AYA世代のがん患者さんにワンストップで情報提供~聖路加国際病院 相談支援センター

AYA(Adolescent and Young Adult)世代は中学生から社会人、子育て世代とライフステージが大きく変化する年代であり、AYA世代のがん患者さんの相談支援においても世代特有の悩みに応じた支援が必要となります。そこで今回は聖路加国際病院 相談支援センター相談員の橋本久美子さん、中村希さん、立花夏子さん、腫瘍内科の北野敦子先生に、生殖機能の維持を希望する患者さんへの支援を中心にお話を伺いました。

  • 聖路加国際病院
    相談支援センター相談員
    橋本 久美子さん
  • 聖路加国際病院
    相談支援センター相談員
    中村 希さん
  • 聖路加国際病院
    相談支援センター相談員
    立花 夏子さん
  • 聖路加国際病院
    腫瘍内科
    北野 敦子先生

がん以外の相談も含め早期から支援に関わる。若い世代が相談しやすい環境づくりも

聖路加国際病院の相談支援センターの特徴を教えてください。

聖路加国際病院 相談支援センター外観

橋本さん:当院は、都心にある小児科やNICU、産科、緩和ケアの病棟をもつ高度急性期医療の総合病院です。そのため、小児がん経験者の長期フォローアップ外来を行っており、就学や就労で転居される方の対応もお引き受けしています。お勤めしている30~40代の乳がんの患者さんが多いことや、妊娠期にがんが見つかった患者さんのがん治療と出産の患者さんも通院されています。また、近隣のがん治療を行う医療機関との生殖医療の連携が多いことも特徴です。これらの背景からAYA世代の患者さんへの支援が求められており、2019年にAYAサバイバーシップセンターを設立しました。当院の相談支援センターは、がん相談と医療連携を担当しておりますので、外来受診やセカンドオピニオンの予約調整など、受診前からサポートに関わることも特徴だと思います。外来では、院内の生殖医療やA(思春期)世代、YA(若年成人)世代専門の看護師とスムーズに調整し、専門看護師や薬剤師、心理士や栄養士、ハローワークの相談員や社労士、ファイナンシャルプランナーなど院内外の方と、医療だけでなく相談支援でもチームで対応しています。また、人間ドックも行っていますので、がんの治療後の長期フォローも連携しています。

AYA世代の患者さんに対応する際、心掛けていることや意識していることはありますか。

橋本さん:最初に電話をかけてこられる際は、何をどう相談すればよいかわからないという不安や緊張を抱いている様子がうかがえますので、その方のリズムや雰囲気などを感じながら、「ここに電話してよかったのですよ」と、緊張し過ぎず安心していただけるよう心掛けています。病院の人と話をする機会が頻繁にある世代ではないですし、電話では相手の顔もわかりません。がんの相談であれば「がん」という言葉さえ誰かに告げることに慣れていないと感じることもあり、繊細な気持ちを想像しながら関わるようにしています。

治療が終わり、完治した後の小児がん経験者の相談窓口としての役割

小児がん治療が終わった経験者の方たちには、どんな相談ごとがあるのでしょうか。

橋本さん:小児期にがん治療を受け、その治療や疾患そのものによりすでにさまざまな合併症をお持ちの方がいます。これらを小児科でずっと診療していくわけにはいきませんし、大学進学、就職、結婚によって、生活圏が変わると、通院しやすい病院を探さなければならないわけです。人が集まりやすい東京の中央にあるわたくしたち聖路加国際病院にはさまざまな地域から問い合わせをいただいています。海外から日本に帰国する準備として通院先の問い合わせを受けたこともあります。関東圏の小児がん拠点病院は、小児病院とがんセンターしかないことも理由の一つでしょう。彼らが、がん以外の合併症を、小児期を過ぎた以後、長期的に診療することは困難です。がん診療のことを理解した上で、成人期に入った合併症の診療に加え、現在は未発症の晩期合併症のことも視野に入れて、院内外の成人診療科との連携に試行錯誤努力しながら、患者さんと一緒に考えるようにしています。

