がんと診断される前から、気軽に立ち寄って!~土浦協同病院 がん相談支援センター
今回は、土浦協同病院にある「がん相談支援センター」で活躍されている5名のスタッフに、お話を伺いました。(2024年7月取材)
土浦協同病院の特徴
茨城県南東地域の中核病院として800床を有し、がん診療をはじめ周産期医療、救急医療などを提供しています。当院は国指定の「地域がん診療連携拠点病院」「がんゲノム医療連携病院」と県指定の「地域がんセンター」の3つの役割を担っています。がんセンター窓口には、がん相談支援センター、がんゲノムセンター、緩和ケアセンターの3つが集約されています。
磯﨑 美穂 さん(社会福祉士 左下)
釜﨑 久美子 さん(緩和ケア認定看護師 右端)
鶴田 晴美 さん(がん薬物療法看護認定看護師 右下)
がん相談支援センターはがんに関するどんな相談にも無料で対応してもらえる“良いところ”
釜﨑さん:がん相談支援センターはこんな場所です(図1)。
磯﨑さん:がんの症状や治療に関することはもちろん、私たち社会福祉士が専門とする、生活全般に関することもご相談いただけます。例えば、働く世代の方では仕事に関すること(仕事を辞めなければならないのか、など)、生活費や治療費に関すること(治療費が高すぎて払えるか不安、など)の相談に乗っています。
鶴田さん:私は複数の部署で業務に携わっており、一般的な治療経過をたどるなかでも、悩みが変化することを実感しています。
木川田さん:私の専門は緩和ケアです。実は、診断時からの緩和ケアが重要だとされていますが、一般の方々にはあまり知られていません。がん相談支援センターも同様に診断時からの相談が大切だと思います。心身面や経済面でつらいと感じている多くの患者さんが、相談したくてもどこに相談してよいかわからずにいます。患者さんにがん相談支援センターの存在を知っていただき、早めに利用してもらいたいと思います。がん相談支援センターで、緩和ケアのことも話せます。
鶴田さん:患者さんには「がん相談支援センターに行けば、いろいろな情報がもらえるし、みなさんの話にじっくりと耳を傾けてもらえる。きっと良いことがありますよ」とおすすめしています。
緩和ケアとは・・・がんに伴う心と体のつらさを和らげること。がんが進行してから始めるものではなく、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。1)
がん相談支援センターでは、相談内容に沿った専門家が対応してくれます
患者さんの相談に応える様子
鶴田さん:がん患者さんの悩みはそれぞれ異なります。それぞれに合ったより良い解決策に導くためには、腰を据えて相談に乗り、具体的な解決策を見出す必要があります。
釜﨑さん:一度がん相談支援センターに相談していただければ、その内容に応じた専門知識をもつ認定看護師、社会福祉士が、時間をかけて対応します。
鶴田さん:専門的な治療や緩和ケアなどに関することも、化学療法センターや緩和ケアセンターと連携しながら、がん相談支援センターで話を伺います。
釜﨑さん:食事についても相談に乗ります。おすすめの栄養補助食品もアドバイスしていますね。
あなたの通院している病院にも案内がでているかも。相談窓口を探してみませんか?
稲垣先生:まずはがん相談支援センターの存在を知ってもらうために、がんに関係する診療科の外来ブースには、がん相談支援センターへの案内図を掲示しています。院内の正面玄関や交流広場にあるデジタルサイネージ(情報を表示したディスプレイ、電子掲示板)でも紹介しています。もちろん、私からも「がん相談支援センターへの立ち寄り」を患者さんや家族にすすめています。
釜﨑さん:そのほかにも、チラシを多くの場所に置いたり、ロゴマークを作成したりして、より多くの患者さんにいろいろな場所で目にしていただけるように工夫しています(図2)。
磯﨑さん:実際に、がん相談支援センターでの相談件数は、月70件程度に増えました。がん相談支援センターを訪れたきっかけでは、人(医師・看護師・知人)からの紹介が最も多く、次いで院内掲示、インターネット、チラシなどが訪問理由になっていました。まずはがん相談支援センターの存在を知ってもらうことが、利用にもつながっていると実感しています。
がん相談支援センターにはいつ行けばよいでしょうか?どんな相談ができますか?
