円滑な職場復帰のために、勤務情報提供書を主治医に渡しましょう
勤務情報提供書の書き方について
企業で勤務する労働者が、治療と仕事を両立したいと思った場合、主治医に意見書(働き方に関するコメント)を作成してもらうことが必要です。しかし、ほとんどの医師は高校卒業と同時に医学部に入学し、一般社会を経験することなく医師として病院で勤務し始めます。そのような医師が、患者さんの働いている姿を想像することは大変困難です。みなさんにとって自分の仕事は日常であっても、医師にとっては非日常です。そこで、主治医に勤務の情報をしっかりと伝えることが重要になってきます。『事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(2019年4月改正)』では、勤務情報提供書を本人と事業場が協働のうえ作成し主治医に提供することが推奨されています。様式例をもとに解説していきます。皆さんの働いている職場がわかるような勤務情報提供書の書き方について考えていきましょう。
1は主治医の所属先と名前を記載します。宛先としてのみならず、職場の担当者と一緒に記載することで主治医の名前を憶えていただくことにもつながります。
2は本人の名前、生年月日、住所を記載します。ここは自分で記載することができます。
3の職種は個人に割り当てられている仕事の種類です。一般的には厚生労働省の職業分類を用います。A:管理的職業、B:専門的・技術的職業、C:事務的職業、D:販売の職業、E:サービスの職業、F:保安の職業、G:農林漁業の職業、H:生産工程の職業、I:輸送・機械運転の職業、J:建設・採掘の職業、K:運搬・清掃・包装等の職業、L:分類不能の職業と大分類されています。さらに細かく中分類、小分類となっていますが大分類で十分伝わると思います。業種(企業が生産しているもの、鉄鋼業、サービス業、など)とは異なりますが、両方記載されているとなおいいでしょう。
4は具体的に就業時間にどのようなことをしているか記載するといいでしょう。1日の流れが全般的にわかるようなイメージで記載します。例えば、3で事務的職業であっても、ずっと一日中座って黙々と伝票を処理するような作業と、多くの人とコミュニケーションをとりながら企画書を作成しプレゼンするような作業では、ずいぶんと注意しなければならないポイントが違います。仕事に来てから帰るまでの平均的な作業について、主治医が読んで理解するような記載にすることが望まれます。また、下にはチェックボックスがあります。代表的な負荷が強い作業や危険な作業が列挙されています。主治医が作成する意見書には働き方に関する注意が記載されますので、ここでチェックされた項目を行っても医学的に問題ないかどうかをジャッジすることになります。該当する作業にはすべてチェックをしましょう。
5の勤務形態は、勤務する時間帯について記載します。交替勤務とは、日勤と夜勤を交互に行う勤務形態です。毎日同じ時間帯で勤務するよりも、交替制勤務では体内時計が狂うため体調が乱れやすく、心身の負担が大きくなりがちです。働いている状況を主治医に知ってもらい、体調的に問題なく勤務できるかどうか判断してもらうようにしましょう。
6の勤務時間では、残業時間などを記入する項目があります。復帰当初は本来であれば残業は望ましくないのですが、もともとの残業時間が長いと復帰当初から残業を求められる可能性もあります。また、仕事の内容によっては残業せざるを得ないこともあるでしょう。主治医に残業の可否を確実に聴取することが必要で、平均的な残業時間のみならず、時期的に残業が増えがちな職業である場合(例えば年度末に残業が多いなど)には、そのことも併せて記載するといいでしょう。
7の通勤方法・通勤手段は重要な項目です。業務そのものに負担・問題はなくても、会社にたどり着くまでの手段である通勤が問題で就業できない労働者も多く存在します。代表的な例は、排尿・排便回数が増加したり満員電車で感染リスクが上がったりするような病態にある場合です。一方で、事業者が配慮できることはあまりなく、通勤ラッシュを避けて電車を利用したり、テレワークを用いたりすることで通勤の負担を減らすことくらいしかできません。また、両立支援は法令で定められたものではないことから、事業者がここまで対応する義務が必ずしもないという現状もあります。後述する利用可能な制度についても参照してください。
8の休業(休職)可能期間はぜひ、職場の人に記載してもらいましょう。多くの労働者は自らが病気により休むことができる期間を知らないからです。休職期間の設定は法令で定められたものではなく、企業独自に決めることができることから、確実に把握しておくことが必要になります。休職期間が短ければそれに合わせてなんとか復帰できるように努力することが必要になってきますが、長ければ体調をしっかり整えてから復帰するという選択肢も出てきます。自身の復帰までのイメージを持つために、できるだけ早い時期に知っておけばよりよいですね。
9は有給休暇の残日数を記載するところです。「休業」は比較的長い期間休むときに使いやすいように設計されていることが多いものです。有給休暇は職場復帰後、急に体調が悪くなったときなどに利用することができます。有給休暇を使い切ってから休業に入るケースもよくみられますが、何か突発的なことがあったときのために、有給休暇もある程度残しておくことが望ましいと考えられます。
10のその他の特記事項には、主治医に確認したいことを記載します。特に、主治医に「どのような具体的作業は避けた方がいいのか医学的な面から意見が欲しい」ということを明確に記載することをお勧めします。また、避けた方がいい作業ばかりを聞くと、医師は安全面に配慮して保守的に意見を述べる傾向があるので「病前の業務につくことを前提として、避けなければならない作業」を聴取すると、よい意見が聞ける場合が多くあります。病前の業務につけない場合には、配置転換を検討するのは主治医の仕事ではなく会社の仕事です。病前の業務に戻ること、つまり配置転換前提でない意見を聴取すると、論点が絞りやすくなる傾向があります。
11利用可能な制度のチェックボックスは大変重要な項目です。医療機関からの意見でよくトラブルになるのは、短時間勤務制度がない事業場に対して「短時間勤務で復帰可能である」という主治医からの文書が発行された時です。初動時のボタンの掛け違いは、長い月日をかけて労使間の見解の大きな相違につながり、修正困難になることもあります。そこで、利用可能な制度について主治医に事前に伝えておくことで、このようなコミュニケーションエラーが起こりにくくなります。
勤務情報提供書を渡すタイミング
勤務情報提供書を渡すタイミングは、職場復帰を考え始めたとき、具体的には復帰の1か月前程度がいいでしょう。勤務情報提供書は、主治医から就業に関する意見を聴取し、職場内で就業配慮を検討することを目的に利用されます。あまり早い時期に勤務情報提供書を渡すと、いざ職場復帰となったときに職場の状況が変わっていることもありますし、治療内容が変更されることもあるでしょう。ある程度、状況に大きな変化が出にくいタイミングで作成し主治医に提供することが重要です。
また、文書はあくまでもツールです。文書を作成することが目的でないことをしっかりと共通認識として持っておくことが重要です。時には、文書では伝わらない話などもあります。その際、本人の診察時に職場の上司が付いて行って働き方に関するディスカッションを行っている事例なども散見されます。文書を通じて、円滑な職場復帰ができるような関係性を構築すること、支援される労働者(患者)も、職場の担当者や上司が「支援したい」と思う、被支援者の受援力を身に着けるよう工夫しましょう。
(2021年12月更新)