がんライフアドバイザーにきく こんなときどうする?
がん患者さんの保険編 Q&A

がん患者さんの保険 よくある相談にお答えします

医療機関でがん治療中の方やその家族の方向けに開催しているお金の相談会にも、保険についての相談は数多く寄せられます。
今回は、がんになった時に役立つ保険の種類や給付手続き、保障内容に加え、生命保険を解約せずにお金を工面する方法など、よくある相談にがんライフアドバイザー®が答えます。

回答:主治医からがん治療方針の話があった時点で、保険会社に連絡を入れて受けられる保障を確認しましょう

がんが疑われたときから検査が繰り返され、がんと診断を受ける前から、健康な頃には想像しなかった医療費がかかってきたことでしょう。これから治療が始まるとなったら、この先どのくらい医療費が必要になるのだろうと、不安になることもあるでしょう。

そこで思い出すのは、加入している保険やがん保険です。毎月、保険料が銀行口座から引き落とされているから、加入しているのはわかっているけれど、どんなときに給付金が受け取れるのかはうろ覚え。理解して加入したはずなのに…。そんな方も少なくないのではないでしょうか。

がんになったときに役立つ民間保険といえば、真っ先に思い浮かぶのが、がん保険や保険でしょう。しかし、生命保険の医療特約や特定(三大)疾病保障保険、就業不能保険、所得補償保険など、がんになったときに役立つ保障も兼ね備えている保険の種類は、意外と数多くあります。

まずは自分が契約している保険の保険証券、もしくは保障がわかる内容の書類をすべて出してみてください。その際、保険料はもう払い終えているけれど保障は続いている保険や、保険料が給与から天引きされて勤務先を通じて加入している保険、勤務先が契約して保険料を支払っている保険なども見落としがないようにしましょう。

表1:がんになったときに役立つ保険の例
がん保険 補償の対象をがんに限定した保険
保険 病気やケガによる入院、通院、手術などに備える保険
特定(三大)疾病保障保険 三大疾病(がん、急性心筋梗塞、脳卒中)の診断があり、所定の状態になった場合に、生存中に死亡保険金と同額の保険金が支払われる保険
就業不能保険 病気やケガによって、働くことができなくなった状態が所定の期間を超えて継続した場合に給付金が支払われる保険
所得補償保険 病気やケガによって、働くことができなくなった場合に、その間に喪失した所得を補償する保険

保険会社の資料が入った分厚いファイルをいくつも持って、相談に来られる方もいらっしゃいます。契約先の各会社のコールセンターに電話を入れて、ひとつひとつ保障を確認するのですが、商品名や保障名では判断がつきにくいものが少なくありません。

思わぬ給付金が出たAさんのケース

小細胞肺がんのAさんは、通院で放射線治療を受けることが決まっていました。放射線治療の保障にも通院での保障にも加入していなかったので、給付金が出ないと思い込んでいらっしゃいました。しかし、一緒に保険会社に確認をすると、Aさんが加入している保険は、がんの放射線治療を受けた場合、照射量の条件なく手術給付金の支払い対象となっていることがわかりました。

受け取れると思っていた給付金が受け取れなかったBさんのケース

小売業をしている個人事業主Bさんは、お店を休業する日が多いと経営に支障が出るということを懸念し、通院回数が少なくて済む内服薬での治療を選択しました。特定治療通院という、がん治療のために病院へ通う通院費の保障に加入していたので、内服薬を処方してもらうために通院した日の分は、給付金が受け取れると収入の見込みをしていらっしゃいました。しかし、その保険会社のその保障は、内服薬による抗がん剤治療のための通院は該当しないものでした。

民間保険からの給付金が、どんなときにいくら受け取れるかは、治療を受ける上で、お金の見通しを立てるための大きな情報です。起こるかもしれない副作用やこれからの生活など、さまざまな不安が湧き起こる中、お金の不安だけは和げることができるかもしれません。がんと診断され、主治医から今後の治療方針の話があった時点で、保険会社に連絡を入れ、自分が受けられる保障を確認することをおすすめします。

