緩和ケアセンターとがん相談支援センターが協力しあって患者ケアの充実を図る~産業医科大学病院 緩和ケアセンター・がん相談支援センター

相談風景

がん患者さんがより安心して治療に専念できるよう、緩和ケアセンターやがん相談支援センターの整備、相談支援の充実が、がん診療連携拠点病院を中心に進められています。今回は産業医学、産業保健に特に力を入れている産業医科大学病院の緩和ケアセンタージェネラルマネージャー/緩和ケア認定看護師の安髙久美子さんと、がん相談支援センター/緩和ケアセンターに所属するソーシャルワーカーの近藤貴子さんに、実際の相談支援内容について伺いました。

多職種で構成される緩和ケアチームと専門の相談員が様々な相談・悩みに柔軟に対応

産業医科大学病院の緩和ケアセンター・がん相談支援センターの特徴について教えてください。


産業医科大学病院 緩和ケアセンタージェネラルマネージャー/
緩和ケア認定看護師 安髙 久美子さん

安髙さん:緩和ケアセンターの設置は、地域がん診療連携拠点病院の設置義務要件ではないのですが、当院では2014年10月、時代に先駆けて設置されました。大学病院ですので希少がんの患者さんが紹介受診されること、急性期病院でもあることから、急性期から終末期の患者さんをまんべんなくケアしている点が特徴でしょうか。また緩和ケアチームのコアメンバーは、身体症状担当医、精神症状担当医がそれぞれ1名、緩和ケア認定看護師が私を含めて4名、その他ソーシャルワーカー、緩和担当薬剤師、栄養士ですが、さらにサポートメンバーとして、放射線科医、麻酔科医、歯科口腔外科医などがチーム内におり、サポートできる分野が幅広く、さまざまな相談事に対応できる点も特徴だと思います。

近藤さん:がん相談支援センターは、緩和ケアセンター外来と同じフロアを共有し、看護師3名、ソーシャルワーカー1名(緩和ケアセンター兼任)が患者さんやご家族の相談ほか、院内の医師やスタッフからも患者さんに関する相談を受けています。また、当院を受診していない、地域のがん患者さんに対しても無料で相談に応じています。当センターの特徴としては、メンバーのなかに両立支援コーディネーターが3名、がんゲノム医療コーディネーターが1名おり、院内の他部門との情報共有や協働ができる点だと思います。

両センターでは具体的にどのような相談が多いのでしょうか。

安髙さん:緩和ケアセンターでは、身体症状や精神面に関すること、その他就労や経済的なことなど社会的な問題、今後の療養場所などの相談が多いですね。最近は、新型コロナウイルス感染症の流行の影響で、入院患者さんの外出・外泊や家族との面会はほぼ禁止という状況のため、患者さんもご家族もかなり精神的な負担が増大しています。退院後の生活や今後の療養先について、そもそも家族と相談が十分にできないことや、転院先が見つかりにくいといった問題も出てきています。特に残り時間が少なくなった患者さんやご家族は、一日一日が大切な時間となるのに、感染予防のため一緒に過ごすことができず、患者さんの孤独・ご家族の無力感などは計り知れません。そばに家族がいてくれる患者さんでも、孤独を感じることは多々あります。社会情勢として仕方ないとはいえ、今年のように強制的に会えない環境となると、より症状が重く出てしまうといった悪循環もあります。そういう意味では、患者さんが抱える苦悩は、今までのものとは少し傾向が変わったという印象があります。

近藤さん:がん相談支援センターには、全般的ながん情報やセカンドオピニオン、がんゲノム医療について知りたいという方、心の悩みを相談したい方からの相談や、同じ悩みを持っている人とつながりたいといった相談があります。また社会的な関わりという点で、治療をしながら働くことへの不安や、利用できる助成制度や療養生活についてお悩みの方、家族との関係については、治療と家庭生活の両立や、家族への病気の伝え方に悩まれる方が多くいらっしゃいます。緩和ケアセンターは、基本的に主治医から依頼があって介入するのに対し、がん相談支援センターは患者さんやご家族が直接相談に来られることが多いのですが、チーム医療の介入が必要と判断した場合は、就学・就労支援センター、緩和ケアセンターなど各種専門の分野につなぐなど、臨機応変に対応しています。

