がん患者さん・ご家族をあらゆる面から支え、いつでもホッと一息つける場所に
~岡山赤十字病院 がん相談支援センター~

がんになったとき、患者さんやご家族は病気そのものだけでなく、「今の仕事を続けられるのだろうか」「治療費や生活費はどうなるのだろう」といった、これからの生活に関わる多くの悩みや不安を抱えます。そんなとき、ぜひ立ち寄っていただきたい場所ががん相談支援センターです。
岡山県南東部の中核病院として多くのがん患者さんを受け入れている岡山赤十字病院のがん相談支援センターでは、看護師や医療ソーシャルワーカー(MSW)をはじめとする多職種が密に連携し、患者さんやご家族のあらゆる不安や悩みに寄り添っています。これまでの相談内容をもとに、がん相談支援センターでどのようなサポートが受けられるのかを伺いました。(2026年5月27日取材)

がんwith がん相談支援センター 事例紹介 インタビュー
開催場所:岡山赤十字病院 患者サポートセンター
インタビュー参加者:写真左から別所昭宏先生(副院長)、長谷川彩華さん(がん相談支援センター看護師)、立花裕子さん(同)、原田亮先生(胆膵内科部長・消化器内科副部長・がんセンター長)

がん告知時に看護師が同席し、がん相談支援センターにつなぐ取り組みを実践

原田先生:当院は、患者さんが安心して治療を受けられるための体制づくりとして、地域の医療機関との連携、院内での多職種連携に力を入れています。
多職種連携の一つとして、がん看護の知識を持つ看護師が同席して告知をする取り組みを行っています。私は膵がんを専門としていますが、膵がんは「見つかりにくく、進行が早い」というイメージがあるため告知時に大きなショックを受ける患者さんが少なくありません。医師としてゲノム医療の進歩や新しい治療選択肢をお伝えし、看護師が患者さんのフォローを行うという役割分担をしており、看護師を介してがん相談支援センターにつなぐことで、希望を持ってがん治療に向き合っていただけるように努めています。

立花さん:告知に同席した看護師から、がん相談支援センターを訪れる予定の患者さんの心配ごとなどを共有してもらっています。そのため、患者さんが相談支援センターに来られた際もスムーズにお話を伺うことができます。

長谷川さん:当院のがん相談支援センターは、患者サポートセンターに所属しており、看護師をはじめ、MSWなど多職種が連携することで、図1にまとめたような「患者さんのさまざまな心配ごと」に適切に応えられるよう努めています。医療に関するご相談は主に看護師が対応しています。これまでの経験から、患者さんが不安を抱えやすいのは「がんと診断された直後~検査結果待ち~治療開始」の期間だと考えています(図1)。病院のスタッフからもがん相談支援センターの存在を患者さんにお伝えしますが、その時期に何か心配ごとや気になることがあれば、患者さんから相談を持ちかけていただけると、ありがたいですね。

図1患者さんの心配ごととがん相談支援センターの役割

図1 医師の説明:診察・検査の結果(病気の状態)、診断、治療の選択肢(ゲノム医療など、最新の情報も)、副作用の説明など。医師の説明を聞いて「言ってること難しいな…」と困る患者さん。→患者さん・ご家族の心配ごと:仕事は続けられる?、他の人はどうしてる?、お金のことも不安…、結局、治療はどうなるんだろう、家族にはどう伝えたら…。がんと診断された直後~検査結果待ち~治療開始の時期は、特に悩みがち。→がん相談支援センター:医師の説明で理解が難しかったところを聞いて、納得する、仕事やお金、生活のことを相談できる、他の人の実践例を聞ける、家族への伝え方についてアドバイスをもらえる。

インタビュー内容をもとに作成:原田先生監修

原田先生:まずは、近くにいる医療者に相談してみてください。

立花さん:通常、病院内には医療者間のネットワークがあるので、医療者の誰かに質問すれば、その方が応えられなくても別の医療者が対応してくれると思います。

仕事とがん治療は両立できる時代 相談することで考えが整理できる

長谷川さん:最初から仕事に関する相談が目的で、がん相談支援センターを訪れる方はほとんどいません。私たちがお話を伺うなかで、「実は仕事のことで困っている」といった話が出てくることが多いです。ぜひ、仕事の相談ができることを知っていただきたいです(図2)。

