ママ、がんになっちゃった
~息子が私の元気の源~

(2018年12月公開)

主人公であるミサは乳がん患者、36才。薬の副作用により、髪が少なく、肌色も悪く、頬もこけ気味なのを気にしており、あまり外出をしなくなった。休日の午後。ショウ(5才):ママ、公園行こ~。自転車の練習したい。ミサ:ごめんね、今日はちょっと。ミサは少し困った表情で断る。ショウ:えぇー。カズヤ(38才):ショウ、そしたらパパと一緒に行こうか。ショウ:え~パパ。残念がるショウ。ショウ:僕、ママと行きたいのに。カズヤ:そんなこと言うなって~。ショウを連れて玄関へ向かうカズヤ。ミサは申し訳なさそうに、2人を見送る。

カズヤは息子のショウに本を読み、寝かしつけたあと、ミサと話し合う。ミサ:今日はありがとうね。自転車、乗れるようになってきた?カズヤ:補助輪を外すには、もうちょっとかかりそうだ。ミサ:毎日頑張ってるし、もうすぐよ。微笑むミサ。ミサ:あの子にも寂しい思いさせちゃってるわよね。今日、私のことママって呼んでたじゃない。最近はしっかりしてきて、お母さんって呼ぶようになってたのに。申し訳なさそうにするミサ。カズヤ:そういえばたしかに。

ミサ:本当は私も一緒に見届けたいんだけど、どうしても気がのらなくて。ミサは自分のこけた頬を触りながら、目を伏せる。カズヤ:一度相談支援センターに相談してみたらどうだろう。カズヤの提案に少し戸惑うミサ。カズヤ:ミサと同じ悩みを抱えている人が、他にもたくさん居ると思うんだ。何か解決の糸口があるかもしれない。少し考えた後、意を決するミサ。ミサ:うーん。病院の帰りに相談員さんに聞いてみるわね。ありがとう。

後日、がん相談支援センターに立ち寄るミサ。帽子をかぶり、マスクをつけている。相談支援センターの担当者:お子さんと外出できない、と。ミサ:えぇ。お恥ずかしい話ですが、どうしても周りの視線が気になってしまって。なるべく外出は控えるようにしているんです。相談員:恥ずかしくなんてありませんよ。そういったご相談はよく伺います。ミサ:そうなんですね。相談員:ちょうど今週末、メディカルメイクの講習会が開催されますよ。ミサ:メディカルメイク?ミサは興味を示し、相談員からメディカルメイク講習会と書かれたチラシを受け取る。

相談員:がん治療によってお肌や髪について悩んでらっしゃる患者さんのために、1人1人に合わせたメイクの方法や、ウィッグのかぶり方まで幅広くコーチしてくれるんです。ミサ:すごい。こんなに変わるんですね。メディカルメイクによって肌や髪が実際にカバーされた患者さんの写真をみて驚くミサ。相談員:同じ悩みを抱えている方との出会いの場にもなりますし、一度ご参加されてみてはいかがでしょうか。ミサ:そうですね。チラシを見つめ、明るい表情になるミサ。

メディカルメイク講習会の当日。自宅で帽子をかぶるミサ。ショウ:ママ、今日も病院?ミサの服の裾を掴み、寂しそうな表情でミサに尋ねるショウ。ミサ:うん、そうなの。カズヤ:ショウ、今日はママにとって大事な日なんだ。ショウ:分かってるもん。ショウはパタパタとリビングへ駆けて行ってしまう。ミサ:ショウ。駆けていくショウを心配そうな表情で見るミサ。カズヤ:ショウは大丈夫だから気にしないで。ミサ:いつもごめんね。いってきます。

メディカルメイク講習会の会場。自己紹介の場面にて。参加者A:お肌の変色を人に見られるのがイヤで、大好きだった趣味の旅行が億劫になってしまったんです。せっかくの家族との時間なのに、私だけ心から楽しめなくなってしまったのが悲しくて。私と一緒だと思うミサ。その後、メイクの講義や実技講習を受けるうちに、ミサの表情が徐々に明るくなっていく。

講習会を終えて帰宅するミサ。ミサ:ただいまー。ショウ:ママだ。ママー。ミサの帰宅に気づいたショウは嬉しそうに玄関へ駆け出す。カズヤとショウ:おかえりー。玄関でミサを迎えるカズヤとショウ。ミサ:あはは、どうかな。ウィッグとメイクをして明るい笑顔をみせるミサ。帽子もマスクもつけていない。ショウ:びっくりした。すっごいキレイ。ミサ:ありがとう、ショウ~。ミサに抱きつくショウ。ミサもしゃがんで抱き返す。カズヤ:よかったな。ミサ:うん、ありがとう。ミサとカズヤはショウ越しに微笑む。

ミサ:ショウ、明日は一緒に公園行こっか。ショウ:いいの。驚きながらミサに聞くショウ。ショウ:でもママ、元気ないんでしょ。ショウはミサを気遣う。ミサ:ううん。ママね、ショウと一緒にお出かけできない方が、元気なくなっちゃうってわかったんだ。カズヤ:うぅ~。カズヤの声にミサとショウが振り返る。ショウ:あはは、パパ泣いてる~。ミサ:ちょ、ちょっとなんでアナタが泣いてるのよ。カズヤ:うぅ~。だって~。嬉しそうに涙を流すカズヤ。

翌日。近所の公園にて。ミサ:ショウがんばれ~。緊張した面持ちで自転車に乗るショウと、それを後ろで支えているカズヤを見守るミサ。カズヤ:そろそろ離すぞ~。ショウ:うん。カズヤが自転車からそっと手を離したあとも、すいすいと自転車をこいで進むショウ。ショウ:わっ。お母さん、お父さん。乗れたよ~。ショウは誇らしげに笑う。息子の成長を喜ぶミサとカズヤ。