磯﨑さん:相談のタイミングや内容については、患者さんによってさまざまですので、どんなことでも、ご自身のタイミングでご相談に来ていただけたらと思います(図3)。
当院でのご相談が多い事例を、相談に来られた時期でまとめてみました。
釜﨑さん:図4の相談内容にあるように、何らかの不安や精神的なつらさを感じると相談に訪れる方が多い印象です。治療関係では副作用や、ご自身の身体にどのようなことが起きているかを聞きに来る方も多いです。
また、高額療養費制度や障害年金といった経済面のお悩みも多いです。当院には農家(自営業)の患者さんも数多くいますが、年ごとに収入が大きく増減することで支払額が一時的に高くなることもあるので、情報を提供しながら相談に対応しています。
患者さんご本人だけではなく、ご家族、知人からのご相談も少なくないですね。
また、どんな相談をしたらいいか分からない状況で、誰かに不安な気持ちを聞いてほしいだけという方もいらっしゃいます。
鶴田さん:相談した後に「私、これに困っていたんだ」と気づく方もいますね。
磯﨑さん:心の中にある、モヤモヤの正体を明らかにするお手伝いもできるので、具体的な「これを相談したい!」が無くても足を運んでみてほしいです。
早くから相談することでお手伝いできることが増えます。まずはがん相談支援センターを知り、立ち寄って!
木川田さん:私の経験からは、がん相談支援センターならびに緩和ケアを早期から活用してもらいたいと思います。がんと診断されて初めて相談に来られた方がいて、それから現在まで、病院での検査の前後に、いつも私に声をかけてくださる方がいます。付き合いが長い分、その方の人生に寄り添えている感じがします。早期から相談いただくことは、患者さんにとっても、医療スタッフと信頼関係をつくることができるというメリットがあると思います。
鶴田さん:理想は、がんの治療が始まる前から、がん相談支援センターに来て相談してもらうことです。ただ、ご本人の状況や気持ちなどもあるので、全員が行動に移せるわけではありません。ですので、「困ったことや疑問が生まれたときに、いつでもいらしてください」とお伝えしたいです。
患者さんやご家族にとって、最大のデメリットは「知らない」ことです。がんに関すること、困りごとの解決策を知るために、がん相談支援センターを活用してほしいですね。
稲垣先生:早くからの相談も非常に大事ですが、がんの治療は長く続くようになってきています。がんの疑いが分かったときや診断されたときだけではなく、治療が続いていくなかで、何か不安や疑問を感じたとき、主治医に十分話せなかったときなどに気軽にがん相談支援センターに立ち寄っていただきたいです。
磯﨑さん:何よりもまず、がん相談支援センターを「知らない」と患者さんやご家族などは訪れることもできません。いち早く知っていただくタイミングとしては、診断前後でしょうか。その時点で、相談に立ち寄っていただけるとうれしいですね。
相談内容は、その人の生き方から最新の医療までさまざま。私たち医療者も日々学び、次に生かしています
釜﨑さん:最近では、患者さんとご家族などを支えるため「どう生きたいか」、「何を大切にしているのか」といったことを一緒に、お話しすることが増えました。厚生労働省がすすめている「アドバンス・ケア・プランニング(ACP;人生会議)」につながることですが2)、患者さん・ご家族などに「繰り返しお話しできるといいね」と伝えると、何度も足を運んでくださることもあります。
磯﨑さん:がん相談支援センターで早くから関わりを持ち、長く相談を受けていると、患者さんの生活、人生に対する覚悟をはじめ、ご家族の思いや考え方を深く知ることができます。学ばせていただくことも多いですね。
木川田さん:磯﨑さんの話を聞いて、化学療法での副作用を抱えていて、緩和ケア病棟のことを知りたいと相談に来られた方を思い出しました。治療を中止するとどうなるのか、といった先々のことまで思いを巡らしている方で、「誰か一緒に考えてほしい」という要望が患者さんにあることを教えていただきました。相談に応えながらも、日々学んでいます。