図2がん相談支援センターでできる仕事の相談

図2 ①仕事を辞めるべきか、続けられるか相談できる:患者さんの「もう仕事は続けられないかも…」に対し、相談員が「辞める前にご相談ください!」と対応。慌てて辞める必要はない!事務職・営業職・力仕事など、お仕事の内容や働き方にあわせて一緒に考えます。②治療内容について医師と相談する橋渡し:患者さんの「仕事を続けたいのですが…」を相談員が受け止め、「治療法について医師と相談しましょう」と医師につなぐ。③治療スケジュールの相談:患者さんの「治療の予定は絶対に変えられないのかな…」に対し、調整しながら両立できる方法を一緒に考えます。④会社への伝え方の相談:患者さんの「会社にどう伝えたら…」に対し、「一緒に伝え方を考えましょう!」と相談員が対応。会社「見通しがわかると対応しやすくなります」

インタビュー内容をもとに作成:原田先生監修

立花さん:がんと診断された直後に「もう仕事は続けられない」と思い込み、退職を考える方は少なくありません。これを“びっくり離職”と呼びますが、私たちはまず「辞めないでください」とお伝えしています(図2-①)。がんと診断され、気持ちが動転している時期に大きな決断をする必要はありません。「福利厚生や休職制度など、勤務先の利用できる制度を確認しながら、一緒に考えていきましょう」とお話ししています。

長谷川さん:仕事に関する相談では、職種や働き方も具体的にお聞きします。例えば、同じ「仕事を続けたい」という思いでも、デスクワークと力仕事では状況が全く異なりますから、患者さん一人ひとりの状況を理解したうえで仕事を続ける方法を一緒に考えていきます(図2-①)。

原田先生:力仕事を行う方であれば「手のしびれが出にくいお薬に変更できるか」など、患者さんの希望に沿えるかも検討しています(図2-②)。患者さんが希望される通院頻度などからも、治療内容を調整することができます(図2-②)。

長谷川さん:「医師から提示された治療スケジュールは絶対に変更できない」と思い込んでいる患者さんも多いのですが、主治医と相談しながら調整できる場合もあります(図2-③)。私たちは、患者さんと医師をつなぐ役割も担っています(図2-②)。

立花さん:お勤めの会社とのコミュニケーションも重要です。例えば、「手術までは入院が必要だが、その後は外来治療になる」といった治療の見通しがわかれば、会社側は患者さんの状態や治療状況に応じた対応を取りやすくなります。患者さんはがんのことで精いっぱいで、仕事のことまで考えが及ばないことも多いですから、会社への伝え方についてもアドバイスしています(図2-④)。

長谷川さん:2026年4月からは法律改正で事業者(会社)による治療と仕事の両立支援が努力義務化されました1)ので、今後は事業者も含めたチームとして、がん患者さんを支える仕組みになっていくと思います。なお、当院では副院長の別所先生を中心に多職種で構成された両立支援のチームを作り、“びっくり離職”の防止など、さらに充実した支援を目指しています。

立花さん:このほか当院では月1回ハローワークの担当者が病院に来て相談を行っており、治療を続けながら新しい仕事を探したい方は就職相談・支援を受けられます。さらに、産業保健センターの担当者が両立支援についてアドバイスしてくれる体制もあります。

がん相談支援センターは医療費の相談もできる

長谷川さん:物価高などの影響もあるのか、最近増えているのが、「治療費はいくらかかるのか」という相談です。お金のことは他人に話しづらいと感じる方も多いと思いますが、ぜひ私たちに相談ください。

立花さん:がん治療に関する制度が複雑で、専門家の助けがないと理解が難しいことが多いです。ただ、高額療養費や傷病手当金など、利用できる可能性のある制度は数多くあります。患者さんの保険制度や収入状況に合わせて説明していますが、特に医療費の自己負担の上限や入院時の食事代などは細かな数字を伝えて、ご理解いただけるよう工夫しています。

生活費、生活全体のこともがん治療において重要な情報

立花さん:医療費だけではなく、生活費から生活全般の相談に乗ることもあります。

原田先生:以前、ご自身も病気を抱えながらご家族の介護をされている患者さんがおられました。介護費用、生活費なども心配の種になります。こうした患者さんの事情は診察室内ではなかなかつかめないのですが、実は治療をするうえでも重要な情報です。がん相談支援センターが患者さんの生活全体の相談に乗ってくれることで、医師もその情報を得て、解決策を一緒に探ることができます。

高齢の患者さんへの支援では生きがいを大切に

長谷川さん:高齢の患者さんとお話しする際は、趣味や地域活動についてお聞きしています。グラウンドゴルフや詩吟など、生きがいになっている活動を続けられることが、その方の生活の質(QOL)を高めると考えているからです。がんの治療をするから生きがいを諦めるのではなく、「どうすれば続けられるか」を一緒に考えていきます(図3)。

立花さん:例えば、農業をされている高齢患者さんで「自分がいないと(農業が)できない」とおっしゃる方もいます。でも、詳しくお話を伺うと、ご家族が手伝える場合も少なくありません。患者さんご本人だけでなく、ご家族など周囲の環境も含めて整理することで「工夫すれば、やりたいことを続けられるかもしれない」という道筋が見えてくることがあります。

