がんになってもひとりじゃない! 人と人とのつながりを大切に、ともに考える場。
~日立総合病院 がん相談支援センター~
「がんかもしれない」とわかったときから、診断、治療、その後の社会生活まで、さまざまな不安や悩みに直面するかもしれません。そんなとき、患者さんやご家族が頼れる場はいくつも存在します。
今回は、日立総合病院がん相談支援センターを取材しました。実際の事例を伺いながら、がん患者さんが心配ごと・困りごとを相談するメリット、がんに関して何でも相談できる場の役割、がんを経験した患者さん同士の支え合いなど、病院が患者さんやその周囲の方を実際にどう支援しているのかを伺いました。(2025年9月取材)
左から、永山 千明 さん(医療サポートセンター 社会福祉相談室・ソーシャルワーカー)、伊藤 吾子 先生(副院長 兼 乳腺甲状腺外科 主任医長)、天池 真寿美 さん(地域がんセンター がん相談支援室 室長・ソーシャルワーカー)
不安の解消はもちろん、先々の見通しを伝える役目も担うがん相談支援センター
伊藤先生:当院は、茨城県北部における唯一のがん診療連携拠点病院です。県全体の約12%超の患者さんを当院で診ており、幅広いがん種に対応しています。
がん相談支援センターはがんに関する「よろず相談の場」と形容できます。
天池さん:がん相談支援センターは、がんに関する不安や悩みをご相談いただける場です。当院の患者さんでなくても構いませんし、言葉にできない心の“モヤモヤ”を抱えたままでも大丈夫です。スタッフがお気持ちを伺い、心配ごと・困りごとを整理していきます。
私たちは国立がん研究センターのがん相談員研修を修了した専門スタッフです。目の前の問題への対応はもちろん、本人の真の困りごとや先々に起こり得る問題も想起しながら、相談に応じています(図1)。
当センターを利用する方の特徴ですが、若い方は治療内容やお金のこと・アピアランスケア・仕事の相談が多く、高齢の方は介護や在宅医療、家族関係の相談が多い印象です。
図1(診断直後を例に)がん相談支援センターでの相談の流れ
天池さん:治療の段階が変わると新たな悩みが生まれることも多く、一度相談した方が、別の問題を抱えて再びいらっしゃることもよくあります。
伊藤先生:誰もがひとりで問題を解決できるわけではありません。気持ちや考えが整理できないときは、病気や治療の専門職(医師・看護師・薬剤師など)とは異なる視点で患者さんに寄り添える生活支援の専門家(ソーシャルワーカーなど)とつながることで、解決の糸口が見つかるかもしれません。
不安の解消はもちろん 患者さんの人生に寄り添う継続的なサポート
印象に残っている相談事例はありますか。
永山さん:治療方針の決定から在宅での生活まで、段階的に信頼関係を築きながら患者さんの人生に寄り添わせていただき、多少なりともお力になれたのではないかと実感したケースです(図2)。このような支援の形もありますので、参考にしていただければ幸いです。
図2相談事例:独身がん患者・Aさんのケース
天池さん:具体的な相談のタイミングとして多いのは、がん告知後と再発したときです。インターネットの情報に振り回され、「今の治療でよいのか?」「これからどうなるのか?」と不安を抱えて来室する方が増えています。私たちも医学的な話を理解するため、勉強を欠かさないようにしていますが、専門的な相談の場合は適切な医療専門職におつなぎします。
「がんに罹患したことを周囲にどう伝えるか」という悩みも多く寄せられます。職場の同僚にカミングアウトするのは勇気のいることですし、教師や保育士の方からは「子どもたちへの影響が心配で言い出せない」と相談されることもあります。がん相談支援センターは匿名でも利用できる、“安全地帯”ですから、心おきなくお話しに来てください。ときには思いの丈を話し、涙をこぼすだけの時間があってもいいと思います。
がん相談支援センターを知っていただくための活動
天池さん:病院で相談ができる体制を整えていても、患者さん等にがん相談支援センターの存在そのものを知っていただけなければ、相談にはつながりません。
