乳がん検診実施率は97.72%――がんを理解し、そのリスクを低減させる段階的な予防施策を実施 ~ヤフー株式会社・グッドコンディション推進室~

市川 久浩さん(左)白川 史麻理さん(中央)竹内 幸子さん(右)

ヤフー株式会社は、代表取締役社長による「健康宣言」のもと、すべての従業員が心身ともに最高のコンディションで業務に従事できる企業を目指し、生活習慣病対策やメンタルヘルス対策、過重労働対策、女性のための健康支援などを充実させてきました。その結果、2017年から3年連続で経済産業省の「健康経営優良法人(大規模法人部門)」(※1)に認定され、2018年度には、厚生労働省ががん対策に積極的に取り組む企業を表彰する「がん対策推進企業アクション」(※2)において、「がん対策推進企業表彰 厚生労働大臣賞」を受賞するなど、内外にその取り組みが認められています。
そこで今回は、従業員の健康を支えているグッドコンディション推進室の方々に、がん予防対策やがんに罹患しても働き続けるための支援制度などについてお話を伺いました。(2019年10月取材)

1「健康経営優良法人」……地域の健康課題に即した取り組みや日本健康会議が進める健康増進の取り組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰する、経済産業省の制度。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html別ウィンドウで開きます(2019年10月15日閲覧)

2「がん対策推進企業アクション」……厚生労働省の委託を受け、職域におけるがん検診受診率向上を企業連携で推進していく国家プロジェクト。
https://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/index.html別ウィンドウで開きます(2019年10月15日閲覧)

お話しを伺った方々
ヤフー株式会社 グッドコンディション推進室長 市川 久浩さん(左)
ヤフー株式会社 グッドコンディション推進室 白川 史麻理さん(中央)
ヤフー株式会社 グッドコンディション推進室 リーダー 竹内 幸子さん(右)

ヤフー株式会社について

Zホールディングスが100%出資する子会社。
イーコマース事業、会員サービス事業、インターネット上の広告事業などの事業を展開。

グッドコンディション推進室が、従業員の健康を守る

まずは貴社が取り組まれている「健康経営」について、お聞きかせください。

市川さん:健康経営は「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義されますが、当社ではもっとシンプルに「従業員の能力をいかんなく発揮させるには、コンディションを整えることが大切である」という考えから、従業員の健康を守る取り組みを進めています。会社組織としては代表取締役社長 CEO直下に配置されたCCO(Chief Conditioning Officer)のもと、産業医、看護職、ヘルスキーパーなどが在籍する「グッドコンディション推進室」が設置され、従業員が心身ともに健康に働き、公私ともに幸せな生活が送れるような取り組みを行っています。
会社の戦力を強化するには、従業員の数とともに、それぞれが持つ能力の掛け合わせが欠かせません。スキルや経験、知識、人間力などの能力はトレーニングで向上させることが可能ですが、十分に能力を発揮させるには病気はもちろん、肩こりや腰痛などの不調も含めてコンディション(心身の調子・状態)を整えることが重要と考えています。

従業員のコンディションを整えるための「グッドコンディション推進室」なのですね。

市川さん:はい、私たちの役割はコンディションを良い方向に向かわせ、良いコンディションを維持することです。そこで、各従業員のコンディションの状態を「コンディション・ステージ」として3段階に分けて考えています。病気や痛みなどの不調がある段階は“マイナス”、特にトラブルのない状態は“ゼロ”、活力があふれている状態は“プラス”です。コンディション・ステージが向上し、従業員が活き活きと仕事に向き合えるように、ステージに応じた対策を行っています。
併せて、現在のコンディションだけでなく、未来における病気や不調などのリスク(未来のリスク)を減らす対策も行っています。未来のリスクは、“ごく近い未来のリスク”と“遠い未来のリスク”に分けて考え、“遠い未来のリスク”については、健康診断結果で指摘された生活習慣病などの予防・改善を図ります。“ごく近い未来のリスク”については、健康診断やメンタルチェックとともに健康相談などを行っています。現段階では病気と診断されていなくても痛みや不調を抱えている社員は多いので、病気になる前にコンディションを改善する取り組みも非常に重要と位置付けています。

