働き方を主治医に伝える ― 勤務情報提供書と両立支援カード
勤務情報提供書・両立支援カードで「働き方」を伝える
企業で働く労働者が、がんなどの病気を抱えながら「治療と仕事を両立したい」と考えたとき、職場になんらかの配慮をお願いしなければならないケースがあります。その際、労働者の意見だけでは配慮が届きにくいことがあることから、主治医に働き方に関する意見(意見書やコメント)を記載してもらうことが重要なゴールとなります。
もっとも、主治医が的確な意見を述べるためには、その前提として、患者さんの勤務の実態が主治医に正しく伝わっている必要があります。患者さんの仕事内容や職場環境、業務上の負担は多種多様です。患者さんにとっては「日常の仕事」でも、医師にとってはその具体的な働き方が見えにくい場合があります。だからこそ、主治医に勤務の実態を正しく、具体的に伝えることが、治療と仕事の両立支援の出発点になります。
この勤務の実態を主治医に伝える書式として、「勤務情報提供書」と「『治療と仕事の両立支援カード(以下、両立支援カード)』の本人記載欄」の2つがあります。
目次
「勤務情報提供書」は、職場の情報を主治医へ届けるための様式
『事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(以下、ガイドライン)』では、治療と仕事の両立支援を進めるうえでの手順や、関係者が情報のやりとりをするための様式例が示されています。様式例のひとつとして、職場の状況(勤務時間、業務内容、負担、配慮可能な点など)を主治医に伝えるための「勤務情報提供書」があります。
勤務情報提供書は、職場側(本人と事業場)が協働して勤務の実態を整理し、主治医が就業に関する意見を考えるための材料にする――そのための「情報の土台」になります。
自由記載が多く、仕事の情報をより精緻に伝えることが可能です。一方で、記載内容について仕事の内容の言語化が必要でやや難易度が高い、職場の担当者ら(産業医等)の同意が必要である、医療従事者の側から事業者に勤務情報提供書の作成を促しにくい、といった事情から作成のハードルが高く、十分に活用されにくいという課題がありました。
勤務情報を主治医に提供する際の様式例(勤務情報提供書)
出典:厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(令和6年3月版)より抜粋
「両立支援カード」は、本人が“相談のきっかけ”を作れるツール
勤務情報提供書の問題点を受け、令和6年3月のガイドラインの改訂で「両立支援カード」が実装されました。両立支援カードは、治療を受けながら働き続けたいと希望する労働者(患者)が、自身の職場や働き方等の情報を記載する書式です。職場の担当者の確認を受けたうえで医療機関に提出し、医師が就業上の意見等を記入します。最終的に本人を経由して事業者に必要な情報が届けられるしくみです。
このカードの利点は、産業医が選任されていない事業場や、支援体制が十分に整っていない職場でも、まずは本人が情報を整理して「主治医に相談するところから始めやすい」ことです(産業医等がいる場合は、その意見も踏まえるよう記載されています)。
一方で、あらかじめ用意された項目にチェックを入れる形式が主であるため、仕事のディテールが主治医に伝わりにくく、画一的な内容となりがちで本人が望む適切な配慮からずれてしまう懸念も指摘されています。仕事や働き方は患者さんによって多様であることから、両立支援は本質的にオーダーメイドで対応することが望ましいとされています。
治療と仕事の両立支援カード(Ⅰ.本人記載欄/Ⅱ.医師記載欄)
出典:厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(令和6年3月版)より抜粋
2つのツールは「必ずセット」ではなく、状況に応じて選べる
勤務情報提供書と両立支援カードは、どちらも治療と仕事の両立を進めるためのツールですが、同時に使う必要はなくどちらか一方でスタートすることが基本です。途中でツールを切り替えることも可能です。
したがって状況に応じて、使いやすい方から始めれば大丈夫です。
- まずは両立支援カードで、治療・体調と仕事の悩みを整理して主治医に相談する
- 職場と具体的な調整(業務内容や配慮の検討)を進める段階で、勤務情報提供書を使って職場の情報を主治医に届ける
- あるいは、職場側で情報整理ができている場合は、勤務情報提供書から始める
また、両立支援カード自体にも、職場側で追記・修正が必要な場合、あらためて勤務情報提供書等と併せて主治医に提供することも可能である旨が示されています。
勤務情報提供書・両立支援カードを活用するタイミング
勤務情報提供書を主治医に渡すタイミングは、職場復帰を考え始めたとき、具体的には復帰の1か月前程度がひとつの目安になります。
勤務情報提供書は、主治医から就業に関する医学的な意見を得て、職場内で就業上の配慮や調整を検討するためのツールです。
あまり早い時期に作成・提出してしまうと、復帰時には治療内容や体調が変化していたり、職場の業務内容や体制が変わっていたりすることも少なくありません。
治療や働き方の見通しがある程度整理され、大きな変更が起こりにくいタイミングで主治医に提供することが重要です。
一方で、令和8年(2026年)6月から本格的に運用が始まった両立支援カードは、勤務情報提供書よりも少し早い段階から活用できるツールです。
治療状況や体調の変化、仕事との関係で感じている不安や困りごとを患者さん自身が整理し、診察の場で主治医と共有することで、その後に作成する勤務情報提供書の内容を、より具体的で現実的なものにすることができます。
