仕事をやめる前に確認したい公的保険のこと
雇用保険(求職者給付)

失業したときや働けなくなったときに役立つ「雇用保険制度による給付」について、社会保険労務士がわかりやすく解説します。

雇用保険制度における求職者給付とは

雇用保険制度は、労働者が失業した場合や働き続けるのが困難となる事由が生じた場合などに、労働者の生活および雇用の安定や再就職の促進のため必要な給付を行うなどの機能を持つ制度です。政府が運営する強制保険制度であるため、労働者を雇っている事業所は原則として加入が義務付けられています。

ここでは、雇用保険制度の機能のうち、仕事を辞めた後に受ける給付である「求職者給付」を中心に解説します。

図1 雇用保険制度の流れ(仕事を辞めた後)

出典:「ハローワークインターネットサービス - 雇用保険制度の概要別ウィンドウで開きます」をもとに作成

まずは自分が雇用保険に加入しているかどうか確認しましょう。

雇用保険の加入要件

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  • 31日以上の雇用見込みがあること

社会保険の加入要件とは少し違うんだね

パートなど労働時間の短い働き方をしている場合、社会保険は家族の扶養内でも、雇用保険には自分自身が加入しているという人もいます。
給与明細で雇用保険料が控除されているかを見てみると良いでしょう。

雇用保険に加入している人が退職すると、会社が手続きをして、離職票が交付されます。
離職票は、ハローワークが会社の手続きを通じて発行(交付)するもので、

  • 58歳以下の離職者は本人が希望しないときを除いて必ず
  • 59歳以上の離職者は本人の希望の有無にかかわらず必ず

交付するべきものとされています。
離職票を交付されて困ることはまず無いので、退職時には必ず離職票を交付してもらうことをお勧めします。

このコラムで紹介する求職者給付は、失業の状態にある人が対象となりますので、「失業」の定義を確認しておきましょう。

「失業」の定義

仕事を失い、労働の意志も能力もあるにも関わらず職業に就くことができない状態

※仕事をやめても、病気療養のためすぐに働けない人は失業に該当しません

失業の状態にある人が受けられる給付のうち、主なものは「基本手当」と「高年齢求職者給付金」です。どちらの対象になるかは、離職日時点の年齢で決まります。

離職日時点の年齢

  • 65歳未満・・・基本手当
  • 65歳以上・・・高年齢求職者給付

基本手当と高年齢求職者給付金についてそれぞれ説明したいと思います。

基本手当について

図2 基本手当の受給手続きの流れ

出典:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~別ウィンドウで開きます」をもとに作成

基本手当は、一般被保険者(65歳未満)が離職し、失業の状態にある場合で、離職の日以前2年間に被保険者期間が通算して12か月以上あったときに給付を受けられます。さらに、特定受給資格者または特定理由離職者については、離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6か月以上でも給付されます。

受給資格の区分は、離職理由によって決まります。
この区分によって、給付制限の有無、給付を受けられる上限日数が変わります。

ということは、離職理由がとても大事になるね。

表1 離職理由による基本手当の比較
離職理由による区分 給付制限期間 受給に必要な被保険者期間 所定給付日数
特定受給資格者 倒産・解雇などの理由により再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた者 なし 離職前1年以内に6か月 90~330日
特定理由離職者 期間の定めのある労働契約について更新を希望したにも関わらず更新されなかったことにより離職した者 90~330日
※令和7年3月31日までの暫定措置
正当な理由による自己都合による離職した者 90~150日
その他 定年・契約期間満了により離職した者 離職前2年以内に12か月
正当な理由がなく自己の都合により離職した者 2か月
※5年以内に2回を超える場合は3か月
自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇された者 3か月
就職困難者(障害者など) (離職理由による) (離職理由による) 150~360日

出典:厚生労働省「基本手当等の現状について別ウィンドウで開きます。pdfで開きます」をもとに作成

病気療養や病気による体力低下のために離職した場合はどの区分に該当するのかな?

