治療に専念していられない事情
~最適な治療を受けるために~

(2019年7月公開)

病院の待合室にて、会計を待つため、並んで腰掛けている笹川ツヨシ(43歳、サラリーマン)とマナミ(41歳)。思い詰めているツヨシを心配そうに見つめ、ツヨシの手にそっと手を重ねるマナミ。ツヨシは浮かない表情で静かに医師の説明を思い出す。医師:今回の精密検査で、肺がんが見つかりました。あなたにあった治療法を一緒に考えていきましょう。ツヨシは心の中で、いやでも、先生もああ言ってたし、なんとか気持ちを前向きにしないと、と自らを奮い立たせ、マナミの手をぎゅっと握る。小さく微笑むツヨシとマナミ。

受付:123番でお待ちの笹川様ー。マナミ:はーい。番号を呼ばれ、会計を済ませるため受付へ向かうマナミとツヨシ。受付:本日はばつばつ円です。マナミ:あっ、はい。想定よりも高額な金額に一瞬言葉を詰まらせるマナミ。財布からお金を出しながら、検査費用だけでこんなにかかるなんて。これから大丈夫かしら、と今後のことに不安を覚える。だけどツヨシには治療に専念してもらいたいし、帰ったら家計を見直そう、と決心するマナミ。

翌日の晩、自宅にて。通帳や家計簿を開きながら、スマートフォンを片手に頭を抱えるマナミ。マナミ:え。治療費ってこんなにかかるの?マナミは改めて通帳をみて言葉を失ってしまうが、ツヨシも頑張るんだから、わたしも頑張らないといけないよねと、不安を払いのけるために頭を左右に振る。そして家計簿に書き込んでいると、ツヨシが帰宅する。ツヨシ:ただいまー。マナミ:おかえりー。夕飯用意するね。キッチンで夕飯を準備するマナミ。ツヨシはダイニングテーブルのそばでネクタイを緩める。

マナミ:おまたせ。あっ。マナミが料理を運ぶと、先程書き込んでいた家計簿をツヨシが見ている。家計簿にペンで、削る、目指せマイナス16,000円などと書き込んだのを思い出し、気まずく思うマナミ。ツヨシ:今週末、がん相談支援センターに行かないか?マナミ:え?ツヨシはマナミに体を向け、真剣な表情で話す。ツヨシ:実は昨日病院でポスターを見かけてさ。そこに行けば治療の話だけじゃなくて、医療費や仕事についても相談ができるんだって。病院で見かけた、がん相談支援センターへご相談くださいと書かれたポスターを思い出すツヨシ。マナミ:そうなんだ。

ツヨシ:本格的に治療が始まったら、マナミにはすごい迷惑をかけるし。マナミ:迷惑なんかじゃないよ。ツヨシが申し訳なさそうに話すと、それに被せるように声を発するマナミ。必死なマナミに、ツヨシはふっと微笑む。ツヨシ:ありがとう。利用できる制度とか仕組みもあるかもしれないし、色々詳しく教えてもらおうな。マナミ:えぇ、そうね。柔らかい雰囲気で夕飯を食べる2人。週末。相談支援センターへやって来た2人。ツヨシ:今日はよろしくお願いします。相談支援センターの相談員:はい、よろしくお願いします。相談室内で、2人と相談員が向かい合って座り、話し込む。

相談員:他、何かご心配なことはございますか?マナミ:あのー。マナミは少し話づらそうに口を開く。マナミ:これまで将来のために貯金はしてきましたが、先日初めて検査を受けた際に、医療費が想像以上に高くて驚きました。ツヨシ:でも治療に専念するとなると、休職や退職も視野に入れないといけませんし、それによって収入が減りますよね?だから今後どうしていくべきか悩んでいます。相談員:そうですよね。突然生活が変わるということで悩んでいらっしゃる方はとても多いです。ちょうど本日、社労士の方がいらっしゃっているので、同席いただきましょうか。相談員の言葉に、きょとんと顔を見合わせるツヨシとマナミ。

社労士:通院をしながらお仕事を続けている方もいらっしゃいますよ。ツヨシ:えっ、そうなんですか?社労士の言葉に驚くツヨシとマナミ。相談員の隣に社労士が座る形で、4人で話し合っている。社労士:お勤め先の福利厚生にもよりますが、例えば通院時間に合わせて時短で勤務されていたり。ツヨシ:なるほど。入院期間だけ休職という扱いなら、続けることもできるかもしれない。社労士:治療が終わって復職されるときのことも考えると、福利厚生がどのようになっているかを確認しつつ、上司の方と今後の方針を話し合われた方が良いと思います。マナミ:でも、時短勤務にしたとしても、収入は減りますよね?

社労士:そうですよね。ただ次のような公的制度もあるので、活用されてはいかがでしょうか?背景に公的制度の障害年金と医療費控除(確定申告時)が記載されている。社労士:医療費控除ですと、一年間の医療費が10万円を超えていれば、確定申告の際に最大200万円まで受けることができます。対象となる項目は、診察代や治療費、薬代などです。メモを取るマナミ。ツヨシ:あのー、障害年金ってなんですか?年金ってありますけど、僕でも受け取れるんですか?社労士:高齢になって受け取る年金のことを老齢年金といいます。障害年金は若い方でも20歳以上で条件に該当すれば受けられる制度なんです。ツヨシ:具体的にはどんな条件なんでしょうか?

社労士:条件は全部で3つです。背景に3つの条件が並ぶ。障害の原因となった病気やけがの初診日に、国民年金又は厚生年金に加入していること。障害の状態が障害認定日に、障害等級表の1~3級(国民年金の場合は1級又は2級)に該当していること。保険料の納付要件を満たしていること。社労士:障害等級表というのは。話し合いを続ける4人。話し合いが終わり、部屋から出た4人。社労士:他にもまた気になることが出てきましたら、お気軽にご相談くださいね。相談員:一緒に頑張りましょう。ツヨシ:ありがとうございます。不安だらけだったけど、ちょっと肩の荷がおりました。マナミ:またよろしくお願いします。表情がスッキリ明るくなったツヨシとマナミ。

後日、自宅にて。マナミ:実はね、ちょっと相談があるんだけど。洗濯物をたたみながら、ツヨシに話を切り出すマナミ。ツヨシ:どうした?マナミ:わたし、パート始めようかなって。ツヨシ:えっ。マナミ:よく買い物に行くスーパーがちょうど募集しててね。あそこなら自宅や病院からも通いやすいじゃない?私もツヨシと一緒に立ち向かいたいから。にこっとほほ笑むマナミ。ツヨシは黙って見つめる。ツヨシ:ありがとう。涙目になるツヨシ。ツヨシは、自分たちのためにも仕事は辞めずに続けていこうと決意した。