がん治療を支えるご家族へ──あなたの生活と心も守るために

がん治療は患者さんだけでなく、支えるご家族にとっても大きな挑戦です。
通院の付き添い、日常のケア、経済的な不安…
長期化する治療の中で、ご家族もまた深い疲れや不安を抱えています。
最新の調査結果をもとに、ご家族への支援の重要性と具体的な対策をお伝えします。

執筆:伊那中央病院 腫瘍内科 部長 黒澤彩子 先生

はじめに

がんの治療は患者さんだけのものではありません。そばで支えるご家族にとっても、大きな挑戦となります。通院の付き添い、食事や生活のサポート、治療費の不安やお仕事への影響、将来への不安など、日常生活にさまざまな変化が訪れます。

私たちはこれまで、がんの治療を受ける患者さんと、そのご家族の「生活の質(QOL)」について研究してきました。治療が進む中で、ご家族の心や体がどのような影響を受けるかを調べるために、アンケート形式の調査を行いました

その結果、見えてきたのは「ご家族もまた、深い疲れや不安を抱えている」という事実でした。

治療がうまくいっても、ご家族の不安は残ることがあります

今回の調査では、治療が始まった時点で、すでにご家族の気持ちも大きく落ち込んでいることがわかりました。そして、半年以上の治療期間を経ても、その気持ちが十分に回復していないケースが多く見られました。

患者さんの病状が良くなっても、ご家族の不安や疲れがすぐに消えるわけではないのです。これは、がん治療が「患者さんだけのものではない」ということを、改めて教えてくれる結果でした。

ご家族も「支援が必要な存在」です

がん治療の現場では、患者さんの症状や副作用に目が向きがちです。でも、そばで支えるご家族もまた、介護や通院の付き添い、治療の理解、経済的な心配など、たくさんの負担を抱えています。

私たちが行った調査からも、ご家族にも「疲れやすい」「眠れない」「気持ちが落ち込みやすい」「経済的に不安」といった問題を多く抱えていることが明らかになりました。治療が長く続くほど、この傾向は強まります。

だからこそ、私たち医療者は「患者さんのそばにいる人」ではなく、「ケアが必要な大切な存在」として、ご家族にも目を向ける必要があると考えています。

がんと長く付き合っていく時代という背景

近年、患者さんが治療を続けながらご自宅での生活を送ることができる期間が長くなり、ご家族の支えも長期にわたるようになってきました。

  1. 1. 治療成績の改善

    がん治療も進歩しており、これまでとは異なる作用の治療薬(分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤など)の登場により、今までよりも長く病気の進行を抑えられるようになりました。
    「がん=すぐに命に関わる病気」というイメージから、「がんと長く付き合っていく時代」へと変わりつつあります。

  2. 2. 外来治療の普及

    以前は抗がん剤治療のために長期入院することも多くありましたが、現在は点滴や皮下注射、内服治療の多くが外来で行われるようになっています。
    患者さんはご自宅で過ごす時間が増えたことで、仕事との両立や、ご家族と過ごす時間も増え、QOLが向上しました。

患者さんが自宅で過ごす時間が増えることはなにより良いことですが、一方でご家族にとっては体調管理や副作用への対応をはじめ、身体的・心理的・社会的負担も長期間続くことを意味します。
私たちが行った調査でも、ご家族の疲労や不安が「治療の長期化」とともに強くなる傾向が見られました。

早い段階からの支援が大切です

このように、治療成績の改善と外来治療の普及により、患者さんとご家族が共に歩む時間が延長しています。だからこそ、早い段階からのご家族への支援がますます重要になっています。

たとえば…

  • 病気や治療について、できるだけわかりやすくご説明します
  • 病気や治療以外の不安や気がかりも、どうぞ遠慮なくご相談ください
  • ご家族の心配ごとも、私たち医療スタッフは大切に受け止めています
  • 介護や療養の方法についても、必要な情報をお伝えします

