小児がんでも妊孕性温存を
~子どもの将来を見据えた治療の可能性を考える~

(2022年10月公開)

病院の診察室で主治医から診断の結果を聞く橋本親子3人。母親のカナエ(42歳)と父親のトオル(43歳)の間に、娘のサクラ(10歳)が座っている。主治医:先日の肋骨の手術の結果ですが…ユーイング肉腫というがんでした。ショックで息を呑む親子3人。主治医:がん自体は完全に取り切れましたが、この後は主に薬物治療と放射線治療を組み合わせて追加の治療を行います。

主治医:ただ薬物や放射線を使用することで卵巣などの生殖機能に影響が出て、将来妊娠が難しくなる可能性があるんです。カナエとトオル:そんな…。ショックを受け、サクラを見つめるカナエとトオル。サクラ:わたし、将来お母さんになれないんだ…。うなだれるサクラに寄り添うカナエとトオル。主治医は親子の様子を気遣いながら提案する。主治医:今はがん治療の開始前に生殖機能を温存する方法があります。生殖専門の医師を紹介しますので、ぜひ専門家の話を聞いて考えてみてください。

夜、自宅でテーブルをはさみ、青ざめた顔で話し合うカナエとトオル。テーブルには医師からもらったがん治療の資料が乗っている。トオル:俺はサクラの命を守る治療を最優先したい。カナエ:でも…私は子どもを産む機能を残してあげたい。固い表情のトオルと、泣きはらした目をしたカナエ。夫婦連れだってサクラの寝室へ移動し、泣き濡れたサクラの寝顔を見つめる。トオル:そうやって治療を遅らせて万が一…。カナエ:…わかってる。

カナエ:でもやっぱり…。決意を固めるカナエ。数日後、主治医に紹介された病院の生殖外来で、医師の話を聞くカナエとトオル。医師:生殖機能に影響を与える治療を開始する前に、小児科の先生から卵巣や卵子を凍結保存する方法があることはお聞きになっていますか? カナエとトオル:はい。伺っています。不安そうな顔で頷くカナエとトオル。トオル:夫婦で話し合ったんですけど…結局どの選択をすればいいか決められませんでした。

トオル:あの…生殖機能の温存を優先して治療が手遅れになったらと思うと不安で。トオル:それにただでさえ小さな子で体も弱っているのに卵巣を摘出してしまって大丈夫なんでしょうか。医師は優しく頷きながら話を聞いている。カナエ:でも私は病気が治ったら…。カナエ:あの子には恋愛や結婚も普通の子と同じように経験して、充実した人生を送ってほしいんです。

カナエ:がん治療のせいでサクラが将来子どもを持つことのできない体になる…。カナエ:それをわかっていながらなにもしないなんて…親としてそんな選択できない…。カナエの手を握るトオル。トオルは固く決意した表情で医師に言う。トオル:子どもを産む機能は残したままサクラの命を守ることはできますか。夫婦の手に医師も自分の手を重ねる。医師:私たちも患者さんには病気を治すだけじゃなく、その後も幸せな人生を歩んでほしいです。

医師:可能な限りがん治療を遅らせずに生殖機能を温存することも可能です。医師:今日の午後にでも小児科の主治医の先生や看護師さんとカンファレンスで相談し、サクラちゃんのがん治療が遅れないやり方で卵巣組織凍結の手術日を決めたいと思います。カナエとトオルの顔が明るくなる。カナエとトオル:…はい! 小児科外来の日差しの入る明るい部屋で、看護師とサクラが話をしている。その様子を、後ろからカナエとトオルが並んで見守っている。

看護師:入院とか副作用とかちょっと辛い治療もあるかもしれないけど一緒に頑張ろう。不安そうな顔のサクラ。その表情を見て、看護師はさらに続ける。看護師:サクラちゃんが将来子どもを産めるように、お父さんもお母さんも私たちも出来る限りのことをしてあげたいと思っているから。看護師:不安なことがあったらいつでも頼ってね。看護師はサクラを安心させるように笑顔で胸を叩く。サクラ:パパもママも先生たちも、わたしのために一生懸命考えてくれてるんだね。サクラはぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、看護師に言う。サクラ:手術や治療は不安だけど頑張るよ。その様子をドア付近で見守っているカナエとトオル。カナエとトオルは、サクラの将来を守るために自分たちも頑張らなくちゃと気持ちをあらたにする。

自宅のリビングでノートパソコンを開き、カナエがサクラとトオルに、Webにのっている小児サバイバーの体験談を見せている。サクラ:少し不安だったけどわたしと同じ病気で頑張ってる子がいるんだね。サクラ:わたしも頑張るね!サクラの様子を見て、涙ぐみながら笑顔になるカナエとトオル。家族3人で抱きしめあう。カナエ:家族みんなでサクラを支えるから一緒に頑張ろうね!

10年後、二十歳になったサクラが自宅に恋人を連れてきて、カナエとトオルに紹介している。サクラ:今お付き合いしてるリョウタくん。リョウタ:はっはじめまして山田リョウタと申します。緊張している様子のリョウタ。カナエとトオルは、サクラとリョウタのやりとりをほほえましく見守りながら、サクラに人生の選択肢を残すことができて本当によかったと実感している。