がん治療による外見変化のケアに取り組む~青森県立中央病院 がん相談支援センター

がん治療による脱毛、皮膚や爪の症状など、外見変化に関する悩みを誰に相談したらよいかと悩んでいる方はいませんか。今回は、がん治療による外見変化のケアに取り組む青森県立中央病院のがん相談支援センターの坂本周子看護師、上席看護専門官の髙田美香看護師、乳腺外科外来の佐藤久美看護師、乳腺外科部長の橋本直樹医師にお話を伺いました。(2023年9月取材)

左:がん相談支援センター前(坂本周子看護師)、右:がん相談支援センターの相談員の皆さん

がん相談支援センターってどんなところ?

青森県立中央病院のがん相談支援センターの特徴を教えてください。

図1 担当者カード

担当者カード表
担当者カード裏
提供:青森県立中央病院 坂本周子看護師

坂本看護師:がん相談支援センターは、がんになる前のがん検診や予防について、がんになってしまってからの治療、療養についてなど、なんでも相談ができる場所です。がん患者さんとそのご家族、当院に通院されていない地域の方など誰でも無料で相談ができます。私たちはこのがん相談支援センターを全てのがん患者さんが相談に来られる場所にすることを目指して運営に取り組んでいます。

例えば、AYA(Adolescent and Young Adult)世代とよばれる15歳~39歳の患者さんは、「初対面の人には話しづらい」、「どんな人と話をするのかわからない」、「がん相談支援センターの存在を知らない」などの理由により、相談に来られる方が少ないです。そのため、2023年1月から独自の取り組みとして、これからがん治療を始めるAYA世代の患者さんに「担当者カード(図1)」を渡しています。半年間で46名のAYA世代患者さんにカードを渡し、28名(約6割)の方ががん相談を利用していました。担当者カードを渡す前には、AYA世代の相談件数が年間20件未満だったので、直接周知することで相談を利用される方が増えています。

また、同年6月からは入院予定の約半数の患者さんに対して、がん相談支援センターについて伝え始めたところ、相談件数は1.5倍に増えました。多くの方に相談に来てもらうためには、がん相談支援センターの存在を知ってもらうことが大切だと感じています。

どのような人が相談に来られるのでしょうか?

坂本看護師:がん相談に来る方の比率は、女性が6割、男性が4割です。外見変化の内容での相談だけだと、女性9割、男性1割の比率となっています。また、約2割の患者さんは当院に通院されていない方や県外の方です。男性も外見の悩みはあると思いますので、1人で抱え込まず、相談に来ていただければと思います。

髙田看護師:外見変化の悩みについては性別や年齢に関係なくさまざまな内容で相談に来られます。また、相談の内容は地域性も影響するかもしれません。隣人の方と普段は家族のように接していても、外見が変わってしまい、自分の病気のことを聞かれることが嫌だという方もいらっしゃいました。外見に対する認識と外見変化の受け止め方には、こうした地域性も影響しているためか個人差があるので、いろいろな患者さんが相談に来られるのかなと思います。

左:坂本周子看護師、右:髙田美香看護師

外見変化のお悩みに対して、様々な医療スタッフが連携してサポートをしているので気軽に誰にでもご相談を

外見変化の悩みについて、どのような内容の相談が多いのでしょうか?

坂本看護師:がん治療による外見変化の悩みに関しては、脱毛、皮膚や爪の症状などの相談が多いです。また、治療費に関する経済的な問題を抱えられる方も多く、治療と仕事をどう両立していきたいのかを話されることもあります。漠然とした状況で相談に来られる方には、会話の中で困りごとを聞き取り、悩みを整理することから始めています。その他にも、医療用ウィッグや乳がん手術後の医療用補正具などの助成制度がある自治体にお住まいの患者さんには、制度についてお伝えしたりもしています。

相談することで、どのような支援が受けられますか?

