自宅でできる
リハビリテーション

これまで、がんの進行や治療によって受けた身体的・心理的なダメージに対し、積極的な対応が行われることは、あまりありませんでした。医療関係者にしても、患者さん自身にしても、「がんになったのだから仕方がない」というあきらめの気持ちが強かったからです。しかし、がんやその治療によって、様々な障害が生じると、家庭生活や学校、仕事への復帰にあたって大きな障害となり、生きることの質(QOL)は低下してしまいます。

がんになると、患者さんはさまざまな身体的・心理的障害を受けます。がんそのものによって痛みやだるさが起こることもあれば、治療の副作用や後遺症によって体の機能が低下することもあります。これらの障害に対して様々なリハビリテーションを行うことで、患者さんの回復力やQOLを高め、できるだけ早く家庭や社会に復帰することが可能です。これが、がんのリハビリの大きな役割です。

がんのリハビリテーション(リハ)は、病期によって「予防的リハ」「回復的リハ」「維持的リハ」「緩和的リハ」の大きく4つに分類されます。リハビリテーションは、がんと診断されたときに始まり、障害の予防や緩和、あるいは能力の回復や維持を目的に、あらゆる状況に応じた切れ目のない支援をすることが理想です(図1)。

図1 病期別がんのリハビリテーション 予防的リハ…診断後、治療の前に開始。事前に呼吸の方法を練習する「呼吸リハ」など、機能障害の予防を目的とする。回復的リハ…治療開始後、手術後などの機能障害や体力低下に対して最大限の機能回復を図る。維持的リハ…再発・転移などで機能障害が進行しつつある患者さんに対して運動能力の維持・改善を図る。自助具の使用、動作のコツなども含む。緩和的リハ…積極的な治療が難しい末期の患者さんの要望を尊重しながら、身体的・精神的・社会的にも生活の質をできるだけ高く保てるようにサポートする。

がんの治療中や治療を終えた患者さんにとって、運動を行うことは大変有益です。大規模な疫学調査により、日常生活を活動的に過ごされている方とそうでない方では、前者のほうが死亡率が少ないことが示されています。生活習慣病を含むすべての死因の死亡率だけでなく、がんによる死亡率(がん特異的死亡)も少なくなっており、運動が、がんの再発や進行を防ぐような良い効果がある可能性があります。

American Cancer Society(アメリカがん協会)のガイドラインでは、がん治療を終えた患者さんのための日常生活の目標が以下のとおり3つ挙げられており、健全な体重の維持や健康的な食生活とともに、活動的な生活習慣の重要性が示されています。推奨される運動は、有酸素運動(ウォーキング、自転車エルゴメータなど)、筋力トレーニングとストレッチです。最初からあまり頑張りすぎてしまうと続かないので、軽めの運動でも毎日継続することが大切です。

がん治療を終えた患者さんのための日常生活の目標 1.健全な体重の維持…体重過多や肥満の場合は、高カロリーの飲食物を制限し、身体活動性を増やして体重のコントロールを行う。2.活動的な生活習慣…定期的な運動を実施する。不活動を避け、可能な限り早期に通常の日常生活に戻る。少なくとも週150分の中等度の強度の運動を行う。少なくとも週2回は筋力トレーニングを行う。3.健康的な食生活…健全な体重を維持できるように適切な量の飲食物を選ぶ。毎日5種類以上の野菜や果物を摂取する。加工物や牛肉などの消費を制限する。アルコールの摂取を制限する。

<監修>辻 哲也 先生
慶應義塾大学医学部 リハビリテーション医学教室 教授