当院では、がん相談支援センターの周知とともに、患者さんが相談しやすい環境づくりに力を入れています。
患者さんから「掲示板のチラシを見ていると、周りに『あの人、がんなのかな』と思われているのではと不安になる」というご意見をいただき、人目を気にせずに見られる外来トイレの個室にミニポスター(図3)を掲示しました。すぐに相談につながるわけではありませんが、スマートフォンで写真を撮りお守り代わりに持っている方が多いと聞いています。
図3日立総合病院 がん相談支援センターの案内(ミニポスター)
さらに、化学療法センターでは、患者さんが困っていることを気軽に相談できるよう相談用紙を設置しています。相談希望者は用紙を化学療法センターのがん相談専用ボックスに入れていただき、受け取ったがん相談員が患者さんへ連絡し、面談の予約をとります。面談は化学療法センターの個室を利用し、抗がん剤投与中にお話を伺いますので、患者さんにとっては時間の有効活用になり大変好評です。
3職種が連携する就労支援 「びっくり離職」を防ぐために
治療と仕事の両立に悩む患者さんへの支援について教えてください。
天池さん:当相談支援センターの就労支援事業は、社会保険労務士、ハローワーク職員、がん相談員(ソーシャルワーカー)の3職種が一緒に相談に応じています。別事業として開催している病院が多いようですが、1回で解決に結びつけられるので、このスタイルを継続しています。
永山さん:それぞれの専門性を活かした支援ができます。社労士は労務に関する法律・制度の専門家で書類作成や手続きについて詳しく相談に乗ることができますし、ハローワーク職員は、患者さんの病状などを踏まえて、具体的な仕事探しのアドバイスを行うことができます。私たちソーシャルワーカーは、患者さんの体調や治療経過を詳しく把握しているため、それらの情報を他の専門職とも共有し議論することで、今後の見通しを踏まえた実践的な提案につなげます。
天池さん:がん相談員が全体のコーディネート役を担い、希望職種や働き方、治療と仕事の両立の意向、職場の人間関係の悩み、保険年金制度など、幅広くお聞きし、助言しています。
永山さん:「がんによる体調の変化について理解できた」「仕事で注意しなければならないことが明確になった」など、治療しながら仕事を継続することについて具体的なイメージを持てる機会になります。仕事のこともぜひ病院で相談してください。
天池さん:治療と仕事の両立については、厚生労働省からガイドライン1)も発行されており、病院と職場が情報を共有し支援をおこなっています。私たちは両立支援コーディネーターとして、患者さんが治療と仕事を両立できるように、職場への伝え方や配慮事項を一緒に考えます。そのうえで主治医と「主治医意見書」の内容について協議することもあります。
伊藤先生:診断がついて、「治療が始まるので仕事は辞めます」とすぐに決断してしまうことが一番良くないと思っています。乳がんの場合、治療が長くかかり、それだけお金もかかるので、診断がついたときに「慌てて辞めないで」というのは伝えています。
まずは休職してゆっくり考えればよいですし、復職を考えたときに病院でも治療と仕事を両立するための支援を行っているので、主治医の立場から、患者さんが職場に必要な配慮をお願いしやすいよう意見書を書くこともできます。がんの治療にはお金がかかるので、経済的な基盤の重要性を冷静に考えたほうがよいでしょう。
患者さん同士が支え合う 患者会やピアサポート
日立総合病院で定期的に催されるピアサポート
天池さん:病院にはがんを経験した方たちが支え合う仕組みもあります。「患者会」と「ピアサポート事業」の違いですが、「患者会」は同じがん種の患者さん同士が集まり、情報や悩みを共有してコミュニケーションを図る場です。同じ病気という一体感が孤独をやわらげ、仲間づくりにつながっています。
「ピアサポート」の「ピア」は「仲間・同じ」という意味で、患者会と同じようにがん経験者同士の支え合いですが、がん種は問いません。茨城県の「ピアサポータ―2)」は、県が主催する養成研修修了者2名が、「がんの仲間として」個室でゆっくりお話を伺います。まだ患者会やがんサロンのような大人数の中には入れないという方にお勧めです。