子育て世代の患者さんでは子どもへの告知が大きな課題

働く世代の患者さんは子育て世代でもありますが、子育て世代特有の相談はありますか。

安髙さん:子育て世代の患者さんは、治療の副作用や症状の進行などで子どもさんの面倒がみられなくなったときに、物理的な子どもの世話だけでなく、親としての役割葛藤などについても、どうすればいいのかを必ずといっていいほど悩んでいらっしゃいます。特に緩和ケアセンターでは、症状の重い患者さんの相談を受ける機会が多いこともあり、お子さんに自分の病気について伝えるか否か、伝える場合もどういう伝え方がいいのか悩まれる方が多いですね。一般的には、子どもにきちんと伝えたほうがいいというのがいまの標準ですが、伝えたくないという思いをお持ちの患者さんには、その気持ちをしっかりと受容したうえで、なぜ伝えたくないのかを時間をかけて伺います。さらに伝えること、伝えないことのメリット・デメリットの両方をお話しします。よくあるケースとして、伝えない選択をしている患者さんのうち、心配をかけたくないという理由の場合には、そのときの患者さんの視点は、子どもではなく自分に置かれていることが多くあります。つまり、伝えたくない自分が中心になっているのです。そこで、子どもの立場だったらどうかと置き換えて考えていただくようにしています。一時的には、悪い知らせから子どもを守ることはできたとしても、長期的な子どもの成長につながるのかどうか、親との時間の使い道を子どもなりに選択しなくていいのかなども考えていただいて、結論を出すようにしてもらいます。伝える選択をした患者さんにも、伝えるタイミングや気持ちの部分で、結果的に伝えられなかったということもあると、予めお伝えしています。最終的に伝えられなかったとしても、一生懸命考えていたことは事実ですから、伝えられなかったという結果は気に病まなくてよいということをしっかり説明します。また、お子さんの側の聞きたいか聞きたくないかという意思も尊重したうえで伝えるかどうかを決めるようにアドバイスしています。

近藤さん:がん相談支援センターでは、より現実的な相談が多いですね。やはり収入や就労の影響が大きく、例えば住宅ローンや養育費、教育費をどう捻出するかといったことは、子育て世代で一番多い相談だと思います。患者さんが父親の場合と母親の場合でも、サポートの仕方が大きく異なります。患者さんが子育てを主に担ってきた母親の場合、例えば入院したときに、学童のお迎えや子どものお世話をどこにお願いするのかといった相談が多くなります。こうした場合は、ファミリーサポートセンターや保育園の一時保育を紹介するなど、社会資源を利用し、地域で包括的な支援体制を整える必要があります。逆に患者さんが父親の場合は、経済的な相談内容が主になります。傷病手当だけでは生活がままならなくなり、特にお子さんが高校生や大学生の場合は金銭的な負担が非常大きいため、学校の奨学金に関する説明、ときには実際の収入と必要性のある出費とのやりくりをご家族と一緒に話し合うこともあります。

お子さんに病気を伝える際にはいろいろ工夫が必要になりそうですね。


がん相談支援センター/緩和ケアセンター ソーシャルワーカー
近藤 貴子さん

近藤さん:伝えるタイミングは、私たちも含め、皆さんが悩まれますが、例えば患者さんが脱毛する時期や、横になる時間が増えてきたとき、味覚障害が出てきたときなどが、伝えるタイミングとして挙げられます。目に見える様子の変化や、料理の味付けの変化などから、お子さんが何か異変を感じるときが、タイミングのひとつだと思っています。ほかにも、学校行事などで、お子さんが親の参観を期待して待っているのに行けないと伝えるときなどが、病気について伝えるタイミングになると思います。