鶴田さん:最近は、ネットやSNSで病気の情報を得たあとで相談に訪れる方も多いですね。遺伝子やゲノム、免疫といった言葉を相談者から伺う機会が増えました。そのような相談に対し、最新かつ正確な情報で応えられるよう、また患者さんの意思決定に影響を及ぼすことも意識して、私たち相談員も常に学ぶ姿勢を持ち続けたいと思っています。
磯﨑さん:患者さんの気持ちを汲みながら、正しい情報をお伝えしていくことを意識しています。
釜﨑さん:私が知らないことは相談員のメンバーと協力・連携して、正しい情報を患者さん・ご家族などに提供するよう心掛けています。
また、当院で診療を受けていない方は、電話相談が便利です。他院に入院されている方のご家族から相談を受けたときは、「顔を合わせていないけど、何でも言える」と感謝の言葉をいただきました。
読者の皆様へのメッセージ
釜﨑さん:悩みに大きい小さいはなく、誰でも不安や気がかりがあるのは当然です。まだ自分では気づいていないことがあるかもしれないので、何かモヤモヤすることがあるな、という状態でも、本当に気軽にがん相談支援センターにお越しください。
磯﨑さん:患者さんの「どう生きたいか」に寄り添い、一緒に考えていきます。知識が必要でしたらその知識をお伝えしますし、ただお話をする、自分の気持ちを言葉にして次に進むお手伝いもできます。形になっていない気持ちのままで来ていただけたらなと思います。
木川田さん:がんと分かったとき、頭が真っ白になり、悲しみや怒りの感情が湧く方もいます。ただ、そのような感情になるのは当たり前のことだとお伝えすることで安心され、治療に向き合ったり、乗り越えたりすることができます。治療を続けていく長い時間の中で、いろんな感情や悩みが出てくると思いますが、何度も私たちにご相談ください。力になりたいと思います。
鶴田さん:何か疑問が生じたら、ぜひ早めに立ち寄っていただきたいですね。ロゴマークに込めた思い(図2)と重なりますが、私たちは窓を開けてお待ちしております。
稲垣先生:主治医に対して、「あれこれ聞いてよいのだろうか」と遠慮して十分に話ができない経験をされた方もいるかもしれません。そういう内容をがん相談支援センターに行って話してみてください。疑問が解消することで、がんの治療にもプラスになることがあると思いますので、ぜひ利用してください。
まずは、がん相談支援センターに相談を
がんかもしれない患者さんが最初に訪れるのは、各診療科の外来です。ただ、時間の限られる外来診療では、医師に聞けないこと、言えないこともあると思います。症状や治療費、仕事のこと、食事面など悩みのある方は、じっくりと相談のできる、がん相談支援センターに立ち寄っていただければと思います。
当院のがんセンターは「患者さんを希望ある未来へとつなぐ架け橋」というイメージのロゴマークを制作しました。そして、患者さんががん相談支援センターを見つけやすく気軽に寄れるよう、外来からほど近くに窓口を設けました。緩和ケアやゲノム医療などの相談もできます。
がんの診断前であっても、早期から私たちをよりどころにしていただければと思います。何度、相談に来ていただいてもかまいませんので、わからないこと、不安なことがあれば、いつでもがん相談支援センターをご利用ください。
1)がん情報サービス. 診断と治療 緩和ケア. https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/relaxation/index.html [2024年7月27日閲覧]
2)厚生労働省. 人生会議 アドバンス・ケア・プランニング(ACP). https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/001177984.pdf [2024年7月27日閲覧]
2024年9月公開