伊藤先生:患者会やピアサポートも、患者さんを支える重要な場だと感じています。当院でも患者さんのご要望を受けて、周辺地域での乳がん患者会「おしゃべり会」が設立されていますが、その後押しもしました。現在も患者会の活動は院外で自主的に続いています。
天池さん:当センターのピアサポート事業は、茨城県で初、全国でも2番目に始まり歴史があります。
ピアサポーターと話した多くの方が、誰にも言えなかった胸のつかえがとれるのか、「がんになってから、こんなに笑ったのは久しぶり」と表情が明るくなるのが印象的です。
永山さん:患者さんの困りごとを伺うなかで「ピアサポーターとの対話が解決につながりそう」と考え、ピアサポートをご紹介することが多いですね。
伊藤先生:不安が強くて頻繁に病院にお電話くださっていた方が、ピアサポートや患者会の支援を受けて安心されたのか、電話の回数が減ることがあります。私たち医療専門職とは異なるアプローチで、患者さんのこころを和らげているのだと思います。
天池さん:ピアサポートを受けた方が、後にピアサポーターになるという好循環も生まれています。
伊藤先生:患者会は大勢の方が集まりますから、同じ境遇の仲間がほしい場合に向いています。不安や混乱した気持ちを整理したいときや、“横並び”でじっくり話を聞いてほしいときには、ピアサポートを利用してみてはいかがでしょうか。
「生きる力は人とのつながり」がんになっても、ひとりじゃない
読者へのメッセージをお願いします
永山さん:がんに罹患した後、不安なときは考えがまとまらない・気持ちの整理がつかないことがあります。ご家族にも話しづらいこともあると思います。そういったとき、気軽に話を聞いてくれる場として、がん相談支援センターを頼ってください。ピアサポーターも、あなたの味方です。
天池さん:当院のピアサポート事業の発展に尽力したピアサポーターが「生きる力は人とのつながり」とおっしゃり、その精神は今も息づいています。ピアサポートや患者会のような精神的な支えはもちろんですが、自身が悩んだ経験を形にして支えようとする方たちもいます。その一部が手編みの乳房補正具、手作りのおしゃれなターバン帽子、リンパマッサージセルフケアシートです(図4)。
がんを経験した先輩たちの存在は大きな支えになります。がんになってもひとりではありません。
人と人とのつながりが生きる力になり、解決方法の糸口が見つかるかもしれません。医療者に話しにくいことがあれば、患者さん同士の交流の場をぜひ活用してください。
図4がん体験者(ピアサポーター)の方々が、制作したアピアランス・グッズ
悩みは、ひとりで抱えずに話してほしい
伊藤 吾子 先生
「悩みがあるなら、ひとりで抱え込まずに人に話したほうがよい」と私は思います。話すほうがサポートを得やすくなり、隠そうとすると孤独感が強まることが多いからです。もし、あなたの身近にがんのことを話せる人がいないのであれば、がん相談支援センターやピアサポート、患者会を利用してみてください。その場に行ってとりとめのない話をするだけでも、気持ちが晴れる方もいます。
医師は、患者さんの病気や治療を第一優先に考えているので、みなさんが抱える漠然とした不安、生活面の困りごと、各種支援制度の説明など、そのすべてを過不足なく支援することは難しいこともあるかもしれません。主治医に話にくいこと、聞くことを遠慮してしまうようなことがあれば、がん相談支援センターの出番です。がん相談支援センターは、私たち医師にとっても患者さんを支えてくれるありがたい存在です。
1) 厚生労働省:事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン. 令和6年(2024年)3月版.[2025年10月30日閲覧]
2) 茨城県:ピアサポート相談 ピアサポーター養成研修会のご案内.[2025年10月30日閲覧]
2025年12月公開