安髙さん:実際に伝えるときには、お子さんの年齢や理解力はばらばらですので、お子さんの成長発達段階に合わせて、理解できる言葉を使うことが重要です。どの年代のお子さんに対しても「がん」という言葉を一度は必ず出して、簡単に治るとは限らないとしっかり伝えることも重要です。また、お子さんの年齢によっては、自分が悪いことをしたからお母さんやお父さんに悪いことが起こってしまったと考えてしまうことがあるため、「あなたのせいではない」ということも、しっかりメッセージとして患者さんの言葉で伝えることが大事だと考えています。治療の副作用などで気分が悪いときに、自分のせいではないかと誤解をする子どももいますので、「気分が悪くて優しくお話しできない日があるかもしれないけど、治療のせいだから、ごめんね」などと予め子どもに話しておくことも有用です。伝えることそのものや伝え方に悩んでいる患者さんには、がんについて説明した絵本や子ども向けのパンフレットなどをお渡しすることもあります。こうしたツールを参考にして、患者さん本人の言葉で病気を伝えやすくなることもあるようです。親である自分が泣いてはいけない、親だからしっかりしている姿を見せないといけない…ということにとらわれる必要はないと思います。大切なのは、この一大事に親がどのように対峙しているか、がんばっている姿勢を見せることです。泣きながら話すことになっても構わないと思います。

家族で困難を乗り越えるための環境を整える

がんと診断された子育て世代の患者さんとそのご家族へ、メッセージをお願いします。

安髙さん:がん患者さんが持つ課題はさまざまですが、なかでも働く世代の方が病気になった場合は、病気によって家族や社会のなかでの関係性を見直さざるを得なくなります。病気の意味や、生きる意味といった深い部分の苦悩を抱えてしまうことも多いのですが、心配してくれる人が周りにいても、なかには周囲から孤立する方もいらっしゃいます。そのような場合でも、私たち医療者とはつながることができますし、私たちは心身を整えてがんと生きていく力を作るお手伝いができます。がんと向き合う早道は、なぜこんな病気になってしまったのかという後悔よりも、今の感情を自然なものと受け止めて、今後に向けて環境調整をすることだと思います。ただ、それは容易なことではありませんから、私たち医療者をぜひ利用していただきたいですね。

近藤さん:子育て世代の患者さんのなかには、がんによってお子さんにかわいそうな思いをさせるのではと心を痛めてしまう方がいらっしゃいます。しかし子どもには柔軟な感受性や環境への適応力など多くの可能性があり、きっとこの経験はお子さんにとって、たくましく生きる糧になると思います。私たちは、ご家族で一生懸命に何かを考え、悩み、心を動かしたことも、お子さんの温かい心を育む時間になると考え、日々対応しています。ひとりで背負う必要はありません。抱えきれない不安や心配を話してください。ぜひ、がん相談支援センターへ足を運んでください。

2020年8月取材

気軽に相談できる場として活用を

産業医科大学保健センター副センター長/
両立支援科診療部長/
就学・就労支援センター副センター長
立石 清一郎先生

「はなす」は「話す」である一方、自分の苦しさから少し離脱する「離す」と捉えることもできます。患者さんは緩和ケアセンターやがん相談支援センターという名前を聞くと、非常に仰々しい印象を持つかもしれませんが、実際は、ちょっとした悩みも気軽に相談できる場です。
働く世代の患者さんは、ただでさえふだんの生活が大変なところにがんが加わり、自分が苦しい思いを抱えている、つらい状況にあるということ自体に気付いていないことがあります。当院の緩和ケアセンター・がん相談支援センターには、素晴らしいスタッフがたくさんおり、これまでも様々な支援の事例を経験してきました。相談内容が明確な方はもちろんですが、悩み自体が何なのか曖昧な場合でも、少しお話しいただくことで、私たちは患者さんのニーズを言語化するお手伝いができます。私たちのスキルを信頼していただき、ぜひ両センターを活用していただきたいと思います。