がん対策として1次から3次にわたる予防策を実施

未来のリスクの中には、がんも含まれていると思いますが、がん予防対策としてはどのような取り組みが行われているのでしょうか。

竹内さん:がん予防として、段階に応じて1~3次にわたる予防策に取り組んでいます。1次予防ではがんの発症を防ぐことを目的としています。取り組みとしては、毎年1回eラーニングを実施し、定期検診やがん予防の重要性、就労支援の制度などについて啓発を行っています。eラーニングは全社員の受講を必須としており、現在の受講率は80%を超えています。また、喫煙率を下げる対策として、喫煙所の縮小や喫煙に関する情報提供も行っています。生活習慣病の予防については、食生活を改善できるように、社員食堂のチームと連携しながら、栄養バランスを考慮したメニュー作りを行っています。
2次予防では、がんの早期発見・早期治療を実現するために、がん検診の受診率向上を目的としています。費用補助はもちろん、就業時間内にがん検診を受けられるような体制を整えました。
3次予防では、がん患者の早期社会復帰やがん治療と就労の両立を目指しています。がんと診断された場合、治療と仕事をどのように両立していくか、治療前から従業員と相談し復職をサポートします。当社では柔軟な働き方ができる制度が整っており、フレックスや時短勤務で働く時間を調節することや「どこでもオフィス」制度(※3)で在宅勤務を行うことも可能です。また、「選べる勤務」制度(※4)では週休を3日とすることができ、平日に放射線治療や抗がん剤治療を受けることも可能です。

3「どこでもオフィス」制度……月5日まで、通信環境があれば、どの場所でも就業可とする、場所に縛られない働き方ができる制度。

4「選べる勤務」制度……小学生以下の同居の子を養育する従業員や、家族の介護や看護が必要な従業員などを対象に、土日の休日に加え1週あたり1日の休暇を取得できる制度。

貴社は2018年度「がん対策推進企業表彰 厚生労働大臣賞」に選ばれています。ここまで評価される取り組みを実現できた理由をお聞かせください。

白川さん:創立当初より歴代の社長が、従業員の心身の健康を守るという想いが強く、健康促進のための体制を築いてきたことが、このような取り組みを実現する大きな要因となっています。乳がん検診の補助制度(※5)を始めたのも、トップからの働きかけがきっかけです。

5「乳がん検診の補助」制度……一定金額を上限として検診料の実費を補助する制度。任意検診実施率は97.72%を誇る。
https://about.yahoo.co.jp/csr/stakeholder/esg/別ウィンドウで開きます(2019年10月15日閲覧)

社員の健康のために、毎日の食事にも気を配っているそうですね。

市川さん:本社には860席ある社員食堂があります。朝食も提供しており、社員は無料で食べることができます。これは朝の欠食を防ぐためで、長い目で見るとパフォーマンスの向上や生活習慣病の改善に有効だと考えています。昼食と夕食は有料になりますが、昼食では社員の約半数が利用しています。社員食堂は利用されないと意味がありませんので、ファンになってもらうために、美味しい料理を提供できるように試行錯誤しています。
また、従業員が社員食堂で食べたメニューは記録され、摂取した食事の栄養データを自分自身で確認することができます。また、蓄積したデータから、従業員の食事の傾向がわかり、脂質や塩分をどう減らしていくかなども検討可能です。最近では従業員の食生活改善を目指し、“揚げ物税”(※6)を導入しました。これは、揚げ物料理の一部を値上げする代わりに、魚料理を値下げするという、かなりチャレンジングな取り組みです。

6「揚げ物税」……ヤフー、社員食堂に『揚げ物税』を導入(プレスリリース 2019年10月)
https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2019/10/08a/別ウィンドウで開きます(2019年10月15日閲覧)

がん予防のために、健康診断・がん検診の受診率を上げる。

2次予防に組み込まれているがん検診ですが、どのように受診率を上げていますか?

