パパががんになったとき…~娘の成長にうれしい驚き~

(2020年3月公開)

車中にて。助手席で外を見つめるシンジ(40才)と、運転する妻のアケミ(40才)。2人とも表情が暗い。診察室で主治医に告げられた言葉を思い出している。主治医:シンジさんは、胃がんです。表情をより一層険しくするシンジ。アケミ:がんのこと、ナツキに伝えるべきなのかしら。娘の気持ちを案じ、呟くアケミ。

シンジ:もしもし、母さん?自宅にて、真剣な表情で電話をしているシンジ。ナツキ(5才):ねぇママ。パパ、おばあちゃんにでんわしてるの?わたしもでんわしたい。アケミ:ナツキ、いまパパは大切なお話をしてるから、ママと一緒に絵本読もっか?ナツキ:えぇーっ。数日後、夕食を食べている3人。

浮かない表情で黙々と食事をしているシンジと、心配そうに見守るアケミ。ナツキ:ごちそーさま。ナツキの声にハッとするアケミ。アケミ:ナツキ?もういらないの?ナツキ:うん、おなかいっぱい。アケミ:でも、全然食べてないじゃない。ナツキのお皿には、少ししか手をつけられていない食事が残っている。ナツキ:いーの。ダイニングテーブルを離れ、絵本を眺め始めるナツキ。アケミ:ナツキ。心配そうに見つめるアケミ。

ナツキが寝ついた後、話し合うシンジとアケミ。机に資料やパンフレットを広げている。アケミ:あなた、あの子にも話したほうがいいかしら?シンジ:まだ5才だぞ?アケミ:でも最近あの子、元気ないのよ。ご飯も大好きなおやつも食べないし、いつもならまだ遊びたいって寝る前にせがむのに、今日だって素直にベッドに入ったわ。もしかしたらナツキなりに、何か感じ取っているのかもしれない。シンジ:だからといって伝えたほうがいいのかどうか。あ。シンジは手元に広げていたパンフレットに目を留める。がん相談支援センターのパンフレットの表紙に、お子さんと向き合うがんと書かれていた。

がん相談支援センターにて。相談員と面談するシンジとアケミ。アケミ:まだ夫ががんであることを娘に話していないんですが、以前よりも元気がないんです。シンジ:とはいえ娘は5才ですし、がんを理解することも難しいかなと。むしろ話すことによって、もっと不安にさせるのも。相談員:元気がないのは心配ですね。実はお子さんって、意外とお父さんやお母さんのことをよく見ているんです。ちょっとでもいつもと違う様子があると、敏感に感じ取って、パパとママどうしたんだろう?って、不安に思っているのかもしれません。アケミ:そうなんですね。顔を曇らせるシンジとアケミ。

シンジ:でも伝えたらもっと。相談員:仰る通りです。だから伝え方がとても大切になります。他の患者さんの場合ですと。話し込む3人。相談員:もちろん、お子さんに伝えない患者さんもいらっしゃいます。娘さんの様子を見て、ご自分たちでしっかりと考えることが重要です。伝えることでお子さんなりに考えるようになりますし、ご両親も無理に隠さなくてもよくなるというメリットもあるんですよ。シンジとアケミ:わかりました。

夜、自宅にて。暗い表情で絵本を眺めているナツキの前に、シンジがしゃがみ込む。シンジ:ナーツキ、今日は新しい絵本があるぞー?ナツキ:え?はた、と顔をあげるナツキ。シンジは、ずっといっしょだよという題名で、猫の家族が描かれた表紙の絵本を見せる。ナツキ:わぁ、パパ、よんでよんで。一変して目を輝かせるナツキ。家族3人でソファに腰かけ、シンジが絵本を読む。

シンジ:もう大丈夫。これからはずっといっしょだよ。おしまい。ナツキ:にゃーちゃん、よかったねぇ。涙ぐむナツキ。シンジ:あのね、ナツキ。じつはパパも、にゃーちゃんのパパと同じで病気になっちゃったんだ。ナツキ:えっ。ショックを受けるナツキ。シンジ:それで今度、この病気をやっつけるために入院して手術を受けることになったんだ。ナツキ:パパとママがげんきなかったの、びょーきのせい?シンジ:うん、ちゃんとお話してなくてごめんね。顔を俯かせるナツキの頭をなでるシンジ。

ナツキ:ちゃんとなおる?にゃーちゃんのパパみたいに帰ってくる?アケミ:治るようにしっかり治療をしてくるのよ。不安そうなナツキを励ますため、笑顔で説明するアケミ。ナツキ:わかった。ナツキ、パパが病気をやっつけられるように、応援してるね。想像と違い、頼もしいナツキに驚き、涙目になるシンジ。シンジ:ありがとう。抱き合う3人の姿。

入院当日。病室でナツキを膝にのせるシンジ。アケミは看護師と話をしている。ナツキ:ねぇパパ、からだだいじょうぶ?シンジ:うん、ありがとうな。ナツキがシンジを気遣う様子を見て、アケミと看護師は暖かく微笑む。看護師:優しい娘さんですね。アケミ:でもあの子、昨日はわんわん泣いてたんです。でも、思っていた以上に、あの子は立派でした。成長した娘を思って涙ぐむアケミと、背中をさする看護師。笑顔で抱き合うシンジとナツキ。