がん患者さんの保険 よくある相談にお答えします②
医療機関でがん治療中の方やその家族の方向けに開催しているお金の相談会にも、民間保険についての相談は数多く寄せられます。
今回は、保険の入院時保障と、生命保険でお金を工面する方法について、よくある相談にがんライフアドバイザー®が答えます。
回答:生命保険の解約ではなく、契約者貸付制度やリビング・ニーズの利用で、高金利のローンはすぐ完済を
日々の生活のため、受診時の医療費の支払いのため、とにかく手元に現金が必要だけれど、預貯金も底を尽きてしまって引き出せるお金がない。次の入金日は、まだあと少し先。どうしよう……。
実は、こんな状況に陥ってしまった方が、相談にいらっしゃったときに口を揃えておっしゃるのはカードローンのお話です。カードローンは、担保も保証人も必要とせず、銀行やコンビニなどに設置されているATMで借りられることから、今だけ、ちょっとだけ、という気持ちで借入をしやすいのはわかります。
しかし、カードローンを利用することを、私はおすすめしません。なぜなら、緊急時の一度だけのはずが、簡単にいつでも少額を借りることができるために、もう少しだけ、もう少しだけと借入を繰り返してしまうケースが多く、また金利の高いカードローンは利子がたくさんつき、返済の見込みが立たないほど借金額が膨らんでしまった方を何人も見てきたからです。
そこで、生命保険でのお金の工面は、解約して解約返戻金を受け取るのではなく、活用して現金を得ることも検討してみましょう。得たお金で、少しでも早くカードローンの借金を完済することをおすすめします。
①「契約者貸付制度」の利用
解約返戻金のある積立型の保険、例えば終身保険、養老保険、学資保険などに加入しているならば、その解約返戻金の7~8割の一定範囲内で、保険会社からお金を貸し付けてもらう「契約者貸付制度」を利用することができます。自分が積み立ててきた解約返戻金の一部から貸し付けを受けるため、審査も保証人も不要で、手続きは比較的スムーズです。
利子はその保険契約の利率によりますが、カードローンのような高金利ではありません。つまり、低い金利で貸し付けを受け、高い金利のローンを返済することで、返済額を減らすことができます。
契約者貸付制度には、明確な返済期限や決められた返済スケジュールはないので、自分なりの返済計画を立てることができます。もちろん早い段階で全額返済することが望ましいのですが、就労による収入が減っていたり、医療費を支払っている中で借金を返済していくことは、厳しい時期もあるでしょう。
万一、返済が残ったまま亡くなった場合には、貸付+利子の金額を差し引いた死亡保険金が、遺族に支払われることになります。つまり、契約者貸付制度で借りたお金は、死亡保険金から返すという形です。そこで、利子を含めていくらまでなら死亡保険金が減額になっても困らないのかを、家族間で話し合ってから、契約者貸付制度を利用することをおすすめします。
そしてなにより、契約者貸付制度を利用したからといって、保険が解約になることはなく、保障は変わらず継続されます。新たな保険に加入しづらく、これまで加入してきたものを守っていきたいがん治療中の方にとって、ここは大切なポイントではないでしょうか。
契約者貸付制度により保険料の支払いを継続できたCさんのケース
入院でのがん治療が決まり、一時的に自営しているお店を休業せざるを得なくなり、解約返戻金をその期間の生活費に充てようと生命保険の解約を考えていました。しかし、話を伺うと、子供たちに少しでも遺したいと思って加入した大切な保険とのこと。契約者貸付制度で貸し付けを受け、そのお金で毎月の保険料を支払い、保険契約を継続しました。
②「リビング・ニーズ」を利用しての死亡保険金の前払い
「リビング・ニーズ」とは、被保険者が余命6か月以内と診断されたとき、生存中に死亡保険金の全部もしくは一部を前払いで受け取れるしくみで、ほとんどの死亡保障には無料で付加されています。保障内容がわかる書類をよく見ると、「リビング・ニーズ特約付」と記載があるのではないでしょうか。保険料の負担がないだけに、リビング・ニーズが付いていることに気が付いていなかった方もいらっしゃるかもしれません。
このリビング・ニーズの利用に必ず必要になるのが、余命6か月以内という主治医の診断です。リビング・ニーズが付いていても、利用できる時期は限られています。
また、治療中に患者さんに対し、余命なんて不確実なことは言えないとおっしゃる医師もいらっしゃるでしょう。そうおっしゃるのも当然のことと理解したうえで、お金がないと借金が増える一方で、生活も治療もできない現実、お金に困らないように加入してきた生命保険の活用によってお金の問題が解決できることを、医師に伝えてみてはいかがでしょうか。
主治医が2人いたDさんのケース
病状が進行していることを自覚し、リビング・ニーズを利用しようと、がん診断当初から通院している病院の主治医に診断書の作成を依頼したところ、明確な余命はわからないので書けないと断られたと落胆していらっしゃいました。しかし、訪問診療に来てくれている在宅医療の主治医に尋ねたところ、がんの転移や広がりから余命6か月以内だという話があり、スムーズに診断書を作成してもらうことができました。
リビング・ニーズを利用すれば、死亡保険金額の範囲内で3,000万円を上限に、死亡保険金を生前に自分で受け取ることができます。ローンの返済や医療費、生活費の支払いには困らないどころか、命を延ばすためだけにしか使えなかったお金が、何か楽しみのために使えるようになる余裕が持てるかもしれません。
死亡保険金の受取人になっている家族と、お金だけではなく、残された時間を共にどう過ごしたいかを話し合ってみることができたら、リビング・ニーズの利用はより価値のあるものになるのではないでしょうか。
※生命保険、保険などの保障内容は、商品や契約内容、契約時期によって異なります。証券番号がわかる書類を手元に置きながら、契約者ご本人が各保険会社に問い合わせをし、確認してみることをおすすめします。
(2023年4月更新)