白川さん:健康診断とがん検診を同時に受けることができ、費用の補助も行っています。その結果、がん検診の受診率は80%を超えました。また、精密検査が必要となった場合は、検査ができる病院の問い合わせや相談を受け、紹介状を書いたり、その人に適した病院を紹介したりと、がん検診後のフォローまで対応しています。

市川さん:もともと健康診断の受診率は高く、毎年90%くらいを維持していましたが、これまで100%に届くことはありませんでした。そこで、2018年度は本社のあるビルの中にクリニックを開設し、そこで健康診断を受診できるようにしたところ、健康診断の受診率を初めて100%にすることができました。

受診率100%は素晴らしいですね。全社員が健康診断を受けたことになります。

市川さん:健康診断を受けていない従業員にはメールで連絡をするのですが、なぜ健康診断が必要かという内容をメールに書いて各部署のマネジメント層にも送り、上司からも受診を促すようにしたことも受診率100%達成の原動力になりましたね。
喫煙率についても、数年前までは20%ほどありましたが、現在は18%を切るまでに低下しました。2020年までに喫煙所を0にする目標を掲げ、全オフィスフロアにあった喫煙室を4フロアに縮小したことも効果的であったと思います。もちろん、目標の達成も重要ですが、従業員の理解を得ながら徐々に喫煙所を減らせるように働きかけています。

3次予防の早期社会復帰やがんと仕事の両立では、どのような取り組みが行われていますか。

竹内さん:がん患者に限らず、傷病者が利用できる相談室を設けています。また、産業医と連携しながら、再検査や休職の相談、早期社会復帰のためのサポートを行います。さまざまな就労支援制度がありますので、万が一のときはすぐに利用できるように、社内告知にも力を入れています。

白川さん:従業員から上司や人事に相談があった場合は許可を得て情報を共有し、グッドコンディション推進室と連携して対応します。がんになったことを他人に言うのは抵抗があると思いますが、eラーニングなどでサポート体制を理解してもらい、不安なく相談できる環境を目指しています。

竹内さん:がんの症状については他人が理解しにくいこともあるので、産業医が本人に代わって上司に説明するための橋渡しもしています。どのような症状があり、必要な配慮は何かなど、産業医が説明することで上司の理解も得られやすくなります。復職プランに関しても、主治医から配慮が必要な部分を共有してもらいながら、本人、上司、人事が参加して計画できるようにサポートします。
例えば出張や残業をしないなど、従業員の状態に合わせた勤務体制に変更して治療との両立を図ります。また、治療がいつまで続くかは分からないので、本人へのサポートを継続しながら、上司に対しても病気に関する指導を定期的に行っています。このようなサポートにより、がん治療と仕事を両立させている社員も在籍しています。

実際、がんに罹患した社員の方が多く利用している制度はなんでしょうか。

竹内さん:「選べる勤務」制度で、平日を治療に当てることができるのは大変喜ばれています。制度を開始した当時は、育児・介護向けの制度でしたが、がん患者の両立支援にも利用できるように変更しました。制度を利用するか否かは従業員が決めることですが、このような制度があることを知っていることも、精神的な余裕につながっているようです。

現在、計画している支援制度などはありますか。

市川 久浩さん(左)白川 史麻理さん(中央)竹内 幸子さん(右)

白川さん:がんは種類やステージによってそれぞれ必要とするサポートの内容が異なります。さまざまな視点を持って総合的に、かつ個別にサポートするのが大事だと考えていますので、個々に応じたサポート体制を強化していきたいですね。また、がん検診の受診率をさらに引き上げ、早期発見・早期治療を実践したいと考えています。

市川さん:現在、従業員の平均年齢は30代半ばであり若い社員が多い傾向にありますが、今後は平均年齢が上がり、生活習慣病などの病気になるリスクが高まることが予想されます。グッドコンディション推進室が中心となってリスクを減らせるように取り組んでいきたいですね。そして、従業員全員が良いパフォーマンスを発揮できるよう、ヘルス・リテラシーを向上させたいと思います。

(取材・執筆 眞田幸剛)