がんの治療は、その後の社会復帰も視野に入れて。「がんの疑い」のときからなんでも相談できる場所~愛知県がんセンター 相談支援センター

相談支援センター

がんの疑いと言われた方や、がんと診断された患者さんが、療養中の困りごとを相談できる場所、がん相談支援センター。どのような相談ができ、どんな支援が受けられるのでしょうか。治療と仕事の両立支援で先進的な取り組みを進める愛知県がんセンターのがん相談支援センターで、相談員を務める船﨑初美さんにお話を伺いました。

看護師と医療ソーシャルワーカー、5名が患者さんやご家族の相談に応じる

愛知県がんセンターの相談支援センターの特徴について教えてください

院内で開催している両立支援ミニセミナー
院内で開催している両立支援ミニセミナー

船﨑さん:愛知県がんセンターの相談支援センターは、地域医療連携・相談支援センター長の樋田豊明先生、地域医療連携・相談支援室長の伊藤友一先生のもとで、看護師3名、医療ソーシャルワーカー(MSW)2名が、相談支援センターを訪れる患者さんやご家族の相談に応じています。相談支援センターの扉はいつも開いていますので、気軽に立ち寄っていただけます。受付にはいつも相談員が1名常駐しており、相談しようか迷っている方、パンフレットなどをご覧になっている方を見かけたら、声をかけることもあります。受付で簡単な相談に応じることができる点も、相談の敷居を下げていると思います。当相談支援センターは、初診の方が必ず通る場所に位置していますので、自然と患者さんやご家族の目にとまりやすい導線になっているのも特徴です。
治療と仕事の両立支援に力を入れている点も、当相談支援センターの特徴です。当院では初診の問診の際に、就労に関する項目を入れており、チェックをした方に対しては、看護師が相談支援センターに立ち寄るように声をかけてくれています。平成30年度に当相談支援センターに寄せられた相談件数では、医療費や受診方法、緩和ケア、セカンドオピニオンに次いで仕事に関する相談が多く、全体の6.2%を占めました。当相談支援センターでは、相談員だけでなく、社会保険労務士(社労士)や、ハローワーク、産業保健総合支援センター(産保センター)など外部の専門家とも連携しており、必要な支援が受けられるようお手伝いもしています。月に一度、相談支援センターのすぐ目の前で開催している、両立支援に関する無料のミニセミナーには、通りがかった患者さんが足を止めて聞いている姿も見られます。

就労に関する相談事では、どのような内容が多いのでしょうか。

船﨑さん:相談内容は、患者さんがおかれている状況によって、(1)これから治療が始まる方(2)休職中で復職を考えている方(3)退職を考えている方(4)就職・転職活動をする方、の大きく4つに分けられます。

(1)これから治療が始まる方の場合は、どのように休みをとっていったらよいのかという相談や、仕事を辞めなければいけないのか、休職中に受けられる傷病手当金についてのご相談があります。こうした相談には、社労士が対応します。当センターは、愛知県内で初めて平成25年に社労士を配置し、当時はマスコミにも取り上げられました。

(2)休職中で、治療が落ち着いたので復職を考えている方の場合は、体力が不安だったり、復職にあたってどんなことに気を付けたらよいのか、会社には何をどこまで伝えるべきかといった相談が多くあります。 職場の受け入れ状況に不安があるような方の場合は、産保センターによる両立相談をご紹介しています。

(3)退職を考えている方は、休職期間が満了してしまった方や、勤務先に休職制度がなく、治療のために退職するという方です。利用できる制度についてや、雇用保険の手続きについての相談もあります。

(4)体調や治療が落ち着いてきて、新たに就職を考えている方の場合は、就転職活動の際に病名を伝えるべきかどうか、定期的な通院が必要だったり、後遺症が残ってしまった場合に、どんな仕事を探せばよいかという相談があります。多くの場合は、ハローワークによる就職相談へおつなぎしています。