特定理由離職者のうち「正当な理由による自己都合」の基準のひとつに「体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退などにより離職した者」があり、これに該当する可能性が高いと考えられます。

受給資格の区分は誰がどうやって決めるの?

図3 離職理由の判断手続きの流れ

出典:「ハローワークインターネットサービス - 基本手当について~別ウィンドウで開きます」をもとに作成

退職後に会社が手続きをするとき、離職証明書に離職理由を書き、ハローワークに提出します。ハローワークが確認後、本人用の離職票-2を交付します。離職票-2を受け取った本人は、自分で離職票-2に離職理由を書いた上でハローワークに提出し、ハローワークが客観的に確認して離職理由を判断し、受給資格の区分を決定します。

もし、会社が書いた離職理由が「一身上の都合」「自己都合」などであったとしても、自分が書く離職理由には「病気療養や体力低下などの事実」をはっきり書き、ハローワークの判断を仰ぐのが良いでしょう。

自分から主張しなければ、会社が書いた離職理由のまま決定してしまうよね

ハローワークでの判断の結果、正当な理由による自己都合に該当した場合、受けられる給付日数は一般的な自己都合退職者と同じですが、給付制限期間がなく、受給に必要な被保険者期間が緩和されます。

「被保険者期間」とは、雇用保険に加入していた期間のうち、賃金支払いの基礎となった日数が11日以上ある月を1か月としてカウントした期間です。この期間は、離職日からさかのぼった1か月ごとで区切って計算されます。病気やけがなどにより、30日以上賃金の支払を受けることができなかった期間がある場合には、「離職の日以前2年間」のところを最大4年間まで延長して判定することができる、緩和措置があります。

実際にもらえる給付金の金額はどのくらいになるのかな?

基本手当日額 × 所定給付日数 となります。

「基本手当日額」とは、受給できる1日当たりの金額のことで、原則として離職した日の直前の6か月に支払われた賃金の合計を180で割って算出した賃金日額のおよそ50~80%(60歳~64歳については45~80%)です。賃金の低い方ほど、この割合が高くなっています。

図4 基本手当日額の計算式

所定給付日数は年齢、雇用保険の被保険者であった期間、離職の理由などによって決定されます。

表2 所定給付日数
(イ)倒産、解雇などによる離職者((ハ)を除く)
被保険者であった期間
区分 1年未満 1年以上5年未満 5年以上10年未満 10年以上
20年未満
20年以上
30歳未満 90日 90日 120日 180日
30歳以上35歳未満 120日 180日 210日 240日
35歳以上45歳未満 150日 180日 240日 270日
45歳以上60歳未満 180日 240日 270日 330日
60歳以上65歳未満 150日 180日 210日 240日
(ロ)一般の離職者((イ)又は(ハ)以外の者)
被保険者であった期間
区分 1年以上10年未満 10年以上20年未満 20年以上
全年齢 90日 120日 150日

 有期労働契約が更新されなかったことによる離職者については、原則(ロ)の給付日数だが、令和7年3月31日までは、暫定的に(イ)の給付日数となる。

(ハ)就職困難な者(障害者など)
被保険者であった期間
区分 1年未満 1年以上5年未満 5年以上10年未満 10年以上
20年未満
20年以上
45歳未満 150日 300日
45歳以上65歳未満 360日

出典:厚生労働省「基本手当等の現状について別ウィンドウで開きます。pdfで開きます」をもとに作成

基本手当は失業していることが条件ですから、失業の認定を受ける必要があり、退職後は4週間に1回、決められた日にハローワークに出向いて求職活動の実績などを報告することで、失業していることが認められます。この失業の認定に応じて、毎回失業していた日数分の基本手当が支給されます。

 病気により退職した場合の注意点

繰り返しになりますが、基本手当は「失業」に該当しなければ受給できません。
病気療養や体力低下などにより退職後すぐに働けないときや、退職後に傷病手当金を継続受給する場合には、その期間は失業に該当せず、基本手当を受給できません。そういった場合は受給期間の延長申請を行いましょう。