「早期から使える」──ただし“狙い”が少し違う
両立支援カードも勤務情報提供書も、治療と仕事の両立について考え始めた早い段階から活用できるツールです。
一方で、より効果が出やすいタイミングには違いがあります。
【両立支援カード】迷いや不安が出た時点から
両立支援カードの特徴は何と言ってもチェックが主であるからとっつきやすいというところにあります。
両立支援カードは、「復職が決まってから」ではなく、働き続けられるか迷う段階や、体調・治療と仕事の両立に不安を感じた時点で「とりあえず」使い始められます。
本人が情報を整理し、診察の場で主治医に相談しやすくする“入口”として機能します。【勤務情報提供書】職場の調整を具体化する段階で
勤務情報提供書は、職場の業務内容や配慮可能な点を整理して主治医に届けるため、職場復帰や働き方の調整を具体的に検討する段階で特に力を発揮します。
目安としては、復帰の1か月前程度など「状況がある程度見えてきた時期」が使いやすい一方で、必要があれば早期に作成して相談を始めても構いません(ただし、作成後に体調や職場の状況が変わった場合は、最新の状況に合わせて内容を更新することが大切です)。
両立支援カードよりも記載や職場にお願いすることが増えますが、具体的・詳細な仕事の内容を伝えられることから個人にあったオーダーメイドの配慮事項の作成が可能になります。
文書は「ゴール」ではなく、話し合いのきっかけ
勤務情報提供書や両立支援カードは、文書を完成させること自体が目的ではありません。
治療と仕事の両立に向けて、医療機関と職場が共通理解を持つための「きっかけ」となるツールです。
ときには、文書だけでは伝えきれないことや、実際に話してみて初めて共有できる内容もあります。なかには、本人の診察時に職場の上司や人事担当者が同席し、主治医と直接「働き方」について話し合うことで、より具体的な調整につながった事例もあります。
勤務情報提供書や両立支援カードを通じて大切なのは、
「どのような働き方であれば治療を続けながら働けそうか」
「どの点に配慮があれば、無理なく仕事を続けられるか」
を、本人・医療機関・職場の間で丁寧に共有していくことです。
こうしたやり取りを重ねていくことで、職場側も支援のイメージを持ちやすくなり、患者さんにとっても安心して治療と仕事の両立に向き合える環境づくりにつながっていきます。
勤務情報提供書・両立支援カードのよくあるご質問(Q&A)
Q1.勤務情報提供書は、いつ主治医に渡すのがよいですか?
勤務情報提供書を主治医に渡すタイミングは、職場復帰を考え始めたときがひとつの目安です。具体的には、復帰の1か月前程度を想定するとよいでしょう。
勤務情報提供書は、主治医から就業に関する医学的な意見をもらい、職場内で働き方や配慮内容を検討するためのツールです。
あまり早い時期に作成すると、治療内容や体調、職場の状況がその後に変わってしまうこともあります。治療や働き方の見通しがある程度整理された段階で主治医に渡すことが大切です。
Q2.両立支援カードは、勤務情報提供書と何が違うのですか?
勤務情報提供書と両立支援カードは、役割が少し異なるツールです。
勤務情報提供書は、主に職場の状況を主治医に伝えるための文書です。一方、両立支援カードは、患者さん自身が治療状況や体調の変化、仕事との関係で感じていることを整理し、医療機関や職場と共有するためのツールです。
職場側の情報は勤務情報提供書で、患者さん自身の思いや希望は両立支援カードで伝えることで、主治医により立体的な情報を届けることができます。
Q3.両立支援カードは、いつから使い始めればよいですか?
両立支援カードは、職場復帰が具体的に決まっていなくても使い始めることができます。
治療を受けながら仕事のことが気になり始めたときや、体調や働き方に不安を感じたときなど、「整理したい」と思ったタイミングで活用して構いません。
診察の際に、カードに書いた内容を見ながら主治医と相談することで、その後に作成する勤務情報提供書の内容を、より具体的で現実的なものにしていくことができます。
Q4.勤務情報提供書や両立支援カードがあれば、すべて伝わりますか?
勤務情報提供書や両立支援カードは大切なツールですが、それだけですべてが伝わるわけではありません。
これらの文書は、医療機関と職場、そして患者さん自身をつなぐ話し合いのきっかけとなるものです。
書面では伝えきれないことや、実際に話してみて初めて共有できる内容もあります。文書をもとに対話を重ねることで、より無理のない、現実的な働き方を一緒に考えていくことができます。
Q5.職場の上司や人事には、どの段階で相談すればよいですか?
職場への相談は、主治医の意見を踏まえてから行うと、話が進めやすくなります。
勤務情報提供書や両立支援カードを通じて整理された情報があることで、職場側も具体的な配慮や調整を検討しやすくなります。
ひとりで抱え込まず、医療機関と職場を文書でつなぎながら、相談を進めていくことが大切です。
Q6.主治医が忙しそうで相談しにくいです
主治医に遠慮する必要はありません。患者さんが治療を続けながら働けるよう支援することは、医療従事者にとっても大切な役割のひとつです。また、がん診療拠点病院などでは、がん患者さんの両立支援を制度として定着するという社会的要請があること、両立支援に対し診療報酬が算定可能になったこと(入院中をのぞく)から、医療機関側にも両立支援を行いたいニーズが存在します。
(2020年11月公開/2026年6月改訂)