ママになるのをあきらめない。
~がん治療に二人で向き合う~

(2021年6月公開)

朝、高橋ユリコ(32歳)とコウジ(33歳)の自宅。二人で朝食を済ませると、ユリコが慌てて立ち上がる。ユリコ:あっ、もうこんな時間。出勤の準備をするユリコ。ユリコ:ごめん、お皿洗っておいてくれる?コウジ:わかった。そこに置いておいて。コウジは食器をシンクに下げる。申し訳なさそうに謝るユリコ。ユリコ:在宅勤務だからって家の事任せっぱなしでごめんね。

コウジ:ユリコは仕事大変なんだから気にするなよ。俺は時間に余裕あるから。ユリコに優しく返事をするコウジ。ユリコ:ありがとう。ユリコの部屋。着替えているユリコ。ユリコは、結婚して半年たつけど、忙しくて全然落ち着かない……。子どもも早く欲しいけど、もうちょっと落ち着いてからかなあ、と思いながらブラジャーをつけた時、自分の胸に異変を感じる。ユリコ:なにこれ…しこり…?

数日後、病院の診察室。検査を終えたユリコとコウジは、主治医から診断結果を聞く。主治医:検査の結果ですが…高橋さんは乳がんです。ショックを受けるユリコとコウジ。ユリコ:そんな…。主治医は治療の説明をするが、ユリコはショックで主治医の話が耳に入らない。主治医:乳がんの治療の基本は手術です。最近は傷跡の目立たない手術が可能ですし、乳房を残すことも可能です。

うつむくユリコの横で、コウジが先生の話に頷きながら、一生懸命メモを取っている。主治医:手術の前、もしくは後に抗がん剤治療を行うこともあります。副作用は──。ユリコ:はい…。私が乳がんなんて…と戸惑うユリコ。子供も早く欲しいけど…と考えていたことを思い出し、ハッとする。子どもは産めなくなっちゃうの?と心配になるユリコ。呆然としているユリコに、主治医が優しく尋ねる。主治医:高橋さん、出産は希望されますか?ユリコ:できるんですか!?表情が少し明るくなったユリコに、主治医が笑顔で返す。主治医:治療中の妊娠は抗がん剤による影響が胎児に出てしまう可能性がありますが、治療後なら可能ですよ。ユリコとコウジは少し安心して、顔を見合わせる。その後、カウンセラーに相談するユリコとコウジ。

ユリコとコウジの自宅リビング。PCで乳がんの治療を調べながら二人が話し合っている。ユリコ:乳がんの手術って、胸は全部取られちゃうのかな。先生の話を聞いていなかったユリコに驚くコウジ。コウジ:先生が、残す方法もあるって言ってたよ。ユリコ:そうだっけ?…ごめんなさい、あの時頭が真っ白で…。自分のことなのに…。うつむくユリコを励ますコウジ。コウジ:急にがんだって言われたんだからしょうがないよ。俺がメモとってたから大丈夫。コウジのメモは所々字が震えて、読めなくなっている。ユリコ:ありがとう。コウジも動揺していたと察したユリコは小さくお礼を言う。

ユリコ:仕事は治療が落ち着くまで休職がいいかな……。コウジ:そっか。ユリコ:はやく復帰できるように治療がんばるね。コウジ:無理しなくていいから、ゆっくりがんばろう。ユリコの手を握るコウジ。涙を浮かべるユリコ。ユリコ:うん。主治医に確認したいことを書き出す二人。不安げだったユリコの表情はだんだんと柔らかくなっていく。コウジ:子どもはどうしようか。

ユリコ:欲しいけど…。もしできても、再発したら成長を見届けられないかもしれない…。そうなったらコウジに迷惑がかかっちゃうし…。うつむくユリコ。コウジは、ユリコの肩を寄せる。コウジ:悪いことばかり想像しないで。どんな形でも、一緒に生きていく未来を考えよう。

数ヶ月後、病院の外来化学療法室。コウジに付き添われ抗がん剤を投与しているユリコ。そこへ主治医が様子を見に来る。主治医:こんにちは、高橋さん。調子はいかがですか。ユリコ:受精卵の凍結もできて、少し安心しました。

治療を開始する前に妊孕性温存療法について診察室で医師から説明を受けている様子を回想。主治医:もちろん、がん治療が最優先ですが、治療を始める前に受精卵を凍結保存しておくことで、将来子どもを授かる可能性を残しておくことができるんですよ。(回想終わり)ユリコ:子どものこととか、仕事はどうしようとか…がんを宣告されたときはどうなるかと思いましたが、今は迷いなく治療に向き合えています。主治医は安心したように微笑む。

コウジが主治医に向かい、はっきりと言う。コウジ:僕が治療の間も、治療を終えたあとも、夫として支えていきます。コウジの様子を見て、ユリコは安堵したような表情を浮かべる。主治医:一緒にがんばっていきましょうね。はい、と明るく笑顔で返事をするユリコとコウジ。