がん治療による生殖機能への影響の気付きを与え、その時点で可能な限りの情報提供を行う

AYA世代のがん患者さんは妊よう性や生殖機能の維持について自発的に相談されるのでしょうか。

橋本さん:相談支援センターを見つけて電話をかけてこられる方は、初めは受診科や相談の予約ができる時期、費用、治療による見た目の変化などの相談が多く、最初から妊よう性や生殖機能の維持について相談する方は多くはありません。

立花さん:私は乳腺外科外来で勤務しています。不妊治療中にがんの診断を受けた方は、元々関心が高いこともあり、最初から相談することが多い印象です。それ以外の方は医師が治療内容を説明していく中で、がん治療による生殖機能への影響を知り、初めて気付くことが多いようです。当院のブレストセンター(乳腺外科)では、初診時の問診票に今後の妊娠・出産希望やその場合の女性総合診療部の受診希望を問う項目があり、そこで気付く方もいらっしゃいます。こちらでどの程度の年齢の方に生殖機能温存に関するお話をするべきか線引きはできませんが、今後の希望はご本人しかわかりませんので、なるべくすべての方を気に掛けています。

気付きに至った患者さんにはどのような支援をされていますか。


リプロ外来で渡している、妊よう性温存療法について解説した冊子

橋本さん:一通り標準治療の見通しを話した後に、現在は卵子・精子の凍結保存など妊よう性温存の相談も可能なので、がんの治療法を決定していく際に、自分の人生の大事なこととして子どもを持ちたいという希望を医師にお伝えした方がいいと話しています。また当院の女性総合診療部には不妊や生殖医療の専門の医師・看護師がいるので、当院に通院可能な方には受診を勧めています。当院への通院が難しい方の場合でも、現在おかかりの医療機関が連携を取っている生殖医療の病院やクリニックもあるかもしれないので、まずはそのような医療機関に連携を取っていただけるよう自分から担当医に希望を相談するとよいと話しています。

中村さん:私は不妊治療専門看護師として女性総合診療部に勤務しています。リプロ外来(がん患者さんのための妊よう温存を専門とした外来)にいらっしゃる患者さんには、男女別の妊よう性温存療法について解説した冊子をお渡しし、医師に相談するよう案内することもあります。私自身も火曜日と金曜日のカウンセリング外来の枠の中で妊よう性の相談を受ける専門外来を持っています。血液がんで治療を急ぐ方、10代、20代前半の未婚の方で今の時点で将来の出産や妊娠のことまで考えるのは難しいという方もいらっしゃいますが、選択肢として情報をできるだけ提示するようにしています。

情報提供の先の意思決定支援も重要な役割

AYA世代のがん患者さんへの支援では特に何が必要になるでしょうか。

橋本さん:10代のときに血液がん治療を受けた方が、その時には将来の子どもより命を優先ということで妊よう性温存をせずに治療を受けた方がいました。その方が、20代半ばになって改めて、自分が今後子どもを持てる可能性がないか調べたいということで、女性総合診療部を紹介したところ、やはり妊娠は難しい状態になっていたことがわかりました。ご本人は非常にショックを受け号泣されていました。時間の経過とともに気持ちが揺れ動くのは仕方のないことですが、「あのとき知っていれば」という後悔がないよう、私たちは今伝えられることを精一杯伝え、患者さんが目の前の問題にしっかり向き合えるよう支援する必要があると思います。

立花さん:私たちが患者さんと濃厚に関わることができる時期は治療前や治療中で、治療終了後の経過観察の段階など来院頻度が減ってくると、フォローが難しくなります。そのため、できるだけ治療期間中に、今後何か気持ちの変化が生じて情報が必要になったときは、私たちや相談支援センターにいつでも相談できることや、どこで信頼できる情報にアクセスできるかといった情報提供も行うようにしています。

