現在どういう状況なのか、これからどのように働いていきたいのか、現状や気持ちの整理をしてください。仕事は自分一人だけでするものはなく、職場でともに働く人たちとの関係性の上に成り立っています。今後、仕事とどのように向き合っていきたいのかを熟慮した上で、自分と職場の双方が折り合える方法を考えましょう。

Q2復職しても、以前と同じように働けるかどうか心配です。
A2

職場で役に立つ能力は何か、自己分析をしましょう。
きっと治療による体力の低下や副作用の影響など、自分の変化を感じ取ることで「以前と同じように働けるかどうか…」と心配になるのだと思います。まず、その「治療による心身の変化は何か」ということに向き合ってみましょう。それをきっかけに、これまでの職務がどの程度できそうか、またはできないことは何か、どんな配慮を必要としているかを具体的に考えていくことができます。

治療による変化を超えて復職するとき、「配慮を得ることによって、今後どのように貢献できるのか」を示すことが大切です。きっと会社としても、復職者を受け入れるために「何ができるのか」をふまえて検討を重ねます。もし「治療の影響でできないこと」に不安を感じるのであれば、逆に「これまでの職務で活用していなかった能力」をアピールすることで、今後の働き方、貢献の仕方を示すことができます。どうしても自分の職務能力は直近の仕事に限定して考えがちですが、それだけではありません。これまでの職業人生を“やりがいに感じたこと”や“うれしかったこと”の具体的なエピソードとともに振り返ることで、日頃意識していなかった自分の強みや得意なこと、これから伸ばせそうな特性などが見えてきます。

場合によっては、自身の変化や職場の事情により、以前と同じ部署・職種に復職できないことがあるかもしれません。慣れない環境での再スタートとなった場合も、「病気でいろいろ失っていく、手放していく」という後ろ向きな気持ちではなく、ぜひ「もう一度、職業人生を歩み直す」という積極的な気持ちで挑戦してほしいと思います。

Q3復職に向け、どんな準備をしておくとよいでしょうか?
A3

「復職のリハーサル」をして、起こり得るリスクを検証しましょう。
治療後の「正確な自分」を把握しないまま復職し、思う通りに体がついてこないと大変です。それを防ぐために、「復職のリハーサル」をしてみてはどうでしょうか。例えば、通勤だったら、朝の満員電車で会社まで行けるかどうか試してみる。また、デスクワークだったら、図書館を会社と見立てて出勤し、8時間過ごせるかどうか試してみる。仕事と同程度の負荷がかかる作業を体験してみるのもいいかもしれません。

復職のリハーサルを通して、起こり得るリスクを検証しながら、病気や治療を経た今の自分の正しい能力を把握しておきましょう。それによって、会社側に「通勤は問題ありません」「実際に◯◯といった仕事ならできます」といったことを的確に伝えることが可能となります。

Q4復職後に、本当に必要な配慮をしてもらえるか心配です。
A4

復職してからの「決まりごと」を作りましょう。
復職面談の相手は上司や人事労務担当者といった限られた人であるため、そこで合意した配慮事項が職場全体に周知されているか、またどこまで情報が伝えられるか、心配なこともあるかもしれません。なるべく意図に食い違いが生じないよう、復職面談で依頼する内容は端的に箇条書きにして共有しましょう。

また、実際に復職してみてから困りごとが生じたり、体調の変化が起こったりしても安心・安全に働くことができるように、復職するときの「決まりごと」を提案することも大事です。「決まりごと」とは、上司や人事といった会社側のキーマンとの定期的なミーティングの場を設けることです。

「予期せぬ不具合でご迷惑をおかけしないためにも、週に1回、10分程度、ミーティングの時間を作っていただけませんか?」と提案してみてください。定期的なミーティングでの「最近どう?」というフランクな会話のなかであれば、「実は今、◯◯といった状況で、残業をしてしまうと治療に影響が出てしまうのでご配慮いただけないでしょうか」というように、ちょっとした体調の変化などをさりげなく伝えることも可能です。

復職する際の姿勢として、配慮ばかりを求めてしまうのは得策ではありません。「会社に配慮してもらうことで、自分はこのように働けます」と働く意欲や貢献の姿勢を示すことが重要です。

Q5復職が決まりましたが、職場の環境を思うと、働き続けられるか不安です。
A5

頭の片隅で「他の選択肢」も考えておきましょう。
人生において、仕事は大事な要素の一つですが、人によってそのバランスや優先順位は異なります。仕事に対する気持ち一つとっても、「どうしても今の会社でやりがいのある仕事を続けたい」「治療一色ではなく、社会とつながっている実感を持つために仕事をしていたい」「これからの治療費のためにも収入源が必要」「もともとあまりいい職場環境ではなかったけれど、いま転職するのは大変」などさまざまです。

あなたはどうでしょう。治療に伴う心身の変化をふまえて、どのように仕事と向き合っていきたいと考えていますか?復職したとしても、「職場が大変な状況で配慮どころではない」、「人間関係で悩みが尽きない」という残念なケースもあります。何が何でも復職ありきではなく、場合によっては「復職以外の選択肢がある」、「仕事以外にも大事なことがある」ということは、頭の片隅で考えておいてほしいと思います。自分自身がその環境で幸せになれないと感じるのであれば、見切りをつけ、新しい一歩を踏み出す決断をしてもいいかもしれません。

復職後に、病気や治療に伴う症状で気になることが出てくる場合もあるでしょう。その際は、担当の主治医や看護師、がん相談支援センターに相談してみましょう。また、医療従事者への相談だけではなく、患者会などのコミュニティを活用して、復職の相談をしてみることも一つの方法です。自分だけで悩みを抱え込まずに、不安や心配事は周囲に話して、自分だけじゃないという安心感を持って、復職の準備を進めてください。