図3生きがいを重視した高齢患者さんとのやり取り

図3 生きがいになっている活動を続けられることが、生活の質(QOL)を高めます。グラウンドゴルフや詩吟を楽しむ高齢の患者さんのイラスト、患者さんと相談員が向き合って話す様子。ご家族など周囲の環境も整理します:「自分がいないと農業ができない…」と悩む患者さんに対し、ご家族が手伝える場合もあります。がんの治療で生きがいを諦めるのではなく、「どうすれば続けられるか」を一緒に考えます。

インタビュー内容をもとに作成:原田先生監修

若いがん患者さんには後々後悔しないようにアドバイス

立花さん:若い世代の患者さんの多くは、恋愛・結婚や妊娠・出産、将来の人生設計など、治療・仕事・お金以外の悩みを抱えています。特に外見の変化や「将来、子どもを持ちたい」という希望などは、実現可能かどうかを含め話し合います。例えば、抗がん剤で髪の毛が抜けることを気にしている患者さんには、単にウイッグがあることを伝えるだけではなく、「ウイッグを着けたときにどうすれば自然に見えるか」「おしゃれに見えるか」などの情報をできる限り集め、お話ししています。

長谷川さん:小さなお子さんがいる患者さんも多く、「子どもにどう伝えたらいいのか」「どこまで話せばいいのか」と悩まれる方も少なくありません。お子さんの年齢に応じた対応をアドバイスすることが多いですね。患者さんが「あのときの選択が間違っていなかった」と思えるようにしたいと思っています。

原田先生:場合によっては、お子さんへ渡すビデオレターや手紙づくりを、看護師ができる範囲でお手伝いすることもあります。

立花さん:ご家族への支援も大切で、「私が代わってあげられたらいいのに」と、患者さんのために無理をする方も少なくありません。だからこそ「しっかり寝てくださいね」「ごはんをちゃんと食べましょう」「ご自身の時間も大切に、気分転換してください」とお伝えしています。
また、今はインターネットやAIで多くの情報が得られますが、その情報がご家族の不安を助長する面も否定できません。そのような場合は、得ている情報を一緒に振り返り、今の状況を整理して落ち着いていただけるようにしています。

相談がなくてもがん相談支援センターを訪れて

患者さんが相談しやすい環境をつくるため、
頻繁に意見交換を行っています。

立花さん:「どのタイミングでがん相談支援センターに行けばいいの?」と迷われるかもしれませんが、いつ訪れていただいても大丈夫です。がんの診断がついていない検査中のタイミングでも、お話を伺えます。いつでも相談に来ていただければと思います。

原田先生:何を相談して良いかわからなくても、考えがまとまっていなくても大丈夫です。話しながら、問題点や解決法がはっきりすることもあります。

立花さん:「今日は検査がある。採血の結果、どうなんだろう。ドキドキする」などと言いに来てくださるだけでも構いません。

長谷川さん:「今日は、受診のついでに寄ってみました」といった感じで気軽に立ち寄っていただける場所になれたら嬉しいですね。ふらっと立ち寄れる、カフェのような空間が私たちの目指すところです。「元気に過ごしている」と報告をしに来てくださるだけでも、私たちはとても嬉しいです。

がん相談支援センターを患者さんが「いつでもホッと一息つける場所」に

岡山赤十字病院副院長
別所 昭宏 先生

がんと診断された患者さんやご家族が抱える悩みは、治療のことだけにとどまりません。仕事、お金、生活、家族への伝え方……それらが複雑に絡み合い、何から手をつければよいかわからなくなることも多いものです。

当院のがん相談支援センターは、そうした患者さんの「困りごと」に、看護師やMSWが多職種で連携しながら寄り添う場所です。2026年4月からは事業者による治療と仕事の両立支援が努力義務化されたことを受け、当院でも多職種で構成された両立支援チームを立ち上げ、“びっくり離職”の防止をはじめ、さらに充実した支援体制の構築を目指しています。

大切なのは、ひとりで抱え込まないことです。「何を相談すればいいかわからない」という状態でも、話しながら問題が整理されることは少なくありません。ふらっと立ち寄るだけでも構いません。当センターは、患者さんやご家族がいつでも安心して訪れ、心安らぐ「ほっと一息つける場所」としてあり続けることを目指しています。

1) 厚生労働省:治療と就業の両立支援指針(概要). 令和8年2月版.別ウィンドウで開きます。pdfで開きます[2026年7月13日閲覧]

制作:中外製薬株式会社
作成月:2026年9月