結婚や妊娠が身近な状況にないと、意思決定は難しそうですね。

北野先生:AYA世代の特にA(思春期)世代寄りの若い方は、将来の想像がつかない中で意思決定をしなければなりません。十分な情報提供や話し合いがないまま妊よう性温存をしなかった場合、がん治療が終了後、その先の未来で好きな人との子どもが望めない状況になってしまいます。相談支援センターの存在を知っていただくとともに、私たちも単に情報提供にとどまらず、患者さんに寄り添った意思決定支援をすることが、非常に重要だと思います。

中村さん:妊よう性の温存について理解が追いつかなくても、話を聞いたり相談したりできる場所があるので、迷っていたらまず相談してほしいです。妊よう性を温存できなかった場合でも、温存療法を試みたことが励みになって、がん治療への前向きな取り組みにつながったケースも経験しています。妊よう性について具体的にイメージできるよう、患者さんの世代やニーズに合わせた支援が大事だと思います。

相談支援センターは患者さんの応援団

がんと診断されたAYA世代の患者さんへ、メッセージをお願いします。


患者さんのお話を伺う相談員

橋本さん:AYA世代の患者さんは、答えがない様々な人生と治療の選択を連続して行わなければならないため、その時々に正しい情報を自分で手に入れることがとても大切です。病気も治療も日進月歩でひとつ調べただけでは足らないほどの多様な情報が得られる時代ですので、正しい情報をキャッチできるひとつの拠り所として、そして、治療のその後も相談支援センターを活用して自分らしい生き方の選択も広げていただきたいです。

中村さん:がんと診断され混乱している中で、妊よう性という問題が同時に進行し、さらに混乱が生じていることと思います。私たちは患者さんの現状と将来の見通しをお話しするだけでなく、状況を知った上での患者さんの選択や、将来のためのことを考える時間を応援していますので、ぜひ応援する人や場所があるということを知っていただければと思います。

立花さん:治療は、医療従事者が病気とともにその方の今後の人生も一緒に考えてこそだと思います。こんなことを相談していいのかなと思うことでも、とにかく病院や相談支援センターに相談してみてください。私たちから1人ひとりに声を掛けることが難しい面もありますので、ご自身が必要だというときに自分から一声掛けるという一歩を踏み出していただきたいと思います。

北野先生:人生の早い段階でがんを告知され、将来を不安に感じている方がいらっしゃると思いますが、今や日本人の2人に1人ががんになる時代1)です。たまたま早い年代に罹患したことも多様性のひとつだと思います。それでも、若いからこそ抱く不安や、心配、悩みがあると思います。当院は令和3年度より東京都から正式にAYA世代のがん相談支援事業を委託され、全てのAYA世代の患者さんたちにワンストップで情報と診療を提供できる体制を整えています。1人で抱え込まず、いつでもご相談ください。私たちはいつも患者さんの応援団として、共に歩んでいきたいと思っています。

1)がん情報サービス:最新がん統計 https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html別ウィンドウで開きます(2021年7月閲覧)

2021年7月取材

必要な支援に「つながることができる」場所、相談支援センターを活用してください

聖路加国際病院 小児科部長/AYAサバイバーシップセンター 副センター長
小澤 美和先生

小児がんや乳がんの患者さんを多く診療している当院の相談支援センターでは、AYA世代の支援にも力を入れてきました。がんと診断された若い世代の患者さんだけでなく、幼い頃に罹患した病気の影響に成人してから気づいた方にも、必要なサポートをワンストップで提供できる体制を目指しています。患者さんのニーズを拾い上げ、適切な支援につなげることができるよう、医師や看護師をはじめ医療スタッフや外部の専門家と連携し、チームで対応しています。

相談支援センターがどんなところかわからず、敷居が高いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。そういう場合は、まずは相談支援センターが行っている各種のイベントに参加してみてください。仕事やお金、外見のケアなど、さまざまなテーマでイベントが開催されています。イベントに参加することで、どんなことを相談できるのか、どんな方が相談に乗ってくれるのかがわかり、相談するイメージがわきますよ。

2021年12月公開 / 2023年12月改訂