必要に応じて専門家へ橋渡し。「話を聞いてもらえてほっとした」の声も

仕事を辞めてしまう患者さんも多いのでしょうか。

愛知県がんセンター 地域医療連携・相談支援センター 船﨑 初美さん
愛知県がんセンター 地域医療連携・相談支援センター
船﨑 初美さん

船﨑さん:がんと診断されて仕事を辞めてしまう方は2割程度、そのうち4割は、確定診断の前に離職してしまうという調査結果もあります。特にパートや派遣など非正規雇用の方の場合は、仕事を辞めてしまう方がいらっしゃいます。辞めてしまう理由には、復職したものの、勤務先から配慮してもらうはずの事柄が守られず、体力的に限界を迎えてしまう場合や、復職にあたって配置転換などの配慮がそもそも得られない場合、休職期間が満了してしまう場合、同僚など周囲に迷惑をかけてしまうことへの申し訳ない思いなどがあります。患者さんによって置かれている状況は様々ですが、私たちもたくさんの方の相談に乗ってきていますので、辞める決断をする前に、一度相談にいらしていただきたいと思っています。

じっくり話を聞いてもらえて、必要な支援につなげてもらえるのですね。

船﨑さん:相談後に、話を聞いてもらえてほっとした、と言ってくださる方もいます。そういう声を聞くと、うれしくなりますね。相談の内容にもよりますが、長い時には1時間でも、しっかりとお話に耳を傾けています。がんの相談については、国立がん研究センターが実施している専門の研修がありますが、もちろん私たちもその研修を受けており、その後も継続的に技術向上を目指して自己研鑽に努めています。就労に関する相談は、ハローワークなど病院の外でもできるかもしれませんが、病院の中で相談ができることで、人目を気にせず、安心して話すことができるのではないでしょうか。初回の相談の内容に応じて、必要な専門家との相談を予約します。専門家との相談の際には、当センターの相談員も同席するようにしています。

人生を左右する決断は、じっくり相談してから

がんと診断された、働く世代の患者さんとそのご家族へ、メッセージをお願いします。

船﨑さん:がんの疑いがあると告げられ、精密検査を受けて確定診断、治療に入っていく過程で、患者さんやご家族には、考えなければいけないことや、決めなければいけないことが本当にたくさん押し寄せてきます。すべてをよく考えて決めることは到底できないくらいのことが一度にやってきますから、多くの方が混乱されます。仕事についてじっくり考える余裕はなくて当たり前ですし、つい後回しになってしまいます。この混乱した状態で、その後の人生を左右するような大きな決断をしないでほしいと思っています。仕事を辞めるという決断も、人生を左右することのひとつです。治療が終わって社会生活に戻っていくときに、仕事がなかったらどうでしょうか。決断のまえに、まずはがん相談支援センターにご相談ください。相談することで、ご自分の気持ちも整理ができますし、考え方の幅が広がるかもしれません。相談員は全員、専門的な研修を受けていて、継続して学習を続けているプロフェッショナルです。患者さん、ご家族の方、当院以外の病院にかかっている方も、どなたでもお気軽に相談にいらしてください。

2019年11月取材

地域に開かれた相談支援センターを目指して

室 圭先生
愛知県がんセンター副院長
兼 薬物療法部部長
室 圭先生

当院は、県内のがん診療連携拠点病院の中心的な役割を担っており、その点においてはがん相談支援センターも同様です。患者さんの立場に立って、よりよい医療を提供する一環として、療養中の患者さんの悩みに応じる相談支援センターの体制強化に、病院を挙げて取り組んできました。特に、働く世代の患者さんを対象とした治療と仕事の両立支援には力を入れており、院外の関係者とも連携して、治療後の社会復帰を見越した支援を行っています。
悩みごとや困りごとを抱えながら、がんと向き合う皆さんに、相談支援センターの扉はいつでもオープンになっています。よりよい療養生活や、その先に続く未来のために、相談支援センターをぜひ活用してほしいと思っています。