坂本看護師:外見ケアに関する基本的なところは、患者さんからの相談を受けて、以下のような情報をお伝えしています。

  • 帽子やウィッグの準備方法
  • 脱毛が始まる時期や期間、再び発毛する時期
  • 脱毛時のシャンプー方法
  • 抜けた髪の毛の片づけ方
  • 白髪染めをしたい場合の開始時期
  • 行きつけの美容院について(髪の毛が生えてきたときにどこで切るかを考え、必要に応じて院内の美容室を紹介したりします)
  • 眉毛の描き方
  • 紫外線対策(日焼け止めの選び方や、日焼け止めと保湿剤の塗る順番を説明します)
  • 爪の切り方、爪の保湿方法

など

相談の様子

橋本医師:私は医師として治療のことをメインに患者さんに説明しており、診察室で患者さんから外見変化の悩みについて相談を受けた場合は、その場で解決することもあります。治療の途中で脱毛してきたけれど髪の毛を染めてよいのか、パーマをかけてよいのか、化学療法終了後に髪の毛が生えてこないなど、イレギュラーな質問を患者さんから受けた場合は、がん相談支援センターなどの信頼する専門スタッフにお願いしています。がん相談支援センターでは、がん治療による外見変化の悩みへのケアとして「アピアランス相談」を行っているので、がん治療によって外見が変化する可能性がある患者さんで、詳しい情報が知りたい、外見変化に関して相談したいという方にはがん相談支援センターを利用してもらっています。

患者さんがウィッグをつけて来院されたときは「似合っていますね」と声をかけています。私の診療は3~4週間に一度なのですが、その間気がつかないうちにウィッグをつけ始める患者さんもいらっしゃいます。治療の影響で脱毛した後でもいつも通りに来院する患者さんを見かけると、がん相談支援センターでは患者さんのケアをしっかりとやってもらえているなと感じます。

佐藤看護師:がん相談支援センターでの対応前に、乳腺外科外来では治療開始後に想定される副作用について説明しています。そして患者さんに、家族構成や家で担当している家事、仕事の内容、病院への交通手段などを聞きます。そこから治療後に「こういう副作用が起こると何に困るだろう」と一緒に考えて想像してもらったうえで、治療に取り組んでもらっています。そのため、治療後は副作用が思ったよりもつらかったと感じる方もいますが、想定の範囲内だったと感じる方もいらっしゃるようです。個人差はありますが、治療開始前から患者さん自身が副作用について理解することで、治療後の気持ちの落ち込みは変わると思います。このように患者さんとお話をして、アピアランス相談に行かれるきっかけになっています。

左:橋本直樹医師、右:佐藤久美看護師

「アピアランス相談」について、具体的に教えてください。

髙田看護師:当院のアピアランス相談では、脱毛、抗がん剤治療による皮膚や爪の色の変化など外見の変化に対し、ウィッグやスキンケア、ネイルケアなどの方法をご説明し、その方に合ったセルフケア方法のアドバイスを行っています。男女問わずお申し込みが可能で、無料でご参加いただけます。2013年の開始当初は「アピアランスケア教室」として患者さん3、4人が実際にウィッグを装着したり、患者さん同士で会話をしたりする場であり、1週間に2回実施していました。現在はコロナ対策のため個室での個別対応になり、がん相談支援センターで相談員が「アピアランス相談」をお受けしています。アピアランス教室を行っていた看護師は、サポーティブケアチームとして治療開始前にアピアランスに関するお話を伺い、対応しています。治療開始前の一度だけではなく、実際に抗がん剤治療が始まり、副作用が出てきたときに改めて参加される方もおり、脱毛する可能性がある薬を使用する患者さんには副作用について説明しています。

外見変化のケア方法を教えてくれるだけではなく、患者さんの気持ちや立場に寄り添ってくれる

相談をされた方の感想や、印象に残っているお話を聞かせてください。

坂本看護師:治療前から脱毛の相談に来られた自営業をしている男性患者さんが印象に残っています。この患者さんは、治療前と同じ髪型のウィッグを作りたいのでオーダーメイドできる情報を教えて欲しい、と相談に来られました。オーダーメイドで作りたい理由を伺うと、自分の会社の社員には病気のことを伝えられるが、仕事の取引先の人には知られたくなく、脱毛したことを取引先の人に知られると、「会社の社長ががんになって、あの会社はもう駄目なのでは」と思われるとお話しをされていました。この方には、脱毛は治療開始後約2~3週間で始まり、オーダーメイドでウィッグを作るには約1カ月かかることを伝えました。すると入院中の患者さんはすぐにウィッグ会社に電話し、治療前と同じ髪型のウィッグを作って退院されました。この患者さんは自分のためではなく、会社の社員のことを思い、ウィッグをつける選択をしたことがとても印象的でした。脱毛の期間はウィッグを使用して仕事に取り組めたそうで、ウィッグは今でもご自宅に飾っているそうです。