回答:がん治療の内容や家計状況を見ながら、自分で請求のタイミングを決めてしまいましょう

入院して手術でがんを切除した後、抗がん剤治療で2週間に1度の通院の予定があるとか、抗がん剤治療のために3日間の入院が3週間に1度の頻度であるといったように、がんの治療は、入退院を繰り返したり、定期的な通院が何か月、何年と続くことがあります。加入している保険から入院給付金や通院給付金が受け取れる場合、治療が継続している中で、どのタイミングで給付金の請求をしたらいいのか、悩んでしまうこともあるでしょう。

相談に来られる患者さんが、口をそろえておっしゃるのは、主治医に診断書を作成してもらうのにお金と時間がかかるから困る、ということ。

診断書の種類によっても、医療機関によっても、料金は異なりますが、診断書作成費は1通につき5,000円前後ではないでしょうか。もちろん保険適用外ですので、全額自己負担になります。こまめに請求すると、その分だけ診断書作成料が嵩んでいくことが、患者さんを悩ませています。

また、診断書作成の申込みをすると、作成には2~3週間ほど日数がかかるとしている医療機関が一般的です。待たされる日数がもどかしく思ったり、通院日に受け取れなかったりする方は少なくなく、自分が思うタイミングで給付金の請求ができないことに繋がっていると感じます。

がん診断時に給付金が出るCさんのケース

がんという診断があれば給付金が受け取れるがん保険に入っていたCさんは、乳がんの診断直後で治療開始前に、とりあえずがん診断給付金の100万円だけ受け取ることにしました。これからの治療や生活の資金を手元に置くことで、お金の不安は拭え、治療に前向きになれたとおっしゃっていました。その後、入院給付金や通院給付金の請求を急ぐ必要はありませんでしたが、いつでも請求できるようにと、保険会社から請求用の書類を複数枚、取り寄せておきました。

抗がん剤治療ごとに給付金が出るDさんのケース

Dさんは、抗がん剤治療をした月ごとに10万円が支払われる保険に加入していました。副作用による倦怠感がひどく、休職せざるを得ず、収入は給料の3分の2の額の傷病手当金のみ。預貯金を切り崩さないと生活費が足りませんでした。そこで、月初めの抗がん剤治療日に診断書を医療機関に提出すると決め、保険会社からの給付金を同じ頃に受け取れるように、毎月のルーティンにすることにしました。

せっかく受け取れる給付金があるのに、請求ができずに受け取れていないために、生活を切り詰めなければお金が回らないとか、他からお金を借りなければ支払いができなくなることは、本末転倒です。例えば2ヶ月分ずつといった具合に期間で区切って請求するのも一案、治療法や抗がん剤の種類が変わるごと請求するのも一案、退院ごとに請求するのも一案です。継続するがん治療の中で、家計状況を見ながら、自分の請求のタイミングを決めてしまいましょう。ただし、請求期限は、給付金を請求できるようになった日から3年*ですので、ご注意ください。

急ぎの場合には、医師の目に留まるよう、必要事項や期限の希望を書いたメモ書きを付けておく工夫をしたり、診断書提出前の診察時に一言事情を伝えてみてはどうでしょうか。

また、保険金請求の際に、医師の診断書が不要になるケースもあります。保険会社に確認してみましょう。

表2:給付金を上手に受け取るための準備
申請書類をあらかじめ取り寄せておく
一定期間ごと、治療変更の際など、請求するタイミングを決めておく
給付金請求期限は3年なので注意
請求時の診断書の要不要を保険会社に確認する
請求書類の目立つところに必要事項や期限をメモする
診断書発行にかかる期間を確認しておく

 保険法第95条(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=420AC0000000056)で定められています。ただし、3年が経過した後でも給付金を受け取れる場合もありますので、保険会社にご相談ください。