こうしたサポートを早くから始めることで、ご家族の負担を少しでも軽くできる可能性があると考えています。
不安なことがあれば、いつでも私たち医療スタッフにお声がけください。

がん相談支援センターを活用してください

もし今、「誰にも相談できない」「何を聞けばいいのかもわからない」と感じているなら、がん相談支援センターを利用してみてください。

がん相談支援センターは、全国のがん診療連携拠点病院などにある無料の相談窓口です。看護師やソーシャルワーカー、心理士などが常駐し、患者さんだけでなくご家族の悩みにも対応します。

  • 治療や副作用についての不安
  • 介護や生活の工夫
  • 経済的な問題や支援制度の活用方法
  • ご家族ご自身の心配や孤独感

患者さんが治療を受けている病院ではなくても、最寄りのがん相談支援センターに相談することも可能です。
どんなことでも構いません。あなたの言葉に、耳を傾けてくれる人がいます。

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相談してますか?あなたのきになる「あれこれ」~がん相談支援センターで相談できること~

最後に──あなたの心と生活も、守ってほしい

がん治療は、患者さんとご家族が一緒に歩む長い道のりです。ご家族の心と体が元気であることは、患者さんの治療にも良い影響を与えます。
「自分が頑張らなきゃ」と思いすぎず、時には誰かに頼ってください。あなたの不安や疲れは、決してわがままではありません。

私たち医療者は、患者さんだけでなく、ご家族の声にも耳を傾けています。がん治療担当医のほか、看護師、薬剤師、心理士、ソーシャルワーカーなどのメンバーが対応します。
がん相談支援センターはそのきっかけにもなりますのでぜひ活用してみてください。

どうか、ひとりで抱え込まず、声をあげてください。あなたの声は、きっと届きます。

【出典】※Takeuchi N, Kurosawa S, Yoshida S, Koike K. Decline in quality of life among caregivers of patients undergoing chemotherapy for incurable cancer: implications for early social and medical support. J Patient Rep Outcomes. 2025 Jul;9(1):74.

(2025年11月公開)

<執筆者>
黒澤 彩子(くろさわ さいこ)先生

執筆者プロフィール
伊那中央病院 腫瘍内科 部長

資格・所属学会

日本内科学会認定医、日本血液学会専門医、日本造血免疫細胞療法学会認定医
日本輸血細胞治療学会認定医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医・患者支援・サバイバーシップ部会委員

ご略歴

平成11年3月 東北大学 医学部 卒業
平成11年4月 武蔵野赤十字病院 初期研修医
平成13年4月 東京都立墨東病院 後期研修医
平成14年10月 東京都立墨東病院 血液内科医員
平成19年4月 国立がん研究センター中央病院 造血幹細胞移植科チーフレジデント
平成22年11月 国立がん研究センター中央病院 造血幹細胞移植科医員
平成28年4月 国立がん研究センター造血幹細胞移植科医長、輸血責任医師併任
平成31年4月 伊那中央病院 腫瘍内科医長
令和3年4月 同部長

関連論文

※Takeuchi N, Kurosawa S, Yoshida S, Koike K. Decline in quality of life among caregivers of patients undergoing chemotherapy for incurable cancer: implications for early social and medical support. J Patient Rep Outcomes. 2025 Jul 1;9(1):74.
・Kurosawa S, et al. Feasibility and usefulness of symptom monitoring with electronic patient-reported outcomes: an experience at single-center outpatient oncology clinic. Support Care Cancer. 2024 Dec;33(1):3.
・Kurosawa S, et al. Incidence and predictors of recurrent sick leave in survivors who returned to work after allogeneic hematopoietic cell transplantation. J Cancer Surviv. 2023 Jun;17(3):781-794.
・Kurosawa S, et al. Resignation and return to work in patients receiving allogeneic hematopoietic cell transplantation. J Cancer Surviv. 2022 Oct;16(5):1004-1015.