髙田看護師:私が印象に残っている患者さんは、中学生の娘さんがいる女性の方です。この方は娘さんから学校に来ないでほしいと言われ、脱毛を隠すために安くて簡単に買えるウィッグを購入しました。しかし、娘さんからは前のお母さんとは違うと言われてしまったようで、外見変化への対応だけでなく娘さんとの関係についてもどうしたらよいのかと話されていました。私はウィッグをオーダーメイドで作れる美容院があるので、娘さんと一緒に行かれてみては、と伝えました。すると、患者さんは娘さんと一緒に美容院に行き、その道中も娘さんと久しぶりに話せて、一緒にウィッグを選ぶことができてよかったと言っていました。ウィッグを買うまでの過程で娘さんとのかかわりが改善できたことがよかったと思います。

佐藤看護師:脱毛するという見た目の変化に対して落ち込んでしまい、なかなか前向きになれない患者さんもいるかと思います。髙田看護師が言っていたように、娘さんと一緒におしゃれをする気持ちで外見変化への対応をポジティブにとらえる患者さんもいます。そのような方がいらっしゃることを、他の方にも伝えるようにしています。

取材をもとに作成

見た目が変わっても自分らしく過ごせるように

患者さんへのメッセージをお願いします。

橋本医師:患者さんの中には、悩みを我慢して抱えすぎていて、耐えられなくなってから相談に来る方がいらっしゃいます。私たちは患者さんの悩みに早めに対応したいと思っているので、小さな悩みでもためらわずご相談ください。

佐藤看護師:インターネットやSNSで情報を知りすぎて落ち込んでしまう患者さんがいらっしゃいます。正しい情報を知るためには、ぜひ私たち医療者に相談してください。

髙田看護師:私たちはどの診療科の患者さんの相談も聞いていますので、年齢や性別を問わず、気軽に相談に来てほしいです。

坂本看護師:橋本医師も言っていたように自分で何とかしようとして、どうにもならなくなり切羽詰まってからお越しになる患者さんもいます。「相談」という言葉自体にハードルの高さを感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、一度話をすると、次に困ったときにまた相談してみようかなと思っている方が多くいらっしゃいます。私たちは患者さんががんになってもできるだけ困らずに生活していけるようサポートしているので、誰に聞いたらいいのかなと思う質問がある段階で、ぜひがん相談支援センターに来てください。

誰でも気軽に相談できるがん相談支援センターを目指して

青森県立中央病院 副院長 がん診療センター長 腫瘍内科部長
棟方 正樹先生

誰でもどんな内容でも利用できるがん相談支援センターですが、そのことを知らない方がまだ多く、また、初めて会う人に悩みを話しにくいと感じ、相談できずに困っている方もいます。しかし、実際に利用した方の多くは、満足され、「もっと早く知りたかった」という感想をお持ちになります。

当院ではより多くの方にがん相談支援センターを知ってもらえるよう、担当者カードを配布し、入院予定の患者さん全員にお知らせしています。さらに、がん分野の認定看護師をはじめ、医師・薬剤師・管理栄養士・医療ソーシャルワーカーなどと多職種チーム(サポーティブケアチーム)で、外見変化のケアのこと、お金のこと、仕事のことなど、様々な相談に対応できる体制を整えました。

同じがんで同じ治療を行っていても、悩みごとや困りごとは一人ひとり異なります。わからないことや困ったことがあれば、自分だけで抱え込む前に、気軽にがん相談支援センターに足を運んで欲しいと思います。

2023年12月公開