回答:保険料が払えないから解約、ではなく、保険会社に保険の見直しを相談してみましょう

がんになったときもお金の心配をしないですむように、必要となる費用をあらかじめ備えるために保険に加入していたはずなのに、保障の対象にならず、肝心なときに給付金が出ないケースも耳にします。なるべく支出を抑えたい状況で、給付金が出ない保障のための保険料は無駄な支出だ、解約してしまいたい、と思ってしまう心情も理解できます。

毎月の固定費を少しでも減らし、治療費の捻出はもとより、治療以外にがんライフを少しでも心豊かなものにできるためにお金を使えるよう、私もアドバイスをしています。民間保険の保険料も大きな固定費の1つ。しかし、保険料分だけ支出が減らせるから、保険を解約したらいいということでは決してありません。

病状や副作用の出方に応じて治療を選択していく中で、今の治療には給付金が出ないからといって、今後も役に立たない保障だとは限りません。

抗がん剤治療中のEさんのケース

術後の抗がん剤治療が始まったEさん。主治医から、今後は通院での抗がん剤治療なので入院する治療の予定はないと言われました。加入している保険からは、入院すると給付金が1日につき5,000円ずつ受け取れるのに、通院では1円も出ず、自分が交わした契約とはいえ、そのときはお金に困っているときに助けてくれない保険そのものに嫌悪感を抱いてしまった、とおっしゃっておられました。しかしその後、病状が進み、最期の過ごし方を口にされるようになりました。医療機関内の緩和ケア病棟に入ることを希望されたため、入院でも保険から入院給付金が出るとお伝えしたところ、最期まで家族にお金の負担をかけることはしたくなかったから、加入し続けていて良かったと安堵していらっしゃいました。

これから受ける可能性のある治療を医療スタッフに聞きながら、再度自身が持っている保障を確認してみることをおすすめします。

解約返戻金のある終身保険や養老保険であれば「保険料が支払えないけど、保障の範囲を小さくしていいから保険契約は続けたい」という希望に応え、解約しなくても支払う保険料が一切不要になる見直し方法が2つあります。

  1. 現在契約している保険金額は変えずに、保障の期間を短くするという見直し。
    これは延長保険への変更で、例えば、現在の契約は終身保障になっているけれど、保障の期間は一定期間で良いと考える場合には有効な見直しです。
  2. 現在契約している保障の期間は変えずに、保険金額を少なくするという見直し。
    これは払済保険への変更で、例えば、保障の期間は終身で契約しておきたいけれど、保険金額は減らしても構わないという場合に、有効な見直しです。

延長保険の保障の期間も、払済保険の保険金額も、契約を見直すときの解約返戻金などの積立金をもとに設定されます。つまり積立金のない掛け捨ての保険に、この見直し方法はできません。また延長保険や払済保険へ変更すると、特約は全て消滅してしまいます。入院特約や通院特約など、がん治療中に給付金を受け取れる特約を付けていた場合には、給付金による収入が無くなることも踏まえて検討する必要があります。

また、保障に付いている不要な特約を外すと、外した特約の分だけ支払う保険料を下げることができます。加入している保険の内容を改めて確認してみると、主契約は少額なのに、そこに数多くの特約が付いていることで保険料が高くなっていた、というケースもあります。特約1つ1つの内容を見て、要不要を検討してみてください。

保険料を下げるもう1つの手立てとしては、契約している保障額を下げることも一案です。例えば死亡時に1,000万円を受け取れる契約を500万円に下げることができれば、その分保険料も下がります。ただ、遺される家族がお金に困ってしまうようではいけません。しっかり家族内で話し合って判断されることが大切です。

保険料が支払えない=解約、ではなく、保険を見直して上手く活用できないか、加入している保険会社に相談してみてください。

表3:保険の見直し方法の例
延長保険にする
(保険金額は変えず保障期間を短くする・特約は消滅する)
保険料の支払いを不要にできる
払済保険にする
(保障期間は変えず保険金額を減らす・特約は消滅する)
特約を減らす 保険料の支払いを減らすことができる
保障額を減らす