 受給期間延長申請とは

基本手当は、原則、離職日の翌日から1年以内(以下、「受給期間」とします)の失業している日について、所定給付日数分支給されます。この受給期間内に、病気などの理由により引き続き30日以上職業に就くことができない場合は、ハローワークに申請することにより、受給期間に職業に就けない期間を加えることができ、受給期間を最長で離職日の翌日から4年以内まで延長することができます。
離職日の翌日から30日を過ぎたら受給期間延長の手続きができますので、該当したらお近くのハローワークに相談の上、手続きをすると良いでしょう。

しばらく療養する予定なら、受給期間延長申請をしておくと安心だね

高年齢求職者給付金について

高年齢求職者給付金は、高年齢被保険者(65歳以上)が失業の状態にある場合で、離職の日以前1年間に合計6か月以上の被保険者期間があった場合に、基本手当に代えて一時金として支給されるものです。

高年齢求職者給付金は離職理由に関係なく、被保険者であった期間によって表3の日数分が一時金として支給されます。失業の認定を受けるのも1回のみです。

表3 高年齢求職者給付金の支給額
被保険者であった期間 1年未満 1年以上
高年齢求職者給付金の額 30日分 50日分

出典:「ハローワークインターネットサービス - 基本手当について別ウィンドウで開きます」をもとに作成

高年齢求職者給付金については、基本手当と違い、受給期間の延長をすることができないので注意が必要です。

離職日の年齢が65歳未満か65歳以上かによって給付金の内容が大きく違うんだね

仕事を辞めることになったとき、退職日は必ずしも本人が自由に選んで決められるとは限りませんが、退職日を決める際の参考情報のひとつとして、年齢による求職者給付金の違いを知っておくと良いでしょう。

雇用保険に加入していない人も利用できる「求職者支援制度」

雇用保険の加入要件を満たさない働き方をしていた人や自営業だった人など、雇用保険に加入していない人でも利用できる制度として求職者支援制度があります。
本人収入が月8万円以下、世帯全体の収入が月30万円以下など(他にも要件あり)の要件を満たせば月10万円の給付金を受給しながら、無料の職業訓練を受講し、ハローワークによる求職活動のサポートを受けることができます。
要件を満たさず給付金を受けられなくても、無料の職業訓練のみ受講できる場合もあります。

職業訓練を受けることで新たなスキルを身に付けて、今までとは違う仕事を考えることもできるかもしれないね

よくある質問

Q1. 傷病手当金と同時に受給できますか?

A1. できません。
傷病手当金は、労務不能である場合に支給されるものです。一方で基本手当や高年齢求職者給付金は失業状態(働く意思と能力があるにも関わらず、職業に就くことができない状態)である場合に支給されるので、両者を同時に受給することはあり得ません。退職後、傷病手当金を継続受給する場合別ウィンドウで開きます。pdfで開きますには傷病手当金を優先して受給し、その間基本手当は受給期間延長申請をすることをお勧めします。ただし、高年齢求職者給付金は受給期間延長ができません。

Q2. 老齢年金と同時に受給できますか?

A2. 65歳未満で退職し、基本手当を受けている間は、65歳未満で支給される老齢厚生年金は全額支給停止となります。
一方で、65歳以上で支給される老齢年金は基本手当や高年齢求職者給付金とあわせて受給することができます。

(2025年2月作成)

<執筆者> 山下芙美子

匠社会保険労務士事務所 社会保険労務士
がん就労を考える会(愛知)世話人
両立支援コーディネーター
ブリッジ両立支援ナビゲーター

大学在学中にがんと診断される。その後、2度の再発を経験。2009年社会保険労務士試験に合格、翌2010年に社会保険労務士登録。2013年より、がん診療連携拠点病院でのがん患者就労相談に従事。