授かった命も自分の命もあきらめたくない
~納得できる選択をするために~

(2021年12月公開)

夜、リビングダイニングで夕食を取っているカナコ(37才)とヒロフミ(32才)。カナコが思いつめた様子で箸を置く。カナコ:……。心配そうに聞くヒロフミ。ヒロフミ:どうした?カナコは自分のお腹を愛おしそうに触りながら見つめる。カナコ:…私、がん治療のために赤ちゃんを諦めるなんて無理…。

涙を浮かべるカナコと、それを見て言葉に詰まるヒロフミ。カナコ:でも、治療が遅れて生きてられなくなったらと思うと…。A総合病院の診察室で医師から冷たく告げられた言葉を思い出すカナコ。医師:出産は諦めて中絶してから治療するか、7ヶ月まで待って帝王切開で出産してからがん治療を始めるか選んでください。泣くカナコにヒロフミが手をのばす。カナコ:やっぱり私はお母さんになれないのかな…?まじめな表情のヒロフミが、食卓の上でカナコと手を握り合っている。ヒロフミ:…じつは俺もあのあと 調べてみたんだ。静かに切り出すヒロフミ。ヒロフミの言葉を聞いてはっとする様子のカナコ。ヒロフミ:セカンドオピニオンを受けてみる?もしかしたら、ほかにも方法があるかもしれないよ。

B総合病院の診察室。セカンドオピニオンを受けに来たカナコとヒロフミが緊張の面持ちで座っている。乳腺外科医がふたりに笑顔で語りかける。乳腺外科医:妊娠されているんですね、おめでとうございます!暖かく祝福され、驚くカナコとヒロフミ。二人に微笑みかけ、乳腺外科医が説明を始める。乳腺外科医:まず、私から乳がんの手術について説明しますね。その後、薬物治療や出産について各担当医から説明します。乳腺外科医の説明を聞くカナコ・ヒロフミ。

次に腫瘍内科医が登場し、やさしく語り掛ける。腫瘍内科医:私からは薬物治療についてご説明します。腫瘍内科医の説明を聞くカナコ・ヒロフミ。今度は産婦人科医が登場し、おだやかに話しかける。産婦人科医:最後に 妊娠についてお話しします。

産婦人科医の説明を聞くカナコ・ヒロフミ。情報の多さにカナコとヒロフミは少し混乱している。そこへ、産婦人科医のうしろに控えていた看護師が、優し気に申し出る。看護師:不安なことやわからないことなど、よかったらこのあと伺いますよ。カナコとヒロフミは顔を見合わせ、頷く。カナコ:お願いできますか?

カウンセリングルームに移り、カナコとヒロフミは看護師に相談する。カナコ:やっと授かった命なんです。諦めたくなくて、でも治療しないと悪くなるんじゃ、って不安もあって…。看護師は優しくうなずきながら話を聞いている。看護師:…また疑問が出てきたら、検査で来院された際にお話ししましょう。安心した顔になるカナコとヒロフミ。カナコとヒロフミ:ありがとうございます!

帰宅中の車内で、窓の外を眺めながらカナコがつぶやく。カナコ:こんなに選択肢があるなんて思わなかった…。ヒロフミ:しっかり考えて、納得して選ばないとね。少し不安そうに、カナコはヒロフミを見る。カナコ:選べるかしら。まっすぐ前を見つめ、真剣な表情のヒロフミ。ヒロフミ:選ばなきゃ。自分たちのことだもの。ヒロフミの答えを聞いて、カナコもしっかりと頷く。

B総合病院で、カナコとヒロフミは腫瘍内科医や産婦人科医、看護師に何度も相談を重ねた。そして夜、カナコとヒロフミは自宅で話し合った。カナコ:お医者さんや看護師さんと何度も話して…やっと考えがまとまったの。ヒロフミ:うん。カナコ:私 やっぱり…。

数か月後、B総合病院にて、幸せそうにあくびする赤ちゃんがいる。病室でヒロフミが赤ちゃんを抱くカナコの写真を撮っている。夫婦ともに幸せそうな笑顔を浮かべている。ヒロフミ:カナコ、ユミ、こっち向いて!そこへ腫瘍内科医と看護師がやってくる。腫瘍内科医:倉田さんこんにちは。体調はいかがですか?カナコ:落ち着いてきました。この子も無事に生まれて本当によかったです。

赤ちゃんを見つめながら嬉しそうに話すヒロフミ。ヒロフミ:妊娠したまま抗がん剤や手術をするっていう選択肢を知らないでいたら、この子には会えなかったかもしれません。微笑む腫瘍内科医。腫瘍内科医:お二人が頑張ったからですよ。カナコとヒロフミ:ありがとうございます!カナコとヒロフミは、この先、どんな未来が待っているかわからないけど、しっかり話しあって、納得できる道を選んでいこうと決意する。