回答:日数制限や回数制限などの保障内容や、保険独自の入院ルールを把握し、これからのお金の見通しを正しく立てましょう

病気やケガによる万一の入院に備え、保険に加入していた方もいらっしゃることでしょう。
契約内容によりますが、がんの疑いでの検査入院や、がん治療のための入院、緩和ケア病棟での入院など、がんライフを送る中で保険の入院保障の対象となる場面はいくつかあり、保険から支払われる入院給付金は、がんライフのお金の面を支える大切な収入となり得ます。

しかし、がん保険とは異なり、保険は、一般的に入院時の保障を無制限としておらず、支払われる入院給付金には日数制限、入院一時金には回数制限が設定されています。また、保険独自のルールがあり、それに基づいて入院給付金が支払われるため、入退院を繰り返すときには注意が必要です。

① 自身の保険の保障内容を確認

まず、加入している保険の保障内容がわかる書類を見てみましょう。
生命保険会社が取り扱っている保険の入院時の保障は、大きく分けると2つのタイプがあります。1つは、入院した日数に応じて、契約時に設定した日額給付金を受け取れるタイプ(以下、入院給付金)。もう1つは、入院日数は関係なく、入院すると一時金が受け取れるタイプ(以下、入院一時金)です。どちらのタイプか確認してみましょう。

保険の入院時保障のタイプ
入院給付金 入院した日数に応じて、契約時に設定した日額給付金を受け取れる
入院一時金 入院日数は関係なく、入院すると一時金が受け取れる

入院給付金の保障内容にある「1入院○○日」とか「○○日型」という表記は、保険会社のルールで考える1回の入院(1入院)で入院給付金が支払われるのは何日分かを示しています。「通算△△日」は、入院給付金が支払われる累積の日数は何日分か、の表記になります。入院一時金であれば「通算××回」と、契約中に1入院につき、一時金が支払われる限度回数が記載されています。
中には、がんを含む三大疾病、七大疾病による入院に限り「無制限」にしている保険もあります。この場合は、がん治療で何日入院しても、何度入院しても、日数や回数に制限なく、契約している金額が支払われます。
保険商品によって日数や回数が異なるので、複数の保険に加入している方は、1つ1つ確認が必要です。

最近の入院期間は短くなっていると聞くから、この制限は気にする必要はないのでは?と思われるかもしれません。しかし、保険独自のルールによって入院日数をカウントするために、制限日数をオーバーしてしまって、途中から給付金が出なくなる可能性もあることを知っておいてほしいと思います。

② 保険の入院日数・入院回数のルールを確認

保険には、入院の理由が同じ病気で、入退院を繰り返した場合、退院後、次の入院までに「一定の日数」が空いていないと、前回の入院日数を引き継いで日数をカウントされる、言い換えれば、継続した1回の入院(1入院)とみなされるというルールがあります※1。この「一定の日数」が、180日となっている契約がこれまでの主流である※2ことから、「180日ルール」と呼ばれたりもするのですが、耳にされたことはありますか?

※1 一部の保険では別の理由での入院でもルールが適用されます
※2 一定の日数が60日、90日の契約になっている商品もあります

図1のケースで180日ルールを考えてみましょう。胃がんの疑いがあり、その検査のために1回目の入院。胃がんと診断され、胃を切除するために2回目の入院。内服薬での治療中に体調悪化、検査の結果、肝転移が見つかり、病状回復と抗がん剤治療のために3回目の入院をしています。

図1:がん治療経過と保険の180日ルールの例

同じ病気での入院かどうかの判断は、それぞれの入院が医学上重要な関係があるのか、主治医がどう診断しているかにより、保険会社が審査します。
図1のケースの3回目の入院は、肝臓にある腫瘍に対する治療目的ですが、元が胃がんで肝臓への転移なので、この場合、入院は3回とも胃がんが理由での入院となります。

次に180日ルールが適用されるかどうかですが、1回目の退院の翌日から2回目の入院までの期間は20日、2回目の退院の翌日から3回目の入院までの期間は80日となっています。どちらも180日以内なので、保険では3回の入院を合わせて1入院とみなします。
よって1回目の3日間、2回目の14日間と通算して、3回目の入院の初日は、入院日数18日目とカウントされます。

