これからもよろしくね
~がんになって改めて感じる夫婦の絆~

(2019年4月公開)

主人公のサエコは40代の乳がん患者。薬の副作用により食欲不振気味で、少し痩せ型。舞台は現代の日本のマンション。夫婦が向かい合って、夕飯を食べている。夫のユウジ(40代):ごちそうさま。完食し、穏やかに食事を終えるユウジ。暗い表情のサエコの前に並んだ食器には、半分以上料理が残っている。ユウジ:サエコ、食欲沸かない?サエコ:うん。ちょっと調子も悪くて。ユウジ:そっか。俺が洗っておくから休んでな。サエコ:ごめんね。傍にあるソファで横になるサエコ。それを心配そうに見てから、食器をさげるユウジ。

家事を終えたユウジは、紅茶を淹れたマグカップをソファで横になっているサエコに差し出す。ユウジ:飲む?サエコ:ありがと。サエコは起き上がりソファに座りなおすと、マグカップを受け取る。ユウジがサエコの隣に座る。ユウジ:最近ちょっと痩せてきた?サエコ:あはは、やっぱりわかる?食べないといけないってわかってるんだけどね。痩せないと~ってダイエットしてた頃が懐かしいや。ユウジを心配させまいと、空元気するサエコ。

翌日。病院の外来窓口にて。受付担当:次の受診日は、18日でいかがでしょうか?サエコ:はい、お願いします。手帳のカレンダーをみながら答えるサエコ。すると、もうすぐ結婚記念日だということを思い出す。これまでは毎年一緒に食事に行っていたけど、と帰り道を一人で歩きながら考えるサエコ。ユウジと楽しくコースメニューを食べている姿を回想する。サエコ:今年は難しそうね。悲しげにポツリと呟くサエコ。

同じ頃、帰宅途中のユウジは駅のホームで電車を待つ。浮かない顔つきで、結婚記念日と表示されたスマートフォンのカレンダーをみつめる。ねぇねぇ今年はどこのお店行く?和食?洋食?と、グルメ雑誌を広げ、ウキウキしているサエコの姿を思い出すユウジ。ユウジは、いや、諦めるにはまだ早いよな。食欲が無くても楽しめるようにするには、どうすればいんだろうと考え、スマートフォンで調べる。ユウジ:あっ。ユウジが唐突に声をあげたため、驚く周りの乗客たち。ユウジは恥ずかしそうに、すみませんと言いながら、改めて画面を見つめる。ユウジは、これなら良いかもと表情を明るくする。

夜、自宅のリビングのソファにて。スマートフォンで姉とテレビ電話しているサエコ。その隣にはユウジが座っている。サエコ:えっ?明日?サエコの姉:うん。久しぶりに一緒にショッピングとかどう?たまには思いっきりお洒落してさ。気になってたカフェがあるんだよね~。サエコ:でも明日って。少し戸惑いながら隣にいるユウジを気にするサエコ。ユウジ:いいんじゃない?最近は体調も落ち着いているし、お義姉さんがいるなら安心だ。サエコの姉:やった。じゃあ決まりね。ユウジ:家事は俺に任せて。サエコ:う、うん。分かった。通話を切るサエコ。ユウジってば記念日なのに忘れちゃたのかな、と困惑しているサエコを後目に、ニコニコと何故かご機嫌なユウジ。

翌日。サエコ:それじゃあ、行ってくるね。夕飯前には帰るから。お洒落しているサエコだが、晴れない表情。サエコの姉と家を出てショッピングに向かう。ユウジ:いってらっしゃ~い。ユウジは2人を玄関で見送り扉をしめると、よっし、と気合いを入れる。ユウジ:まずは掃除だ~。エプロンをつけ、張り切って掃除機をかけるユウジ。

夕方。サエコ:ただいま~。ユウジ:まずい。サエコが自宅に戻ると、ドタドタと騒がしい足音と、ユウジの声が。サエコ:ユウジ、どうかした。ユウジのもとへ向かうサエコ。サエコ:えっ。ユウジ:お、おかえりー。少し慌てた様子のユウジ。サエコ:ど、どうしたの、これ?驚くサエコ。ダイニングテーブルには少し不格好なトマトと大豆のパスタやラタトゥイユ(野菜の煮物)、ポタージュスープが並んでいる。ユウジ:いやー、今日は結婚記念日だし、サエコを驚かせたくって。照れ笑いするユウジ。

サエコ:覚えてたんだ。ユウジ:そりゃあ、もちろん。ポツリと呟くサエコに、前のめりになるユウジ。ユウジ:今年もちゃんとお祝いしたいけど、レストランだとサエコも気を遣っちゃうんじゃないかって思ってさ。でも家なら関係ないだろ?だから、食欲が無くても食べやすくて、栄養バランスの取れるメニューを調べて、自分で作ってみたんだ。ユウジの心遣いに感動するサエコ。トマトと大豆のパスタは、トマトの酸味で食べやすく、大豆で不足しがちなたんぱく質も補える。ラタトゥイユは、じっくり煮込むことで食物繊維やビタミンを摂取しやすく胃に優しい。ポタージュスープは胃に優しくて、身体を温めつつ、水分補給ができる。(がんwithのレシピサイト「食べたくなる、作りたくなる食薬レシピ」をご活用ください)

ユウジ:ただやっぱ全部を俺1人で作るには難しかったから、出来合いのものもちょっとあるけど。サエコが座る椅子を引くユウジ。ユウジ:お義姉さんには、俺がサエコと出かけるようお願いしたんだ。サエコ:そういうことだったのね。ありがとう。サエコは嬉し涙を流す。ユウジ:ちょっ、泣くなって。サエコ:ふふっ。慌ててハンカチを差し出すユウジを見て、思わず笑うサエコ。サエコ:さっそくいただこうかしら。サエコは幸せそうな顔で、フォークとスプーンを使いパスタを巻く。

サエコがパスタを口に運ぶのを、心配そうに見つめるユウジ。サエコ:とってもおいしい。ユウジ:よかった。安堵した表情のユウジ。ユウジ:それじゃあ、あらためて。ユウジとサエコ:乾杯。ワイングラスを手に、幸せそうに食事をする2人。