もし、加入している保険が1入院につき30日分しか入院給付金が支払われないものであれば、3回目の入院時に給付金はいつまで受け取れるでしょうか。既に17日分の給付金が支払われているので、残り13日分しか支払われません。つまり、3回目の入院の14日目以降の入院に関して、入院給付金は支払い対象外となります。

再入院で、入院一時金が出なかったAさんのケース

1回の入院につき一時金が支払われる保険に加入をしていました。手術後に退院をし、初回の抗がん剤治療時に再度入院をしたため、2回分の入院一時金を請求したところ、1回目の退院からまだ1か月も経っていない時点での入院だったため、180日ルールにより1入院とみなされ、1回分の入院一時金しか支払われませんでした。

繰り返しの入院で、入院給付金が出続けたBさんのケース

治療スケジュールに合わせ、6日間入院して1日だけ自宅に帰る入退院を繰り返していました。加入していた保険の入院給付金は入院5日目から出る契約だったので、毎回の入院ごとに2日分(5日目、6日目)だけしか出ないと思い込んでいらっしゃいました。しかし、180日ルールにより繰り返す入退院は全て1入院としてみなされるために、1回目の入院の最初の4日間以外、支払限度日数まで入院給付金が支払われました。

保障内容を確認しながら、この180日ルールをお伝えすると、知らなかったとおっしゃる方は少なくありません。保険の入院給付金による収入をアテにしていたのにとガッカリされるAさんのような方もいらっしゃれば、思っていたより入院給付金が受け取れると喜ばれるBさんのような方もいらっしゃり、悲喜こもごも。
これからのお金の見通しを正しく立てるために、保障内容やルールを知っておくことは大切です。

回答:生命保険の解約ではなく、契約者貸付制度やリビング・ニーズの利用で、高金利のローンはすぐ完済を

日々の生活のため、受診時の医療費の支払いのため、とにかく手元に現金が必要だけれど、預貯金も底を尽きてしまって引き出せるお金がない。次の入金日は、まだあと少し先。どうしよう……。

実は、こんな状況に陥ってしまった方が、相談にいらっしゃったときに口を揃えておっしゃるのはカードローンのお話です。カードローンは、担保も保証人も必要とせず、銀行やコンビニなどに設置されているATMで借りられることから、今だけ、ちょっとだけ、という気持ちで借入をしやすいのはわかります。
しかし、カードローンを利用することを、私はおすすめしません。なぜなら、緊急時の一度だけのはずが、簡単にいつでも少額を借りることができるために、もう少しだけ、もう少しだけと借入を繰り返してしまうケースが多く、また金利の高いカードローンは利子がたくさんつき、返済の見込みが立たないほど借金額が膨らんでしまった方を何人も見てきたからです。

そこで、生命保険でのお金の工面は、解約して解約返戻金を受け取るのではなく、活用して現金を得ることも検討してみましょう。得たお金で、少しでも早くカードローンの借金を完済することをおすすめします。

①「契約者貸付制度」の利用

解約返戻金のある積立型の保険、例えば終身保険、養老保険、学資保険などに加入しているならば、その解約返戻金の7~8割の一定範囲内で、保険会社からお金を貸し付けてもらう「契約者貸付制度」を利用することができます。自分が積み立ててきた解約返戻金の一部から貸し付けを受けるため、審査も保証人も不要で、手続きは比較的スムーズです。
利子はその保険契約の利率によりますが、カードローンのような高金利ではありません。つまり、低い金利で貸し付けを受け、高い金利のローンを返済することで、返済額を減らすことができます。

契約者貸付制度には、明確な返済期限や決められた返済スケジュールはないので、自分なりの返済計画を立てることができます。もちろん早い段階で全額返済することが望ましいのですが、就労による収入が減っていたり、医療費を支払っている中で借金を返済していくことは、厳しい時期もあるでしょう。
万一、返済が残ったまま亡くなった場合には、貸付+利子の金額を差し引いた死亡保険金が、遺族に支払われることになります。つまり、契約者貸付制度で借りたお金は、死亡保険金から返すという形です。そこで、利子を含めていくらまでなら死亡保険金が減額になっても困らないのかを、家族間で話し合ってから、契約者貸付制度を利用することをおすすめします。

そしてなにより、契約者貸付制度を利用したからといって、保険が解約になることはなく、保障は変わらず継続されます。新たな保険に加入しづらく、これまで加入してきたものを守っていきたいがん治療中の方にとって、ここは大切なポイントではないでしょうか。

契約者貸付制度により保険料の支払いを継続できたCさんのケース

入院でのがん治療が決まり、一時的に自営しているお店を休業せざるを得なくなり、解約返戻金をその期間の生活費に充てようと生命保険の解約を考えていました。しかし、話を伺うと、子供たちに少しでも遺したいと思って加入した大切な保険とのこと。契約者貸付制度で貸し付けを受け、そのお金で毎月の保険料を支払い、保険契約を継続しました。

②「リビング・ニーズ」を利用しての死亡保険金の前払い

「リビング・ニーズ」とは、被保険者が余命6か月以内と診断されたとき、生存中に死亡保険金の全部もしくは一部を前払いで受け取れるしくみで、ほとんどの死亡保障には無料で付加されています。保障内容がわかる書類をよく見ると、「リビング・ニーズ特約付」と記載があるのではないでしょうか。保険料の負担がないだけに、リビング・ニーズが付いていることに気が付いていなかった方もいらっしゃるかもしれません。
このリビング・ニーズの利用に必ず必要になるのが、余命6か月以内という主治医の診断です。リビング・ニーズが付いていても、利用できる時期は限られています。
また、治療中に患者さんに対し、余命なんて不確実なことは言えないとおっしゃる医師もいらっしゃるでしょう。そうおっしゃるのも当然のことと理解したうえで、お金がないと借金が増える一方で、生活も治療もできない現実、お金に困らないように加入してきた生命保険の活用によってお金の問題が解決できることを、医師に伝えてみてはいかがでしょうか。

主治医が2人いたDさんのケース

病状が進行していることを自覚し、リビング・ニーズを利用しようと、がん診断当初から通院している病院の主治医に診断書の作成を依頼したところ、明確な余命はわからないので書けないと断られたと落胆していらっしゃいました。しかし、訪問診療に来てくれている在宅医療の主治医に尋ねたところ、がんの転移や広がりから余命6か月以内だという話があり、スムーズに診断書を作成してもらうことができました。

リビング・ニーズを利用すれば、死亡保険金額の範囲内で3,000万円を上限に、死亡保険金を生前に自分で受け取ることができます。ローンの返済や医療費、生活費の支払いには困らないどころか、命を延ばすためだけにしか使えなかったお金が、何か楽しみのために使えるようになる余裕が持てるかもしれません。
死亡保険金の受取人になっている家族と、お金だけではなく、残された時間を共にどう過ごしたいかを話し合ってみることができたら、リビング・ニーズの利用はより価値のあるものになるのではないでしょうか。

※生命保険、保険などの保障内容は、商品や契約内容、契約時期によって異なります。証券番号がわかる書類を手元に置きながら、契約者ご本人が各保険会社に問い合わせをし、確認してみることをおすすめします。

(2024年8月更新)

<執筆者> 川崎由華

一般社団法人がんライフアドバイザー協会 代表理事
大阪医科薬科大学大学院 医学研究科 在籍
社会福祉士、CFP®
1級FP技能士
住宅ローンアドバイザー
両立支援コーディネーター

医師の家系で生まれ育ち、がん治療関連薬を扱う製薬企業での勤務、両親のがんの罹患を経験。がん診療連携拠点病院で相談員を務める中、がん患者とその家族のお金や仕事の相談を受ける医療・介護者づくりの法人を設立。相談実績を医療関連学会での発表を重ねる他、お金や仕事の問題といった社会的苦痛の緩和も治療の一貫として考えていく重要性を、講演や雑誌、ラジオなどメディアを通じて全国の医療従事者や市民に向けて伝えている。